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変貌するITアイランド!沖縄は“ITでもハブ”へ

立地数は過去最高更新。傾向はコールセンターからBPO、開発型へ
 沖縄のIT産業が好況だ。沖縄県の調査によると、2015年1月時点の情報通信関連企業の立地件数と被雇用者数は過去最高。東京オリンピック・パラリンピック関連やシステム投資の増加も手伝ってシステム開発業は多忙な状況だ。さらに首都圏やアジアとの通信回線が強化され、災害リスク回避やアジアの近さを生かしたデータセンター(DC)立地が注目される。これまでコールセンター拠点のイメージが強かった”ITアイランド“は変化しつつある。

システム投資が活況


 「止まっていたシステム投資が動きだし、20年の東京五輪・パラリンピックに向けて活性化している」と好況を説明するのは、システム開発企業の沖縄ソフトウェアセンター(那覇市)の饒平名(よへな)知寛社長。マイナンバー制度への対応もあり、業務系システム開発企業は多忙な状況にある。

 県は98年に「沖縄県マルチメディアアイランド構想」を策定。補助制度や高速通信回線、企業集積の受け皿「沖縄IT津梁(しんりょう)パーク」を整備し、情報通信産業の誘致や振興に取り組んできた。12年度には「おきなわスマートハブ構想」を策定。10年後を見据えて国際的なハブ化を掲げる。また県北部の名護市は「金融IT国際みらい都市構想」として、特区税制と絡めた集積を図る。

 施策の効果は出ている。IT関連企業の累積数は、企業数・被雇用者数ともに右肩上がり。特に豊富な労働力や人件費の抑制などを背景にコールセンターの立地が目立った。ただ、コールセンターの構成比は徐々に低下している。被雇用者数はほぼ維持したが、立地傾向では開発やBPOなど高付加価値業務へシフトしている。

「波」の見極め必要


 沖縄ソフトウェアセンターの饒平名社長は「中国に出たシステム開発の国内回帰が始まっている」と分析。背景は人件費の上昇と品質問題、カントリーリスクの顕在化だ。さらに東日本大震災後の拠点分散化で、国内でありながら海外に近い”ニアショア“の立地が評価されている。

 半面で「(好況の)波はきているが、どう乗るか。波を見極める目も必要」と、沖縄県情報産業協会(那覇市)の渡真利(とまり)哲事務局次長は期待と慎重さが入り交じる。”安さ“でなく品質で勝負できる事業環境の確立を訴える。「いつかは景気の底が来る。その時にIT業が引き揚げられないように」と危機感を抱く。

人材確保と育成が喫緊の課題


 人材育成と確保も喫緊の課題。「基礎人材から高度人材まで絶対数が足りていない」(渡真利次長)状況。県は技術者の能力向上に向けた「ITアドバンスド・プロフェッショナル講座」への支援や、U・Iターンで人材確保を進める。また民間でも沖縄ソフトウェアセンターは、県内事業者や人材にノウハウが蓄積する形での開発事業を行っている。

 沖縄は人口増加地域とはいえ、他の産業や県外と人材争奪戦になる可能性がある。また、学生に就職先として意識させるための「県内への周知が不足している」(県内事業者)との声もある。活況を維持するには、教育機関も巻き込んだ人材供給の仕組みや、県内でキャリアアップできる産業構造も必要だ。

日刊工業新聞2015年08月03日 最終面/2015年07月30日 中小企業・地域経済面
三苫能徳
三苫能徳 Mitoma Takanori 西部支社 記者
沖縄は国際物流だけでなくITでもアジアの「ハブ」になる、という期待と意気込みは民間業者からも伝わってきます。コンテンツ系の開発も今後大きく拡大しそうな気配もあり、IT業界はますます盛り上がりそうです。 ただ、どうしてもネックになるのは人材の確保と育成。ITに限らず、沖縄ではどこで聞いても「人が足りない」という課題に行き当たります。一方で失業率は、改善傾向にあるものの依然として全国平均より高い。うまく“歯車”がかみ合えば、雇用の問題は一気に解決しそうな気もするのですが、そう簡単にいかないところがもどかしいです。

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