通信障害のソフトバンク、上場後も残る「懐疑」
親子上場にファーウェイ依存、「5G」は大丈夫?
ソフトバンクグループの(SBG)通信子会社、ソフトバンクの上場が19日と目前に控える中で発生した大規模通信障害は、多くの携帯電話利用者に影響を与えただけなく、投資家に向けてのイメージダウンも避けられなくなった。ソフトバンクは社会インフラを支える通信事業会社として、早急に利用者と投資家の信頼を回復する必要がある。
ソフトバンクの東京証券取引所への上場は、1987年のNTTを抜く国内では過去最大規模の新規株式公開(IPO)になるだけに、個人投資家からの関心は高い。市場ではソフトバンクの上場をにらんだ換金売りも意識されている。
売り出し規模は約2兆6000億円とNTTを約3000億円上回る。想定売り出し価格は1株あたり1500円。これを元にすると予想される配当利回りは5%程度となりそうで、「配当利回りだけを見ても十分に魅力的だ」(国内証券)。10日に決まった売り出し価格も1500円となった。
そうした中、6日に発生したソフトバンクの通信障害は、利用者だけではなく、投資家に対してもイメージダウンとなった。
ただ、エリクソンが、ソフトバンクで起きた通信障害の原因が自社のソフトウエアにあると発表したこともあり、市場からは「システム障害は決して珍しい話ではない。今回は原因がはっきりと分かっており、(株価への)影響を与える可能性は低いのではないか」(SMBC日興証券の太田千尋投資情報部部長)と比較的冷静だ。
一方、今回売り出されるソフトバンクの株式は4割弱で、同社は上場後もSBGの連結子会社にとどまる。このため、親会社の戦略が子会社にとっては利益につながりにくいケースになることも考えられ、親会社と子会社が同時上場する“親子上場”を懸念する声は依然として根強い。
また、NTTドコモが19年度に料金を2―4割程度の値下げを計画するほか、楽天による携帯電話事業への参入が19年10月に控えるなど、環境の変化も激しい。株式市場が不安定さを増す中、ソフトバンクは5Gの基地局などに中国製設備を使わない方針を固めたが、現行設備の一部に華為技術(ファーウェイ)などの製品を使っている点が、影響する可能性はある。
「通信事業者は故障が起こらないようにしながら、復旧を迅速化する努力を続けていかねばならない。だからといって値下げができないということにはならない」―。NTTの澤田純社長は、通信網の信頼性向上と通信料引き下げの両立が、今後の国内携帯事業者に求められることだと主張する。
政府による携帯電話通信料引き下げ要求が強まる中、国内携帯大手は通信料を最大4割値下げする料金プランを相次ぎ打ち出す。結果、“ドル箱”だった携帯事業の収益悪化が懸念される。今回の通信障害はそうした状況下で起きた。
SBGの孫正義会長兼社長は収益を改善するため、人工知能(AI)やRPA(ソフトウエアロボットによる業務自動化)の導入で国内通信事業の人員の「4割を今後2―3年で新規事業に配置転換」(孫氏)し、増益を続ける体制を堅持する意向を示すものの、こうした戦略の方向性に影響を与えるかもしれない。
あらゆるサービスとつながった携帯電話は、社会インフラとしての重要性がますます高まっている。今回の通信障害は、物流や旅客、決済などのサービスにも影響を与えた。19年から第5世代通信(5G)が始まれば障害発生の影響はさらに拡大する。
ソフトバンクはすでに2000件以上のAI・RPAプロジェクトを実施しているが、信頼性を高めた上での業務効率化が不可欠となる。
孫氏はソフトバンクの株式上場で手にする予定の約2兆6000億円を10兆円規模の「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」の成長に振り向ける意向だ。同ファンドはAIを活用した各サービスでトップの企業など60社超に出資する。これらの企業のサービスを日本に上陸させる窓口にソフトバンクがなることで、新たな成長基盤に育てる狙いだ。
ただ、こうした新サービスも通信網の安定性や信頼性があってこそだ。上場後は親会社だけでなく、投資家とも直接向き合うことになる。通信網の体制見直しを含めた再発防止策を進めつつ、いかに成長戦略を示せるか。上場後の戦略が注目される。
(文=水嶋真人、浅海宏規)
ソフトバンクの東京証券取引所への上場は、1987年のNTTを抜く国内では過去最大規模の新規株式公開(IPO)になるだけに、個人投資家からの関心は高い。市場ではソフトバンクの上場をにらんだ換金売りも意識されている。
売り出し規模は約2兆6000億円とNTTを約3000億円上回る。想定売り出し価格は1株あたり1500円。これを元にすると予想される配当利回りは5%程度となりそうで、「配当利回りだけを見ても十分に魅力的だ」(国内証券)。10日に決まった売り出し価格も1500円となった。
そうした中、6日に発生したソフトバンクの通信障害は、利用者だけではなく、投資家に対してもイメージダウンとなった。
ただ、エリクソンが、ソフトバンクで起きた通信障害の原因が自社のソフトウエアにあると発表したこともあり、市場からは「システム障害は決して珍しい話ではない。今回は原因がはっきりと分かっており、(株価への)影響を与える可能性は低いのではないか」(SMBC日興証券の太田千尋投資情報部部長)と比較的冷静だ。
一方、今回売り出されるソフトバンクの株式は4割弱で、同社は上場後もSBGの連結子会社にとどまる。このため、親会社の戦略が子会社にとっては利益につながりにくいケースになることも考えられ、親会社と子会社が同時上場する“親子上場”を懸念する声は依然として根強い。
また、NTTドコモが19年度に料金を2―4割程度の値下げを計画するほか、楽天による携帯電話事業への参入が19年10月に控えるなど、環境の変化も激しい。株式市場が不安定さを増す中、ソフトバンクは5Gの基地局などに中国製設備を使わない方針を固めたが、現行設備の一部に華為技術(ファーウェイ)などの製品を使っている点が、影響する可能性はある。
一体、何で儲けるの?
「通信事業者は故障が起こらないようにしながら、復旧を迅速化する努力を続けていかねばならない。だからといって値下げができないということにはならない」―。NTTの澤田純社長は、通信網の信頼性向上と通信料引き下げの両立が、今後の国内携帯事業者に求められることだと主張する。
政府による携帯電話通信料引き下げ要求が強まる中、国内携帯大手は通信料を最大4割値下げする料金プランを相次ぎ打ち出す。結果、“ドル箱”だった携帯事業の収益悪化が懸念される。今回の通信障害はそうした状況下で起きた。
SBGの孫正義会長兼社長は収益を改善するため、人工知能(AI)やRPA(ソフトウエアロボットによる業務自動化)の導入で国内通信事業の人員の「4割を今後2―3年で新規事業に配置転換」(孫氏)し、増益を続ける体制を堅持する意向を示すものの、こうした戦略の方向性に影響を与えるかもしれない。
あらゆるサービスとつながった携帯電話は、社会インフラとしての重要性がますます高まっている。今回の通信障害は、物流や旅客、決済などのサービスにも影響を与えた。19年から第5世代通信(5G)が始まれば障害発生の影響はさらに拡大する。
ソフトバンクはすでに2000件以上のAI・RPAプロジェクトを実施しているが、信頼性を高めた上での業務効率化が不可欠となる。
孫氏はソフトバンクの株式上場で手にする予定の約2兆6000億円を10兆円規模の「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」の成長に振り向ける意向だ。同ファンドはAIを活用した各サービスでトップの企業など60社超に出資する。これらの企業のサービスを日本に上陸させる窓口にソフトバンクがなることで、新たな成長基盤に育てる狙いだ。
ただ、こうした新サービスも通信網の安定性や信頼性があってこそだ。上場後は親会社だけでなく、投資家とも直接向き合うことになる。通信網の体制見直しを含めた再発防止策を進めつつ、いかに成長戦略を示せるか。上場後の戦略が注目される。
(文=水嶋真人、浅海宏規)
日刊工業新聞2018年12月11日から抜粋