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一瞬の美を切り取る!科学の“インスタ映え”写真を解説

コンテストの大賞は「リヒテンベルク図形」、どうやって発生する?
 写真に切り取られた一瞬の美しさに目を奪われることがある。毎年4月に実施している文部科学省の科学技術週間の60回目の記念イベントで、科学技術団体連合は文科省と共催で「科学の美」インスタ写真コンテストを実施した。大賞には阿南工業高等専門学校の荒井誉麗さんらが応募した「木の表面に描かれるリヒテンベルク図形」が選ばれた。美しさには理由がある。その背景を科学の目で見れば新しい世界が開けるかもしれない。

阿南高専 沿面放電「リヒテンベルク図形」(大賞)


 阿南高専の学生が木の板に高電圧をかけ、その際にできた模様を撮影した。家庭用電源の電圧を3000ボルトまで上げられる装置や安全装置、煙を取り除く装置などで構成。木の板を用意し、その表面に霧吹きをかけ電流を流しやすくした後、板の対角線上に電極を置き高電圧をかけた。両電極に電流が流れようとして対角線上に模様が伸びている。

 できた図形は「リヒテンベルク図形」と呼ばれる。絶縁材料の表面や内部の放電の跡を可視化したものを指す。電気を通さない材料である絶縁体に高い電圧をかけると電流が流れようとして絶縁体の表面に電流が流れることがあり、これを「沿面放電」と呼ぶ。電流の流れた跡が木の焦げ跡として残っている。沿面放電の研究は電子部品に使われる材料開発に貢献している。

農研機構 ルリモンアゲハの後翅、青色構造色部分


ルリモンアゲハの後翅の青色構造色部分

 ルリモンアゲハの後翅(こうし)の青色構造色部分の内部を撮影した。農業・食品産業技術総合研究機構の研究者が走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。SEMは電子線を絞って電子ビームを対象に当て、対象物から出る電子やX線、蛍光などを検出し対象物を観察する手法で生命科学の研究で使われている。

 チョウの翅には鱗粉(りんぷん)と呼ばれる微小なかけらが敷き詰められている。表面は筋状で、断面を拡大すると複雑な多層膜の構造を取っている。

 この構造により垂直に光を入れると青色の光を最も強く反射するため、青く見える。この生物の構造をまねた技術は「バイオミメティクス」と呼ばれ産業利用が期待されている。

 ルリモンアゲハは東南アジアや中国などに分布するアゲハチョウの仲間。後翅にある瑠璃紋があることが名前の由来とされている。

理研 微細藻類の仲間「ユーグレナ」


微細藻類の仲間「ユーグレナ」

 理化学研究所の研究者が撮影した写真は微細藻類の仲間の「ユーグレナ」。赤い部分は眼点と呼ばれ、名前の由来になっている。この赤い色素の塊を通して、光の向きを感じ取り光に向かって泳ぐ性質を持つ。

 ユーグレナはミドリムシとも呼ばれ、鞭毛(べんもう)で移動するという動物的な性質を持ちながら、葉緑体を持ち光合成を行う。0・1ミリメートル以下の単細胞生物で紡錘形。

 同じ名前を持つ企業「ユーグレナ」がミドリムシを利用した事業を展開している。栄養価が高いため、宇宙で培養し食料に変える技術が期待されている。地上ではミドリムシを利用した航空機燃料の開発など多くの用途が期待されている。さらに産業技術総合研究所の研究グループはミドリムシ由来成分が70%を占める樹脂を作っており、新素材の開発にも期待が集まる。

原子力機構とKEK チタンサファイアレーザー


チタンサファイアレーザー

 緑色レーザーの光路や赤く光るサファイアのコントラストが実験室を暗くすると夜景のように輝く。

 日本原子力研究開発機構と高エネルギー加速器研究機構(KEK)が共同運営する大強度陽子加速器施設「J―PARC」(茨城県東海村)の「物質・生命科学実験施設」(MLF)で使っているレーザーの一部。緑色のレーザーでチタンサファイア結晶を励起し波長を変換した近赤外光を出す。

 これはチタンサファイアレーザーと呼ばれる固体レーザーの仕組み。チタンを含むサファイアの結晶を利用し緑色の光を赤外から近赤外領域の光に変換できる。フェムト秒(フェムトは1000兆分の1)レベルのごくわずかな時間だけレーザーを照射できるパルスレーザーに使われる。ごく短い化学反応を観察する実験やレーザー加工などで利用されている。

海洋機構とNHK 海底の超大型チムニー


海底の超大型チムニー

 海底からの熱水噴出で形成された超大型の煙突状鉱体(チムニー)の威容を、「8K」のカメラで撮影した。全高20メートルを超える雄大な姿に目を奪われる。どれだけ時を費やしてここまで成長し、これまでどれだけの生物に恩恵を与えてきたのだろうか。チムニーに住む多様な深海生物がその長い歴史を物語っている。

 海洋研究開発機構とNHKはハイビジョンカメラの16倍の解像度を実現する「8Kスーパーハイビジョン技術」と海中光学技術を融合し、深海で使える高解像度カメラを開発。深海無人探査機「かいこう」に搭載し、東京の南に位置する小笠原海域の水深1300―1400メートルの深海底で撮影した。

 近年では採取が難しい生物や鉱物、海底環境などを映像から評価することが求められている。

※チムニーの写真は海洋機構、NHK提供。残りは科学技術団体連合提供
(文=冨井哲雄、飯田真美子)
日刊工業新聞2019年5月6日

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