ニュースイッチ

放送とネット「常時同時配信」へ、NHKと民放の“つばぜりあい”

「受信料収入の2.5%上限」を盾にけん制
放送とネット「常時同時配信」へ、NHKと民放の“つばぜりあい”

スマホで常時、放送中のテレビ番組が同時に見られるようになる

 テレビと同じ番組(コンテンツ)を、放送と同時に24時間インターネットで配信する「常時同時配信」をめぐり、NHKと民放各社のつばぜりあいが起きている。常時同時配信は、放送法改正案が今通常国会に提出され、19年度中に実施する見通しが立った。NHKは、視聴環境の変化などを背景に「公共放送」からインターネットを活用した「公共メディア」へ移行を図る。これに対し、民放各社はNHKに課された「受信料収入の2.5%上限」を盾にけん制を続けている。

 「情報へアクセスする手段が多様化していて、放送だけではどんなに良いコンテンツがあっても届けられない」。NHKの上田良一会長は、常時同時配信を始める背景をこう説明する。パソコンやスマートフォンの普及で動画の視聴スタイルが多様化して久しい。こうした中、ネット配信に乗り出すNHKだが、取り組むべき課題も多い。

 NHKがネット事業に投じる費用は、受信料収入に対して「2・5%」を上限としている。18年10月、日本民間放送連盟(民放連)はNHKの常時同時配信に対し、「受信料収入の2・5%上限の維持」など8項目の意見書を公表し、重ねて順守を申し入れた。民放連の大久保好男会長(日本テレビ社長)は1月の定例会見で、もし上限を上回った場合は「業務の肥大化という批判を受けるのでは」とけん制した。

 一方、NHKが1月に発表した19年度収支予算案におけるネットを活用した業務費用は、168億7000万円。受信料収入に対して2・4%に相当し、ギリギリ上限内に収めた格好だ。ただ20年度以降に通年で実施される場合、枠内で収まるかどうか疑問が残る。

 15日には同予算案が国会に提出された。これを受け日本新聞協会は「民間事業を圧迫しない節度ある事業運営が求められ、抑制的な業務・予算執行に努めるよう求めたい」と声明を発表し、注意を促した。

 上田良一会長も簡単には引けない。就任3年目、会長任期の20年1月まで残り1年を切った。上田会長は任期の3年を、ホップ・ステップ・ジャンプの三段跳びに例えており、「19年度は3年目のジャンプに当たる。これまで実行したことを定着させる1年にしたい」とする。常時同時配信をテコに“ジャンプ”の時機にしたいNHK。民放各社とのつばぜりあいは、視聴環境の変化の中での公共放送を問うている。

           

(文=大城蕗子)
日刊工業新聞2019年2月19日

編集部のおすすめ