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【上海モーターショー】現地取材で記者が聞き出した各社の言葉

【上海モーターショー】現地取材で記者が聞き出した各社の言葉

市場は急ブレーキがかかっているが、上海ショーは各社が競演する

 【上海=渡辺光太】日系自動車メーカーが中国市場の攻略に向けて電気自動車(EV)など新エネルギー車(NEV)を拡充する。16日に開幕した上海モーターショーでは、NEVの初披露が相次いだ。中国市場は政府が環境規制などを強化しており、2020年以降にNEV市場が拡大期を迎える見通し。規制動向を見据えながら各社がNEVに本腰を入れ始めている。

 トヨタ自動車は、小型スポーツ多目的車(SUV)「C―HR」の電気自動車(EV)を初披露した。同時公開した兄弟車「イゾア」のEVとともに、20年に発売する。トヨタが中国で自社ブランドのEVを展開するのは初めて。その理由について、吉田守孝トヨタ副社長は「中国における新エネ車は高いニーズがある。電動車をずっとやってきた当社の実績が受け入れられるはずだ」と述べた。

 一方、ホンダは現地合弁会社の東風ホンダと開発したEVを19年後半にも販売する。広汽ホンダが発売する中国専用EV「理念VE―1」に続く、「EVシリーズの第2弾」(水野泰秀本田技研工業中国投資総経理)と位置付ける。これにより合弁相手の中国の2社と投入する主力EVが出そろった格好だ。20年にはプラグインハイブリッド車(PHV)も導入し、電動車を拡充する。

 EVで先行する日産自動車は、現地ブランド「ヴェヌーシア」のSUV「T60EV」など3車種を年内に投入する。三菱自動車は、クロスオーバー型SUV「e―Yi CONCEPT」のPHVを初公開した。EV走行モードでは時速70キロメートル以上で、700キロメートルを超える走行距離を実現する。

 満を持して、中国攻略に向けた電動車を打ち出した各社。NEVの分野では現地のEVメーカーや欧州勢が先行しており、日系メーカーは追撃する。

トヨタはNEV協業加速、有望技術獲得狙う


 【上海=渡辺光太】トヨタ自動車の吉田守孝副社長は16日、日刊工業新聞社などの取材に応じ「環境規制のクリアに向けて現地電気自動車(EV)メーカーとの協業を増やす」と述べ、EVなど新エネルギー車(NEV)の分野で提携や協業を加速する方針を示した。中国で2019年に始まったEVなどの生産を義務付ける「NEV規制」に対応する。NEVを手がける企業からクレジットを安定的に購入するほか、NEV分野での有望な技術を獲得する狙いだ。

 第1弾としてEVメーカーの奇点汽車と協業する。同社はトヨタが外販する電動車の設計・生産に関わる技術を利用して、自社のEVの性能向上やコスト削減を進める。トヨタは奇点汽車が生産したEVなどを基に、余剰クレジットを得る。

 トヨタは合弁先や自社ブランドのNEVを生産販売することに加え、他社からクレジットを購入することでNEV規制をクリアする戦略だ。

 NEV規制で定められるクレジットは19年が10%だが、20年は12%と厳格化していく。規制をクリアできないと、エンジン車などの生産が制限される。足元で中国市場が好調なトヨタは規制クリアに向けて確度を高め、販売や生産への影響を払拭(ふっしょく)する。

 また中国で合弁事業は2社までとする外資規制が緩和されておりNEV分野では3社目が可能なほか出資比率に制限がない。そのため、トヨタはNEVを手がける現地新興企業への出資や共同事業なども視野に入れる。
上海モーターショーで初公開したトヨタのSUV「C―HR」のEV

新車販売、28年ぶり前年割れで「質」へシフト


 【上海=渡辺光太】28年ぶりに新車販売台数が前年割れとなった中国の自動車市場。拡大基調に急ブレーキかかった格好だが、中長期的に拡大するのは大勢の見方だ。現地メーカーを含めて量だけでなく質の成長に向けて動き出しており、世界最大市場である中国との向き合い方を再考している。

 中国汽車工業協会によると2018年の中国の新車販売台数は、前年比2・8%減の2808万600台と28年ぶりに前年比でマイナス。米中貿易摩擦が購入意欲の減退を招いている。「特に民族系が打撃を受けている」(日本メーカー幹部)ほか、貿易摩擦の影響を受けやすい米国メーカーのダメージが大きい状況だ。販売量に変調が起きる中、自動車の技術や品質など質の変化も起きている。

 現地メーカーはすでに単純な販売量の追求から、技術やブランド力の向上にシフトしている。王伝福比亜迪(BYD)会長は「市場は回復する。今は技術やブランドを高めることが重要だ」と長期的な戦略を見据える。

 開催中の上海モーターショーで、BYDは15分の充電で走行距離100キロメートルを実現した電気自動車(EV)を公開。奇点汽車は電池を限界まで小型化した小型EV「iC3」を発表するなど新興EVメーカーも技術を駆使しブランドを訴求する展示が目立った。

 一方日系でトップシェアの日産自動車。内田誠専務執行役員は「(量ばかり議論してきたことに)反省している。競争に勝つ強い企業が結局、販売台数を得る。ブランド力や競争力のあるコアモデルを伸ばすことが重要だ」と指摘。今後は人気車種に狙いを定めて拡充する方針だ。トヨタ自動車の吉田守孝副社長も「中国の中でも需要と競争力がある領域でやっていく。台数うんぬんではなく、質にこだわる」と気を引き締める。

 三菱自動車は電動化技術や走破性など強みを再度、車に取り入れる考え。益子修最高経営責任者は「これまでは成長の勢いとスピードに合わせて事業を行ってきた。今後は中身や質に注力する必要がある」と中国市場の節目を意識する。






日刊工業新聞2019年4月17日/18日

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