企業による再生エネ電力の購入が増える理由
ESG投資呼び込む
再生可能エネルギーで発電した電気を企業が購入できる環境が整ってきた。積水ハウスは、同社が販売した住宅に設置済みの太陽光パネルから電気を買い取り、オフィスや工場で使う。みんな電力(東京都世田谷区)、デジタルグリッド(同千代田区)のエネルギーベンチャー2社も、企業が再生エネ電気を選べるサービスを始める。世界的なESG(環境・社会・企業統治)投資の潮流もあり、企業による再生エネ由来の電気購入が増えそうだ。
積水ハウスが始める電気買い取りサービス「積水ハウスオーナーでんき」の対象は同社の住宅を購入し、固定価格買い取り制度(FIT)による売電期間の終わった家庭だ。太陽光パネルが発電し、自宅で使い切れなかった余剰電力を1キロワット時11円で同社が買い取る。
FITでは家庭用太陽光発電(出力10キロワット未満)の余剰電力を10年間、決まった価格で売電できる。制度開始から10年となる11月以降、FITの終了家庭が出てくる。2019年度だけで50万件以上が固定価格での売電が終わるため、「19年問題」と呼ばれていた。
同社の石田建一常務執行役員は、「買い取りはオーナー(住宅所有者)のためだ」と言いきる。FITが終わった家庭は、自分で売り先を見つけて契約しなければならない。同社の住宅に住むオーナーなら、売り先を探す手間を省ける。
売電価格とした11円は、FIT終了家庭からの電気買い取りを表明している一般的な新電力よりも高く、オーナーに損はない。同社は電力会社ではなく、電気の販売で利益を上げる必要がないため、その分、他社よりも高く設定できた。
当然、同社にもメリットがある。同社製の住宅や賃貸住宅に搭載済みの太陽光パネルは年7億キロワット時を発電している。このうち2―3割を購入すれば、事業所の電気全量を再生エネ化できるという。同社は事業で使う電気全量の再生エネ化を目指す国際企業連合「RE100」に加盟している。毎年1万棟のオーナーがFIT終了を迎えるため、目標とする40年よりも先に再生エネ100%を達成でき、ESG投資でも評価も高められる。
みんな電力は、再生エネ電気の購入を証明するサービスを企業に4月から提供する。同社は18年9月、どの発電所の再生エネ電気を使ったのか、取引の記録をネットワークに保存できる「ブロックチェーン」技術を実証した。この技術を活用したサービスを始める。合計30万キロワット分の再生エネ電気を供給できる体制を整えた。
現状では、企業が直接、再生エネ電気を購入できる手段は限られる。制度的にも、再生エネ電気を選択する方法やどの発電所由来か分かる電気も少ない。同社のサービスなら再生エネを選んで購入できる。
同社の三宅成也取締役は、「お金を払った先が再生エネ由来の電気と言えることが重要」と強調する。同社から電気を購入した企業は、「被災地の風力発電所から電気を買った」などの“ストーリー”を外部に伝えることができ、社会的な評価も高まる。もちろん再生エネ電気を求める企業にも訴求でき、RE100に参画する丸井グループもみんな電力の顧客だ。
ただ、三宅取締役は「ルールに依存したくない」と話す。FITの制度改正のたびに事業者は混乱した。RE100にも再生エネ電気の基準があり、見直しによってサービスの変更が迫られると負担になる。
発電所や運営者がどこか分かること自体に価値を感じる企業が増えれば、ルール変更で右往左往せずに済む。
同社の目標は、発電所と需要家をつなぐ「新しい経済圏」(三宅取締役)の創出にあるという。同社の考えに賛同する企業は増えており、丸井グループや、TBSホールディングスなど、顧客企業を中心に11億円の出資を受けた。
デジタルグリッドは10月、再生エネ電気を選んで購入できるプラットフォーム(基盤)を開設する。基盤に参加する家庭やビル、工場に専用端末をそれぞれ設置し、ネットワーク化する。専用端末には欲しい再生エネ電気を指定すると、自動で取引を成立させる機能があり、企業はネットワーク内の再生エネ発電所の電気を購入できる。
17年10月の起業後、日立製作所、住友商事、九州電力、東京ガスなど39社が計6億円以上を出資した。各社は基盤の開発や端末の設置で協力する。また基盤上の取引にも参加し、自社の再生エネ発電所の電気を売ったり、基盤から再生エネ電気を調達したりして自社の顧客に供給する。太陽光パネルの電気の消費による二酸化炭素(CO2)削減価値も取引する。
取引履歴はブロックチェーンで記録するうえ、専用端末には発電設備の画像も残せる。実際はディーゼル発電機の電気であるにもかかわらず、再生エネ由来とみせかける偽装を防ぐためだ。越村吉隆社長は、「信頼性が高く、再生エネを求める企業が安心して購入できる」と自信をみせる。
再生エネ電気を選べる環境が整い、企業による購入量が増えていけば、太陽光や風力など再生エネへの投資も活発となるはずだ。CO2ゼロの電気を求める企業ニーズと技術開発が再生エネの普及を後押しする。
(文=松木喬)
積水ハウス、FIT後の家庭から購入-オフィス・工場に利用
積水ハウスが始める電気買い取りサービス「積水ハウスオーナーでんき」の対象は同社の住宅を購入し、固定価格買い取り制度(FIT)による売電期間の終わった家庭だ。太陽光パネルが発電し、自宅で使い切れなかった余剰電力を1キロワット時11円で同社が買い取る。
FITでは家庭用太陽光発電(出力10キロワット未満)の余剰電力を10年間、決まった価格で売電できる。制度開始から10年となる11月以降、FITの終了家庭が出てくる。2019年度だけで50万件以上が固定価格での売電が終わるため、「19年問題」と呼ばれていた。
同社の石田建一常務執行役員は、「買い取りはオーナー(住宅所有者)のためだ」と言いきる。FITが終わった家庭は、自分で売り先を見つけて契約しなければならない。同社の住宅に住むオーナーなら、売り先を探す手間を省ける。
売電価格とした11円は、FIT終了家庭からの電気買い取りを表明している一般的な新電力よりも高く、オーナーに損はない。同社は電力会社ではなく、電気の販売で利益を上げる必要がないため、その分、他社よりも高く設定できた。
当然、同社にもメリットがある。同社製の住宅や賃貸住宅に搭載済みの太陽光パネルは年7億キロワット時を発電している。このうち2―3割を購入すれば、事業所の電気全量を再生エネ化できるという。同社は事業で使う電気全量の再生エネ化を目指す国際企業連合「RE100」に加盟している。毎年1万棟のオーナーがFIT終了を迎えるため、目標とする40年よりも先に再生エネ100%を達成でき、ESG投資でも評価も高められる。
みんな電力、購入電気に“お墨付き”-ブロックチェーンで履歴記録
みんな電力は、再生エネ電気の購入を証明するサービスを企業に4月から提供する。同社は18年9月、どの発電所の再生エネ電気を使ったのか、取引の記録をネットワークに保存できる「ブロックチェーン」技術を実証した。この技術を活用したサービスを始める。合計30万キロワット分の再生エネ電気を供給できる体制を整えた。
現状では、企業が直接、再生エネ電気を購入できる手段は限られる。制度的にも、再生エネ電気を選択する方法やどの発電所由来か分かる電気も少ない。同社のサービスなら再生エネを選んで購入できる。
同社の三宅成也取締役は、「お金を払った先が再生エネ由来の電気と言えることが重要」と強調する。同社から電気を購入した企業は、「被災地の風力発電所から電気を買った」などの“ストーリー”を外部に伝えることができ、社会的な評価も高まる。もちろん再生エネ電気を求める企業にも訴求でき、RE100に参画する丸井グループもみんな電力の顧客だ。
ただ、三宅取締役は「ルールに依存したくない」と話す。FITの制度改正のたびに事業者は混乱した。RE100にも再生エネ電気の基準があり、見直しによってサービスの変更が迫られると負担になる。
発電所や運営者がどこか分かること自体に価値を感じる企業が増えれば、ルール変更で右往左往せずに済む。
同社の目標は、発電所と需要家をつなぐ「新しい経済圏」(三宅取締役)の創出にあるという。同社の考えに賛同する企業は増えており、丸井グループや、TBSホールディングスなど、顧客企業を中心に11億円の出資を受けた。
デジタルグリッド、プラットフォーム開設-信頼性高く取引活性化
デジタルグリッドは10月、再生エネ電気を選んで購入できるプラットフォーム(基盤)を開設する。基盤に参加する家庭やビル、工場に専用端末をそれぞれ設置し、ネットワーク化する。専用端末には欲しい再生エネ電気を指定すると、自動で取引を成立させる機能があり、企業はネットワーク内の再生エネ発電所の電気を購入できる。
17年10月の起業後、日立製作所、住友商事、九州電力、東京ガスなど39社が計6億円以上を出資した。各社は基盤の開発や端末の設置で協力する。また基盤上の取引にも参加し、自社の再生エネ発電所の電気を売ったり、基盤から再生エネ電気を調達したりして自社の顧客に供給する。太陽光パネルの電気の消費による二酸化炭素(CO2)削減価値も取引する。
取引履歴はブロックチェーンで記録するうえ、専用端末には発電設備の画像も残せる。実際はディーゼル発電機の電気であるにもかかわらず、再生エネ由来とみせかける偽装を防ぐためだ。越村吉隆社長は、「信頼性が高く、再生エネを求める企業が安心して購入できる」と自信をみせる。
再生エネ電気を選べる環境が整い、企業による購入量が増えていけば、太陽光や風力など再生エネへの投資も活発となるはずだ。CO2ゼロの電気を求める企業ニーズと技術開発が再生エネの普及を後押しする。
(文=松木喬)
日刊工業新聞2019年2月19日