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“侍”はイスラエルで旋風を巻き起こせるか

サムライインキュベートが日本の大手企業を対象に「アクセラレータプログラム」開始
“侍”はイスラエルで旋風を巻き起こせるか

サムライインキュベートのチーム。中央が榊原健太郎CEO(ホームページより)


日本企業との連携の可能性は?


 イスラエルと日本企業との連携の可能性についてはどうだろう。森川さんは「先方はM&Aで買収されることにこだわりがなく、買収されてもやめる人があまりいない。(社長を含め)給料もあまり高くないし、たとえば日本企業がM&Aをして研究開発拠点を作るようなやり方がある」と提案。

 丹下さんはイスラエルのスタートアップのバリュエーションの低さに注目する。「インドでは10億売り上げがあって利益が1億なら、バリュエーションが20億くらい。かなり高い。それに対し、イスラエルは日本より4割くらい安い」。榊原さんも「(オンラインストレージの米)ボックスのバイスプレジデントと話した時、イスラエルのスタートアップのバリュエーションはシリコンバレーの10分の1、日本の5分の1と言っていた。日本の場合、高くなりすぎなんだけれど」。

 しかも、イスラエルでは、日本に対して関心や尊敬の念を持つ人が多いという。では、お目当てのビジネス相手やスタートアップを口説き落とすには? 丹下さんは友好関係を深めるのには「食べ物がいい」とサジェスチョン。イスラエル人は寿司や日本食が好き。実際、「ウイスキーと神戸牛が食べたい」という相手に、『山崎』のウイスキーと神戸牛で、文字通り食い込むことができたという。

 【AIと脳技術、サイバーセキュリティー】
 これまで、アラブ諸国に遠慮してイスラエル進出に二の足を踏んでいた日本企業。イスラエル側には「日本は口先ばかり」と冷ややかな向きもあった。そんな印象を大きく変えたのがサムライインキュベートの榊原さんだ。昨年、自らテルアビブに赴任し、日本とイスラエルの架け橋になることで先方の政府関係者やビジネス関係者を驚かせた。

 榊原さんは「日本のメーカーやIT企業10社がイスラエルに進出を決めた。当社もイスラエル企業19社に投資している」と話す。投資先は、スマートウオッチのチャットアプリ用にしゃべった音声をテキスト化してくれる人工知能(AI)や、脳関係の「ブレインテック」。その上で、「AIとブレインテックが次に来る」と見ており、自動車や航空機向けのサイバーセキュリティーも狙い目という。

 島田さんもサイバーセキュリティーに注目する。「イスラエルでは原発や放送局向けのサイバーセキュリティーにまで取り組んでいて、レベルが違う」としつつ、「最近、IoT(インターネット・オブ・シングズ=モノのインターネット)への関心が急速に高まっている。

 それがきっかけになってサイバー空間がさらに広がり、アラートの数も大量になると人間では対応しきれない。人間ではなく、AIで自動的に問題を解決するソリューションを作る必要がある」として、イスラエルのAI+セキュリティー技術に期待を示す。

 榊原さんは「5年後には(テルアビブは)今のサンフランシスコのような感じになっている」と予測する。「IS(イスラミックステート)」という不確定要素もあるが、AI、サイバーセキュリティー、さらには医療技術を含めて、日本とイスラエルとのビジネス関係が今後さらに深まっていきそうだ。
ニュースイッチオリジナル
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
シリコンバレーに駐在する日本の大手企業の社員は、現地のインナーサークルにまったく入っていけてない。投資などの権限もなく、ベンチャーやVCなどからは相手にされていない。サムライのようなネットワークをまず活用し、人脈を広げていくのも一つの手だろう。

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