ドコモもauもソフトバンクも…「団塊世代」スマホ化に“照準”のワケ
60-70代の従来型携帯電話率は4割
携帯電話大手3社が団塊世代のフィーチャーフォン(従来型携帯電話)からスマートフォンへの乗り換え促進を急いでいる。国内のスマホ保有比率が8割と飽和状態となる中、60―70代は4割がフィーチャーフォンのまま。フィーチャーフォンが対応する第3世代通信(3G)が2020年代半ばまでに終了することも乗り換えを促す要因となっている。大手3社の動きを探った。
「20年代半ばまでにフィーチャーフォンの比率を限りなくゼロに近づけたい」―。NTTドコモ販売部の鈴木友徳営業戦略担当部長は、今後の目標をこう語る。吉沢和弘社長が明らかにした3G終了時期の20年代半ばまでに4G/5G対応機種への乗り換えを完了させたいからだ。KDDIも22年3月に3Gサービスを終える。
ドコモの携帯電話サービス契約者数(モジュール除く)のうちフィーチャーフォンを使う3Gサービス「FOMA」の割合は18年末に24・5%と初めて4分の1を割り込んだ。ただ、いまだに1728万契約がFOMAを使い続けている。
中でも団塊世代のフィーチャーフォン比率は高い。モバイル社会研究所がまとめた18年のフィーチャーフォン保有比率は60代で46%。70代では56%に跳ね上がる。MMD研究所の調査でも60―70代の携帯電話所有者のうちフィーチャーフォンの比率は38・5%を占める。使い方がわからないことに加え、利用料金の高さを懸念しているからだ。
ドコモは、こうしたシニア層の声に応えるため、18年11月に「ウェルカムスマホ割」を始めた。初めてフィーチャーフォンからスマホに乗り換える利用者に最大で13カ月間、月1500円割り引く。対象機種の利用で同1500円を割り引く「ドコモウィズ」を併用すれば、月980円からスマホを利用できる。初心者向けの「らくらくスマートフォン」も対象機種になっている。
使い方がわからないシニア層向けにはドコモショップでスマホアプリケーション(応用ソフト)などの使い方を教えるスマホ教室を開催している。高性能化したスマホカメラの使い方から対話アプリ「LINE(ライン)」のインストール方法まで講座数は増え続けており、18年4―12月期の利用者数は100万人を突破した。
3月には60歳以上の利用者を対象に「60歳からのスマホプログラム」を始める。毎日の歩数と体重の記録が「dポイント」になるスマホアプリ「dヘルスケア」の特別ミッションクリアでdポイントがもらえるほか、レジャー施設などで特典が受けられる「dエンジョイパス」(月額500円)も最大13カ月間無料にする。スマホアプリを使ったお得感を実感してもらうことでシニア層の心をつかむ。
「ケータイからスマホにかえて良かった!」―。KDDIは2019年元旦の新聞約3000万部にB3サイズの大型折り込みチラシを入れた。シニアの夫婦がスマートフォンを片手に笑顔を見せる写真と冒頭の言葉が並ぶ“保存版”をうたったチラシだ。60―70代の2人に1人以上がスマホを所有しているとした調査結果も示した。
新聞通信調査会によると、月ぎめで新聞をとっている割合は30代の42・4%に対し、60代で80・6%、70代以上で88・0%と依然として高水準。新聞の折り込みチラシを見せながら、帰省した息子や娘にスマホへの乗り換えについて尋ねるシニア層が多いという。
要因の一つが対話アプリケーション(応用ソフト)「LINE」の存在だ。KDDIのチラシにも、高性能カメラで手軽に撮れる写真・動画を孫や友人に送信できるスマホの利点を説明している。
しかし、シニア層の多くはデジタル機器の使い方に慣れていない。このため、KDDIはフィーチャーフォンからスマホに変えた契約者向けに最大3カ月利用料無料の「初スマホ安心サポート」を18年11月に始めた。オペレーターが利用者のスマホを遠隔操作し、使い方の説明やアプリの設定などを行う。イラスト付きのスマホガイド本も配布している。
料金もNTTドコモと同様、18年11月に60歳以上が対象の「カケホ割60」を導入した。対象機種の購入でデータ量は1ギガバイト(ギガは10億)までの利用なら月980円からにした。KDDIコンシューマ事業企画本部の秋田翼企画3グループリーダーは「シニア層がスマホを使いこなせるようにサポートをしっかりした」と自信を見せる。
「瀬戸内寂聴さん法話ツアー120人無料招待」―。KDDIは割引クーポンなどがもらえる有料会員制サービス「auスマートパスプレミアム」(月額料金499円)でも60歳以上限定のイベントでアピールする。
子育てを終え、消費意欲が高まっている60―70代は多い。KDDIはスマホで生活が豊かになるさまざまな付加価値を分かりやすく説明し、乗り換えを促す戦略だ。
NTTドコモやKDDIがシニア向けスマートフォン乗り換えキャンペーンをアピールする中、ソフトバンクは1月16日、フィーチャーフォン(従来型携帯電話)からスマホに乗り換えた利用者に1年間、1980円を割り引く「ガラケースマホ割」を終了した。そこにはターゲットとする利用者層が異なるソフトバンク、ワイモバイル、LINEモバイルという3ブランド戦略が見え隠れする。
「ソフトバンクは大容量のデータを使う利用者やビジネスユーザー、ワイモバイルは低価格で中容量のデータ利用者、LINEモバイルはより低価格で小容量の10―20代向け」。ソフトバンクの宮内謙社長は3ブランドがターゲットとする利用者層の違いを説明し「この三つの区分けをうまく使い、各領域でナンバーワンを追求する」と意気込む。
シニア層に照準を定めるのがワイモバイルだ。2018年4―12月期決算説明会の資料では、ワイモバイルのターゲット層を示す資料にシニア男性の顔写真を使った。60歳以上で初心者向けスマホ「かんたんスマホ」を購入した利用者に国内通話を0円にするキャンペーンも実施中。専用オペレーターによる無料相談もある。
スマホを初めて使うシニア向けにはワイモバイルを使ってもらい、より大容量のデータを使いたくなったらソフトバンクに移行―。宮内社長は、こうした3ブランド戦略で「子どもからシニアまで皆がスマホを使う時代を作りたい。そのために利用シーンをどんどん拡大する」と話す。
すでに、スマホ決済「ペイペイ」、スマホで株が購入できる「ワンタップバイ」、タクシー配車基盤「ディディ」などスマホの利用シーンは急速に広がった。「紙幣を数えずに済むとシニアからも好評を得ている」(宮内社長)という。
高速通信が売りの第5世代通信(5G)が20年に始まれば、この勢いはさらに増す。宮内社長は「人間は進化したモノに対して後戻りできない。5Gスマホは数年後、世界を席巻する」と予測する。シニアを含む“1億総スマホ”の時代が着実に近づいている。
(文=水嶋真人)
NTTドコモ/3G回線の終了
「20年代半ばまでにフィーチャーフォンの比率を限りなくゼロに近づけたい」―。NTTドコモ販売部の鈴木友徳営業戦略担当部長は、今後の目標をこう語る。吉沢和弘社長が明らかにした3G終了時期の20年代半ばまでに4G/5G対応機種への乗り換えを完了させたいからだ。KDDIも22年3月に3Gサービスを終える。
ドコモの携帯電話サービス契約者数(モジュール除く)のうちフィーチャーフォンを使う3Gサービス「FOMA」の割合は18年末に24・5%と初めて4分の1を割り込んだ。ただ、いまだに1728万契約がFOMAを使い続けている。
中でも団塊世代のフィーチャーフォン比率は高い。モバイル社会研究所がまとめた18年のフィーチャーフォン保有比率は60代で46%。70代では56%に跳ね上がる。MMD研究所の調査でも60―70代の携帯電話所有者のうちフィーチャーフォンの比率は38・5%を占める。使い方がわからないことに加え、利用料金の高さを懸念しているからだ。
ドコモは、こうしたシニア層の声に応えるため、18年11月に「ウェルカムスマホ割」を始めた。初めてフィーチャーフォンからスマホに乗り換える利用者に最大で13カ月間、月1500円割り引く。対象機種の利用で同1500円を割り引く「ドコモウィズ」を併用すれば、月980円からスマホを利用できる。初心者向けの「らくらくスマートフォン」も対象機種になっている。
使い方がわからないシニア層向けにはドコモショップでスマホアプリケーション(応用ソフト)などの使い方を教えるスマホ教室を開催している。高性能化したスマホカメラの使い方から対話アプリ「LINE(ライン)」のインストール方法まで講座数は増え続けており、18年4―12月期の利用者数は100万人を突破した。
3月には60歳以上の利用者を対象に「60歳からのスマホプログラム」を始める。毎日の歩数と体重の記録が「dポイント」になるスマホアプリ「dヘルスケア」の特別ミッションクリアでdポイントがもらえるほか、レジャー施設などで特典が受けられる「dエンジョイパス」(月額500円)も最大13カ月間無料にする。スマホアプリを使ったお得感を実感してもらうことでシニア層の心をつかむ。
KDDI/スマホの価値、チラシで説明
「ケータイからスマホにかえて良かった!」―。KDDIは2019年元旦の新聞約3000万部にB3サイズの大型折り込みチラシを入れた。シニアの夫婦がスマートフォンを片手に笑顔を見せる写真と冒頭の言葉が並ぶ“保存版”をうたったチラシだ。60―70代の2人に1人以上がスマホを所有しているとした調査結果も示した。
新聞通信調査会によると、月ぎめで新聞をとっている割合は30代の42・4%に対し、60代で80・6%、70代以上で88・0%と依然として高水準。新聞の折り込みチラシを見せながら、帰省した息子や娘にスマホへの乗り換えについて尋ねるシニア層が多いという。
要因の一つが対話アプリケーション(応用ソフト)「LINE」の存在だ。KDDIのチラシにも、高性能カメラで手軽に撮れる写真・動画を孫や友人に送信できるスマホの利点を説明している。
しかし、シニア層の多くはデジタル機器の使い方に慣れていない。このため、KDDIはフィーチャーフォンからスマホに変えた契約者向けに最大3カ月利用料無料の「初スマホ安心サポート」を18年11月に始めた。オペレーターが利用者のスマホを遠隔操作し、使い方の説明やアプリの設定などを行う。イラスト付きのスマホガイド本も配布している。
料金もNTTドコモと同様、18年11月に60歳以上が対象の「カケホ割60」を導入した。対象機種の購入でデータ量は1ギガバイト(ギガは10億)までの利用なら月980円からにした。KDDIコンシューマ事業企画本部の秋田翼企画3グループリーダーは「シニア層がスマホを使いこなせるようにサポートをしっかりした」と自信を見せる。
「瀬戸内寂聴さん法話ツアー120人無料招待」―。KDDIは割引クーポンなどがもらえる有料会員制サービス「auスマートパスプレミアム」(月額料金499円)でも60歳以上限定のイベントでアピールする。
子育てを終え、消費意欲が高まっている60―70代は多い。KDDIはスマホで生活が豊かになるさまざまな付加価値を分かりやすく説明し、乗り換えを促す戦略だ。
ソフトバンク/ワイモバイルで初心者開拓
NTTドコモやKDDIがシニア向けスマートフォン乗り換えキャンペーンをアピールする中、ソフトバンクは1月16日、フィーチャーフォン(従来型携帯電話)からスマホに乗り換えた利用者に1年間、1980円を割り引く「ガラケースマホ割」を終了した。そこにはターゲットとする利用者層が異なるソフトバンク、ワイモバイル、LINEモバイルという3ブランド戦略が見え隠れする。
「ソフトバンクは大容量のデータを使う利用者やビジネスユーザー、ワイモバイルは低価格で中容量のデータ利用者、LINEモバイルはより低価格で小容量の10―20代向け」。ソフトバンクの宮内謙社長は3ブランドがターゲットとする利用者層の違いを説明し「この三つの区分けをうまく使い、各領域でナンバーワンを追求する」と意気込む。
シニア層に照準を定めるのがワイモバイルだ。2018年4―12月期決算説明会の資料では、ワイモバイルのターゲット層を示す資料にシニア男性の顔写真を使った。60歳以上で初心者向けスマホ「かんたんスマホ」を購入した利用者に国内通話を0円にするキャンペーンも実施中。専用オペレーターによる無料相談もある。
スマホを初めて使うシニア向けにはワイモバイルを使ってもらい、より大容量のデータを使いたくなったらソフトバンクに移行―。宮内社長は、こうした3ブランド戦略で「子どもからシニアまで皆がスマホを使う時代を作りたい。そのために利用シーンをどんどん拡大する」と話す。
すでに、スマホ決済「ペイペイ」、スマホで株が購入できる「ワンタップバイ」、タクシー配車基盤「ディディ」などスマホの利用シーンは急速に広がった。「紙幣を数えずに済むとシニアからも好評を得ている」(宮内社長)という。
高速通信が売りの第5世代通信(5G)が20年に始まれば、この勢いはさらに増す。宮内社長は「人間は進化したモノに対して後戻りできない。5Gスマホは数年後、世界を席巻する」と予測する。シニアを含む“1億総スマホ”の時代が着実に近づいている。
(文=水嶋真人)
日刊工業新聞2019年19、20、21日