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駅ナカ支配人も兼務、駅長の仕事はどこまで変わる?

「武蔵境駅」にみるイノベーションの潮流
駅ナカ支配人も兼務、駅長の仕事はどこまで変わる?

JR武蔵境駅長兼ノノワ武蔵境支配人の立川竜三さん(右)

 交通の要衝である「駅」の役割が、時代とともに変わり始めている。こうした駅の変化が地域経済や鉄道事業者の経営にもたらす影響も少なくない。人口減少が進む地域では、駅に病院や役所など公共機能を取り入れ、電車利用以外の人が集まる仕組み作りが加速する。その一方、太陽光発電など再生可能エネルギーを取り入れるエコステーションや、訪日外国人(インバウンド)の拡大で多言語対応システムを導入するなど駅を取り巻く環境や時代の変化に合わせ、最新技術を取り入れる動きもある。

 東京・武蔵野市にある武蔵境駅はJR中央線、西武多摩川線の2路線が乗り入れる。駅ナカにはスーパーマーケットなどの店舗が入り、夕方の帰宅ラッシュの時間帯には多くの人が行き交う。一見、都心から離れた郊外のベッドタウンにはよくある武蔵境駅だが、JR東日本が子会社のJR中央ラインモールを通じて、駅と商業施設「ノノワ」を一体運営するという先駆的な取り組みをしている。

国鉄民営化後、JR東日本が駅ナカの開発に力を入れ、駅の中に商業施設があるのは、日常風景の中にも定着した。JR東日本はその先を見据え、駅と商業施設の一体運営という、次なる課題にチャレンジしている。

 JR東日本が三鷹―立川間の高架化に伴い、高架下のスペースを開発する目的で中央ラインモールを設立したのは、2010年。9キロメートルの高架下のスペース、面積にして約7万平方メートルの開発とともに、武蔵境駅、国立駅、東小金井駅の3駅の駅業務を受託している。

 武蔵境駅の事務室は商業施設の事務室を兼ねており、担当者は列車の運行を管理しながら、店舗の売り上げもチェックしている。立川竜三武蔵境駅長は「バックオフィスを一体化することで、生産性の向上につながる」と話す。立川駅長はノノワ武蔵境の支配人も兼ねる。

 JR中央ラインモールは地域を限定した商業施設の開発や駅運営に特化した子会社として、地域活性化にも力を入れる。中でも武蔵境駅はイベントが最も盛んで、沿線のブルワリーを集めて18年9月に開催した「ビールフェスタ」は1万人が来場した。

 イベントには駅の一角にあるフリースペースを活用する。通常はテーブルといすが置いてあるだけで、店舗として開発するなど、効率的な利用方法がありそうだが、「この地域は駅周辺にも店舗がオーバーストアの状態。むしろ、フリースペースを活用して仕掛けを作り、人を呼ぶことに注力している」(中島征胤JR中央ラインモール開発本部担当部長)と話す。

 駅と商業施設の一体運営はJR東日本としても試行的な段階にある。藤井悟史取締役営業本部長は「地方で同じような仕組みが出てくる可能性がある」と話す。立川駅長は今後の課題として「駅と商業施設、両方の運営のスキルを持つ社員の育成」をあげる。水平展開も見据え、運用面のブラッシュアップが求められる。
JR中央線、西武多摩川線の2路線が乗り入れる武蔵境駅
日刊工業新聞2019年4月11日

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