自動車大変革、タイヤ・ゴム業界はピンチかチャンスか
大変革時代を迎えた自動車産業。各社はCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)対応を急いでおり、タイヤ・ゴム関連メーカーも例外ではない。電動化などで部品構成が大きく変わるため、新しい技術の開発や体制の再構築などを進める一方、タイヤから得られる情報の利活用も重要になる。各社生き残りをかけた戦略を練る。
CASEへの対応として、ブリヂストンは素材開発やサービスの強化に動く。ゴムのしなやかさと樹脂の強靱(きょうじん)さを併せ持つ新素材「ハイ・ストレングス・ラバー(HSR)」を開発した。
耐久性が特徴で、天然ゴムとの比較試験では、引き裂きに対する強度はHSRの方が5倍以上大きかった。天然ゴムの代替として薄くて軽いタイヤが製作でき、自動車の燃費向上などにつながり、電動化向けにも活用できると期待している。
タイヤ販売だけなくサービスまで含めたソリューションビジネスにも力を入れる。1月にインターネットを活用した車両管理サービスの蘭トムトムテレマティクスの買収を決定。同社が持つ車両データとブリヂストンのタイヤに関する知見などを掛け合わせることで、最適なタイヤ交換時期の情報提供などにつながる。コネクテッドサービス強化の一環だ。
ブリヂストンのHSRはゴム成分や樹脂成分の割合を変えることで、さまざまな特徴を持つことができるブリヂストンの江藤彰洋社長兼最高執行責任者は、「どこよりも高いクオリティーかつ速いスピードで(サービスを)提供できることが重要だ」と説く。
住友ゴム工業は、CASE対応を含めた次世代タイヤの技術開発構想「スマートタイヤコンセプト」を掲げ、2020年代後半の実用化を目指している。
樹脂を活用した空気のいらない「エアレスタイヤ」や、タイヤの回転で発生する車輪速信号を解析し、路面の滑りやすさなどの情報を検知するタイヤセンシング技術「センシングコア」のほか、路面の水や温度変化を感知してトレッド部の特性を変え路面状況に対応する「アクティブトレッド」といった技術の開発に取り組む。
特に自動運転関連で注力するのがセンシングコアだ。「路面状態が事前に分からないといけない」(池田育嗣社長)ためで、北海道の名寄や旭川のタイヤテストコースで冬場の路面の滑りやすさなどを確認した。池田社長は「完成度が高まってきた」と手応えを感じる。
一方の横浜ゴムは、CASEによる変化は「シェアリングの影響が大きい」(山石昌孝横浜ゴム社長)と見据える。シェアリングが進展すれば自動車の稼働率が上がり、1台当たりの走行距離はむしろ伸びやすい。
シェアリング事業者からタイヤメーカーに対し、サービスやコストの要求も高まるかもしれない。ただ、そこに商機はある。山石社長は「企業体質を変えていかなければいけない」と気を引き締める。
一方、トーヨータイヤの清水隆史社長は、「タイヤは車の中で唯一、路面に接する部品だ」として、CASE時代にはタイヤの重要性が高まると見る。すでにタイヤにセンサーを取り付けて路面情報データを集める試みを始めた。タイヤ開発のほか、データを活用したサービスへの展開も視野に入れる。
電動化で高まる静粛性や快適性の需要を狙い、タイヤから出る騒音を減らすデバイスや足回りモジュール部品の開発に挑む。シェアリングでも、空気充填などが不要なエアレスタイヤに需要が生まれるとして開発を進める。
CASEへの対応を強化する住友理工は、18年5月に5カ年の中期経営計画を見直した。20年度目標の旧中計を策定した当時は、CASE領域の研究開発は盛んではなく、市場の見通しも立てづらかった。CASEの背景やリスクを分析した上で、現状に即した18―22年度までの新中計に改めた。
分かりやすい事業リスクとして挙げるのは、世界シェア首位の自動車用防振ゴムでエンジンマウントが、エンジンを搭載しない電気自動車(EV)普及で需要が減少すること。EVでは燃料系ホースも市場がなくなる。ただ、松井徹社長は「新たなビジネスチャンスが生まれる」と前向きだ。
エンジンマウントが減っても、電動車のモーターマウントの需要が拡大するため、「プラスマイナスゼロと考えている」(松井社長)。新中計ではバーチャル開発の導入やテストコース新設により、製品開発のスピードアップと高度化を進める。従来の部品単体販売から、システムサプライヤーに脱皮して事業拡大を狙う。
豊田合成は自動車関連として、主に燃料ホースや、ドアや窓ガラスなどの隙間から雨や騒音などが入るのを防止する「ウェザストリップ」といったゴム製品を手がける。中でも売上高の約15%を占め、EVなどの次世代車が普及しても需要が残るウェザストリップ事業に力を入れる。
18年に中国の現地メーカーを子会社化し、今後も成長が見込まれる中国での生産体制整備にめどをつけた。また電動車は内燃機関がなくなることで社内の静寂性が高くなるため、ユーザーは外の騒音などを気にしやすくなる。このため、より遮音性の高い製品など、設計だけでなく材料改良の所から高付加価値製品の開発も進める。
燃料ホースは電動化で需要減が見込まれるが、高耐熱性や軽量化といった性能向上に取り組むなど、新たなニーズを積極的に取り込む構えだ。
さらに培ったゴム技術の新規事業への応用も加速する。19年内に電気で伸縮するゴム素材「eラバー」を製品化する計画だ。医療やロボットなど、高い成長が見込める分野への提供を狙い、CASE時代の荒波の中でも、安定した経営をできるように基盤を強化していく。
国際エネルギー機関によると、EVなど電動車の乗用車世界販売台数のシェアは、30年には30%を超える見通しだという。欧州では将来のガソリン・ディーゼル車の販売終了を視野に入れ始めた。電動化への対応は否応なしに進む。IoT(モノのインターネット)など新たな需要を取り込みつつ、各社は対策を急ぐ。
<関連記事>
●クルマに注力する素材メーカーの野武士
●EV部品まからロボットまで。老舗重電メーカーの華麗なる変身
(文=山岸渉、大阪・錦織承平、名古屋・今村博之、同・政年佐貴恵)
CASEへの対応として、ブリヂストンは素材開発やサービスの強化に動く。ゴムのしなやかさと樹脂の強靱(きょうじん)さを併せ持つ新素材「ハイ・ストレングス・ラバー(HSR)」を開発した。
耐久性が特徴で、天然ゴムとの比較試験では、引き裂きに対する強度はHSRの方が5倍以上大きかった。天然ゴムの代替として薄くて軽いタイヤが製作でき、自動車の燃費向上などにつながり、電動化向けにも活用できると期待している。
タイヤ販売だけなくサービスまで含めたソリューションビジネスにも力を入れる。1月にインターネットを活用した車両管理サービスの蘭トムトムテレマティクスの買収を決定。同社が持つ車両データとブリヂストンのタイヤに関する知見などを掛け合わせることで、最適なタイヤ交換時期の情報提供などにつながる。コネクテッドサービス強化の一環だ。
ブリヂストンのHSRはゴム成分や樹脂成分の割合を変えることで、さまざまな特徴を持つことができるブリヂストンの江藤彰洋社長兼最高執行責任者は、「どこよりも高いクオリティーかつ速いスピードで(サービスを)提供できることが重要だ」と説く。
住友ゴム工業は、CASE対応を含めた次世代タイヤの技術開発構想「スマートタイヤコンセプト」を掲げ、2020年代後半の実用化を目指している。
樹脂を活用した空気のいらない「エアレスタイヤ」や、タイヤの回転で発生する車輪速信号を解析し、路面の滑りやすさなどの情報を検知するタイヤセンシング技術「センシングコア」のほか、路面の水や温度変化を感知してトレッド部の特性を変え路面状況に対応する「アクティブトレッド」といった技術の開発に取り組む。
特に自動運転関連で注力するのがセンシングコアだ。「路面状態が事前に分からないといけない」(池田育嗣社長)ためで、北海道の名寄や旭川のタイヤテストコースで冬場の路面の滑りやすさなどを確認した。池田社長は「完成度が高まってきた」と手応えを感じる。
一方の横浜ゴムは、CASEによる変化は「シェアリングの影響が大きい」(山石昌孝横浜ゴム社長)と見据える。シェアリングが進展すれば自動車の稼働率が上がり、1台当たりの走行距離はむしろ伸びやすい。
シェアリング事業者からタイヤメーカーに対し、サービスやコストの要求も高まるかもしれない。ただ、そこに商機はある。山石社長は「企業体質を変えていかなければいけない」と気を引き締める。
一方、トーヨータイヤの清水隆史社長は、「タイヤは車の中で唯一、路面に接する部品だ」として、CASE時代にはタイヤの重要性が高まると見る。すでにタイヤにセンサーを取り付けて路面情報データを集める試みを始めた。タイヤ開発のほか、データを活用したサービスへの展開も視野に入れる。
電動化で高まる静粛性や快適性の需要を狙い、タイヤから出る騒音を減らすデバイスや足回りモジュール部品の開発に挑む。シェアリングでも、空気充填などが不要なエアレスタイヤに需要が生まれるとして開発を進める。
ホースは市場がなくなるが…
CASEへの対応を強化する住友理工は、18年5月に5カ年の中期経営計画を見直した。20年度目標の旧中計を策定した当時は、CASE領域の研究開発は盛んではなく、市場の見通しも立てづらかった。CASEの背景やリスクを分析した上で、現状に即した18―22年度までの新中計に改めた。
分かりやすい事業リスクとして挙げるのは、世界シェア首位の自動車用防振ゴムでエンジンマウントが、エンジンを搭載しない電気自動車(EV)普及で需要が減少すること。EVでは燃料系ホースも市場がなくなる。ただ、松井徹社長は「新たなビジネスチャンスが生まれる」と前向きだ。
エンジンマウントが減っても、電動車のモーターマウントの需要が拡大するため、「プラスマイナスゼロと考えている」(松井社長)。新中計ではバーチャル開発の導入やテストコース新設により、製品開発のスピードアップと高度化を進める。従来の部品単体販売から、システムサプライヤーに脱皮して事業拡大を狙う。
豊田合成は自動車関連として、主に燃料ホースや、ドアや窓ガラスなどの隙間から雨や騒音などが入るのを防止する「ウェザストリップ」といったゴム製品を手がける。中でも売上高の約15%を占め、EVなどの次世代車が普及しても需要が残るウェザストリップ事業に力を入れる。
18年に中国の現地メーカーを子会社化し、今後も成長が見込まれる中国での生産体制整備にめどをつけた。また電動車は内燃機関がなくなることで社内の静寂性が高くなるため、ユーザーは外の騒音などを気にしやすくなる。このため、より遮音性の高い製品など、設計だけでなく材料改良の所から高付加価値製品の開発も進める。
燃料ホースは電動化で需要減が見込まれるが、高耐熱性や軽量化といった性能向上に取り組むなど、新たなニーズを積極的に取り込む構えだ。
さらに培ったゴム技術の新規事業への応用も加速する。19年内に電気で伸縮するゴム素材「eラバー」を製品化する計画だ。医療やロボットなど、高い成長が見込める分野への提供を狙い、CASE時代の荒波の中でも、安定した経営をできるように基盤を強化していく。
国際エネルギー機関によると、EVなど電動車の乗用車世界販売台数のシェアは、30年には30%を超える見通しだという。欧州では将来のガソリン・ディーゼル車の販売終了を視野に入れ始めた。電動化への対応は否応なしに進む。IoT(モノのインターネット)など新たな需要を取り込みつつ、各社は対策を急ぐ。
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●クルマに注力する素材メーカーの野武士
●EV部品まからロボットまで。老舗重電メーカーの華麗なる変身
(文=山岸渉、大阪・錦織承平、名古屋・今村博之、同・政年佐貴恵)
日刊工業新聞2019年2月22日