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日立の英原発撤退、「ガバナンスが効いている証拠」

2000億円超の損失も市場は好感
日立の英原発撤退、「ガバナンスが効いている証拠」

日立の東原敏昭社長

 日立製作所は英国で進めていた原発の新設計画を中断する方向で最終調整に入った。事業費が当初の2兆円から1・5倍の3兆円に拡大し、出資企業を募るのが困難なため、事業継続を見合わせる。2019年3月期に2000億―3000億円規模の損失を計上する可能性が高いが、原発の事業継続リスクが後退したことを株式市場は好感している。

 日立は英国政府とともに中西部アングルシー島で原発2基の建設を計画し、20年代前半の運転開始を目指していた。ただ、安全対策の強化などで事業費が膨らんだ。電力会社などに出資を呼び掛けていたが交渉は難航。リスクを下げるため、英国の原発事業子会社、ホライズン・ニュークリア・パワーの出資比率を現在の100%から50%未満に引き下げ、子会社から外したい考えを示していた。

 事業の採算を左右する原発稼働後の電力を高値で買い取る差額決済契約でも英国政府との溝が埋まらなかった。英国政府はフランス電力公社などが主導する英南西部の原発事業で当時の市場価格の約2倍の高い買い取り保証をつけ、電力料金を負担する国民から非難が集中した過去もあり、慎重な姿勢を崩していない。

 日立の中西宏明会長は18年12月に現行の枠組みでは「もう限界と英国政府に伝えた」と語り、追加支援を得られない場合の撤退を示唆した。10日の日英首脳会談後の記者会見ではメイ首相は「企業の商業的な判断となる」と述べ、追加支援に慎重な姿勢を示した。

 日立は18年7月に、原発計画から撤退した場合の損失が最大で2700億円になると試算した。ただ、今回の日立の決断を市場は好感している。中断観測が広がった11日の同社の株価の終値は前日比8・6%上昇した。「政府の原発輸出戦略案件でも中断を合理的に判断できるのならば、ガバナンスが効いている証拠」(電機メーカー幹部)との声もある。

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日刊工業新聞2019年1月14日

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