コンビニも宅配も…人手不足問題を解消する「日本型ロジスティクス4.0」の実力
<情報工場 「読学」のススメ#65>『日本型ロジスティクス 4.0』(前田 賢二 監修/(株)クニエ ロジスティクスグループ 編著)
**諸問題を一気に解決する
最近、国内ニュースで「人手不足」の問題が、よりクローズアップされる印象がある。特に問題が表面化しているのが「コンビニ」と「宅配」という二つの業界だ。
コンビニ最大手のセブンイレブンでは、フランチャイズ(FC)加盟店が24時間営業をやめたことで本部と対立している。言うまでもなく背景にあるのは人手不足だ。そのFCでは深夜シフトの人員を確保できなかったのだ。
宅配も同様、配達員やトラック運転手が圧倒的に不足しているという。これは宅配だけでなく物流全体にまたがる問題でもある。そのためにヤマト運輸が料金の値上げに踏み切ったのは記憶に新しい。
さて、前述のコンビニの24時間営業問題は、物流とも深く関わっている。コンビニが24時間営業をやめられないのは、深夜に弁当や惣菜などの商品が納入されるからだ。朝一で通勤客などに弁当を提供するには、深夜のうちに検品と陳列を済ませておかなければならない。他の商品も深夜に納入されることが多い。ゆえに深夜に客がゼロだとしても、開けておかねばならないし、店員も必要だ。
物流業者としては、もし深夜に納入できなければ、その分業務が昼間に集中し、人手が足りなくなる。つまり、コンビニで人手不足の対策をすると、物流にしわ寄せが行くのである。
しかし、こうした問題は、テクノロジーによって一気に解決できるかもしれない。必要なのは、IoT、AI、ビッグデータの組み合わせだ。商品にセンサーを取り付け、IoTで情報を管理すれば、検品の手間を省ける。陳列にはAIを搭載したロボットが使える。
物流も同様だ。トラックを自動運転にし、IoTやAIによるビッグデータの解析によって効率的な納入が可能になる。『日本型ロジスティクス 4.0』(日刊工業新聞社)は、そんな物流の未来を探っている。
物流とロジスティクスは同義で捉えられることが多いが、後者はマネジメント手法や概念を含む用語。ロジスティクス1.0は第一次産業革命による機械化、2.0は第二次世界大戦後のコンテナによる荷役の効率化を指す。現代に続くロジスティクス3.0はITによるシステム化の第一段階である。
そしてタイトルにもなっているロジスティクス4.0こそが、IoT・AI・ビッグデータによる効率化(省人化)と標準化に他ならない。これは、ドイツを中心にいま世界中で取り組まれている「インダストリー4.0」とも連動する考え方だ。
『日本型ロジスティクス 4.0』というタイトルの「日本型」に注目してみたい。いったいどういう点が日本型なのだろうか。
同書では「欧米型」のロジスティクスを「トップダウン型」と定義している。あらかじめ標準化された業務プロセス設計を行い、現場はそれに従い業務を執行する。部署や人材の役割分担も明確に定められる。現場の判断の余地はない。
それに対し日本型ロジスティクスは「ボトムアップ型」だ。システムを絶対視せず、突発的に発生する非定型業務にも、ベテラン作業員の「勘と経験」、現場の工夫で対応する。そのため、業務が属人化し、システム化に向かないのが大きな欠点だ。
人手不足を解消するには、欧米型のようなシステム化を推し進めるのが一番と思うかもしれない。属人化も避けられる。
しかし、同書の執筆者は、属人的な「勘と経験」や現場で培われた独自ノウハウなどは、日本の物流業界の「秘伝のタレ」であり、欧米にはない「強み」であると強調している。それを捨て去るのはもったいない、逆にそれを生かすべきだというのだ。
IoT・AI・ビッグデータという三種の神器をうまく活用すれば、日本型ロジスティクスの「強み」が生かせる。倉庫などの現場で荷物や人にセンサーを取り付け、あらゆるデータを収集し、ビッグデータを得る。それをAIが解析することで、ベテラン作業員の「勘と経験」に近い知見が得られるはずだ。
たとえば倉庫で作業中に、扱う荷物の一部に不良品が混入しているという情報が入ったとする。欧米型なら作業プロセスをいったん止め、検品をし直すしかない。大幅な遅れは止むを得ない。だが、日本型では、「勘と経験」や「現場の工夫」によって、遅れを最小限にしながら検品をこなす方法を見つけようとする。
AIによるビッグデータ解析で同様の最適解を見つけようとするのが「日本型ロジスティクス 4.0」なのだ。しかも、機械でそれができるということは「形式知化」「標準化」できることを意味する。
かくして、定型業務に関してはIoTやロボットなどを駆使してシステム化・効率化を極め、非定型業務は「AI+ビッグデータ」で対処する、隙のない「最強のロジスティクス」が誕生する。標準化されれば、非定型業務も機械に任せられるようになり、省人化にも結びつく。日本発のこのシステム全体の「輸出」だってできるだろう。
さらに、標準化されたものは、企業間で「シェア」もできる。複数社でシステムをシェアすることで、たとえば余っているトラックを繁忙地に融通するなど、業界全体での効率化が実現するはずだ。現在は、各物流業者がそれぞれのノウハウとシステムを持って競い合っているが、共通する「人手不足」という大問題に立ち向かうには、ライバル社とも手を取り合って「シェア」の方向へ舵を切ることも考えた方がいいだろう。
現実的には、ロジスティクス4.0に行き着くまでには、まだいくつもの壁を乗り越えなければならないのは確かだ。そこで日本型ならではの「強み」を「時代遅れ」などとネガティブに捉えていては、壁を前に立ちすくすだけ。しかし時代遅れどころか、最新のテクノロジーによって強みが生かせると思えば、前向きに革新に取り組めるのではないか。テクノロジーは常に進化しているので、すぐに楽々と壁を越えられるかもしれないのだから。
(文=情報工場「SERENDIP」編集部)
『日本型ロジスティクス 4.0』
-サービス多様化、物流費上昇、人手不足を一挙解決
前田 賢二 監修
(株)クニエ ロジスティクスグループ 編著
日刊工業新聞社
192p 2,200円(税別)>
最近、国内ニュースで「人手不足」の問題が、よりクローズアップされる印象がある。特に問題が表面化しているのが「コンビニ」と「宅配」という二つの業界だ。
コンビニ最大手のセブンイレブンでは、フランチャイズ(FC)加盟店が24時間営業をやめたことで本部と対立している。言うまでもなく背景にあるのは人手不足だ。そのFCでは深夜シフトの人員を確保できなかったのだ。
宅配も同様、配達員やトラック運転手が圧倒的に不足しているという。これは宅配だけでなく物流全体にまたがる問題でもある。そのためにヤマト運輸が料金の値上げに踏み切ったのは記憶に新しい。
さて、前述のコンビニの24時間営業問題は、物流とも深く関わっている。コンビニが24時間営業をやめられないのは、深夜に弁当や惣菜などの商品が納入されるからだ。朝一で通勤客などに弁当を提供するには、深夜のうちに検品と陳列を済ませておかなければならない。他の商品も深夜に納入されることが多い。ゆえに深夜に客がゼロだとしても、開けておかねばならないし、店員も必要だ。
物流業者としては、もし深夜に納入できなければ、その分業務が昼間に集中し、人手が足りなくなる。つまり、コンビニで人手不足の対策をすると、物流にしわ寄せが行くのである。
しかし、こうした問題は、テクノロジーによって一気に解決できるかもしれない。必要なのは、IoT、AI、ビッグデータの組み合わせだ。商品にセンサーを取り付け、IoTで情報を管理すれば、検品の手間を省ける。陳列にはAIを搭載したロボットが使える。
物流も同様だ。トラックを自動運転にし、IoTやAIによるビッグデータの解析によって効率的な納入が可能になる。『日本型ロジスティクス 4.0』(日刊工業新聞社)は、そんな物流の未来を探っている。
物流とロジスティクスは同義で捉えられることが多いが、後者はマネジメント手法や概念を含む用語。ロジスティクス1.0は第一次産業革命による機械化、2.0は第二次世界大戦後のコンテナによる荷役の効率化を指す。現代に続くロジスティクス3.0はITによるシステム化の第一段階である。
そしてタイトルにもなっているロジスティクス4.0こそが、IoT・AI・ビッグデータによる効率化(省人化)と標準化に他ならない。これは、ドイツを中心にいま世界中で取り組まれている「インダストリー4.0」とも連動する考え方だ。
トップダウンの欧米型ロジスティクスに対して日本型は「ボトムアップ」
『日本型ロジスティクス 4.0』というタイトルの「日本型」に注目してみたい。いったいどういう点が日本型なのだろうか。
同書では「欧米型」のロジスティクスを「トップダウン型」と定義している。あらかじめ標準化された業務プロセス設計を行い、現場はそれに従い業務を執行する。部署や人材の役割分担も明確に定められる。現場の判断の余地はない。
それに対し日本型ロジスティクスは「ボトムアップ型」だ。システムを絶対視せず、突発的に発生する非定型業務にも、ベテラン作業員の「勘と経験」、現場の工夫で対応する。そのため、業務が属人化し、システム化に向かないのが大きな欠点だ。
人手不足を解消するには、欧米型のようなシステム化を推し進めるのが一番と思うかもしれない。属人化も避けられる。
しかし、同書の執筆者は、属人的な「勘と経験」や現場で培われた独自ノウハウなどは、日本の物流業界の「秘伝のタレ」であり、欧米にはない「強み」であると強調している。それを捨て去るのはもったいない、逆にそれを生かすべきだというのだ。
IoT・AI・ビッグデータという三種の神器をうまく活用すれば、日本型ロジスティクスの「強み」が生かせる。倉庫などの現場で荷物や人にセンサーを取り付け、あらゆるデータを収集し、ビッグデータを得る。それをAIが解析することで、ベテラン作業員の「勘と経験」に近い知見が得られるはずだ。
たとえば倉庫で作業中に、扱う荷物の一部に不良品が混入しているという情報が入ったとする。欧米型なら作業プロセスをいったん止め、検品をし直すしかない。大幅な遅れは止むを得ない。だが、日本型では、「勘と経験」や「現場の工夫」によって、遅れを最小限にしながら検品をこなす方法を見つけようとする。
AIによるビッグデータ解析で同様の最適解を見つけようとするのが「日本型ロジスティクス 4.0」なのだ。しかも、機械でそれができるということは「形式知化」「標準化」できることを意味する。
かくして、定型業務に関してはIoTやロボットなどを駆使してシステム化・効率化を極め、非定型業務は「AI+ビッグデータ」で対処する、隙のない「最強のロジスティクス」が誕生する。標準化されれば、非定型業務も機械に任せられるようになり、省人化にも結びつく。日本発のこのシステム全体の「輸出」だってできるだろう。
さらに、標準化されたものは、企業間で「シェア」もできる。複数社でシステムをシェアすることで、たとえば余っているトラックを繁忙地に融通するなど、業界全体での効率化が実現するはずだ。現在は、各物流業者がそれぞれのノウハウとシステムを持って競い合っているが、共通する「人手不足」という大問題に立ち向かうには、ライバル社とも手を取り合って「シェア」の方向へ舵を切ることも考えた方がいいだろう。
現実的には、ロジスティクス4.0に行き着くまでには、まだいくつもの壁を乗り越えなければならないのは確かだ。そこで日本型ならではの「強み」を「時代遅れ」などとネガティブに捉えていては、壁を前に立ちすくすだけ。しかし時代遅れどころか、最新のテクノロジーによって強みが生かせると思えば、前向きに革新に取り組めるのではないか。テクノロジーは常に進化しているので、すぐに楽々と壁を越えられるかもしれないのだから。
(文=情報工場「SERENDIP」編集部)
-サービス多様化、物流費上昇、人手不足を一挙解決
前田 賢二 監修
(株)クニエ ロジスティクスグループ 編著
日刊工業新聞社
192p 2,200円(税別)>
情報工場 「読学」のススメ#65