利益率足踏みのパナソニック『アップデート』以外の注目施策とは?
津賀社長「今の利益水準は明らかに低い」
パナソニックが再び改革に挑む。2011―12年度に2期連続で巨額赤字を計上して以来、事業の選択と集中や事業間連携などテコ入れしてきたが、利益率の向上がいまだ課題だ。次期中期経営計画が始まる4月以降、事業ポートフォリオの見直しや、縦割り構造解消による経営効率の一層の向上を目指す。中計の最終年度には、就任から10年を超える見通しの津賀一宏社長。より筋肉質な経営体質を実現し、持続的な成長を軌道に乗せることが求められている。
津賀一宏社長は「アップデートする」というキーワードで事業改革を進めようとする。経営課題や次期中計の方針などを聞いた。
―「くらしアップデート」というコンセプトを掲げています。
「これまでは物事を単品で見ていた。しかし、くらしをアップデートするにはトータルで環境を考える必要がある。例えば以前の車は機械的で(同一の車を)アップデートすることは無理だったが、今の車はコンピューター化しており、容易にできる。家電や住環境も、同じくらい大胆に変えないといけない」
―社内で浸透していますか。
「打ち出してすぐに(企業体質が)変わるとは思わない。しかし、このままでは10年先もない。最近は暮らしに関係するしないにかかわらず、常に『それはアップデートできるのか』と聞いている。既にある商品のアップデートだけでは不十分だ。製品の作り方からガラッと変える必要がある。今や何十年もかけて研究開発するテーマはほんの一握り。スピード感も重要だ」
―継続的な課題である利益率向上に向けた対策は。
「事業ポートフォリオのマネジメントをきっちりとやらなければならない。次期中計では『2030年に生き残れる事業』という前提で、ポートフォリオ構成の見直しも進める。自社で継続するのか、より収益性の高い領域をどう得るか、そのためには外部に切り出してキャッシュを確保した方がいいのか―。これらを検討する」
―19年3月期の営業利益率は5・1%を見込みます。
「今の利益水準は明らかに低い。株価の水準や時価総額も、当社はもう少し高い実力があるのではないか。『事業・地域・くらしのアップデート』という方向性は定まった。これを軸にきっちりマネジメントする。次期中計ではオーガニック成長(自立的成長)を達成するには何をすべきか、明確に打ち出す」
―4月にはカンパニー制を拡大し、米国と中国にも設置します。
「イノベーションが起きる市場は米国で、間違いなく成長するのは中国だ。これまでの4カンパニーと事業部制だけでは対応し切れない。中国では、社内カンパニーのアプライアンス社とエコソリューションズ社のような暮らしを軸に、これまでとは別の枠組みで事業部を作ることを考える。米国ではパートナー探しを強化する」
「家電や住環境も、(コンピューターを導入した自動車と)同じくらい大胆に変えないといけない」―。8日(日本時間9日)に米ラスベガスで開幕した世界最大級の家電・IT見本市「CES」で取材に応じた津賀社長は、パナソニックが目指す方向性として掲げるキーワード「くらしアップデート」についてこう説明した。その上で、「製品の作り方からガラッと変える必要がある」と決意を述べた。
くらしアップデートの考えが社内で十分に浸透したとはいえないものの、会社のマインド変化を象徴する成果の一部は、CESでもうかがえる。冷蔵ショーケースを搭載した自動運転機能を備えた電気自動車(EV)のコンセプトカーは、車載機器事業と家電事業の連携の一例だ。
全社の横串を通す動きも進み、日本が中心のサイクルユニットを搭載した電動アシスト自転車の北米投入も決定。米ケントとの協業で19年度に発売する。
くらしアップデートという目標を実現するには、イノベーションにつながる経営スピードと、異分野の知見を活用できる事業間の連携基盤が必要となる。宮部義幸専務執行役員は、「タテの概念を崩して新たな概念の商品やソリューションを生み出さねば、パナソニックの将来はない」と危機感を隠さない。
そこで17年から取り組むのが“完璧な製品”ではなく、その前段階で市場投入することで、新規事業を短期間で立ち上げる米シリコンバレーの開発拠点「パナソニックβ」だ。
日本の事業部から社員を派遣し、その経験を再度日本の本社へと循環することで、全社のスピードを向上することも狙う。
CESでも、パナソニックβの取り組みや、そこから生まれた住宅向けIoT(モノのインターネット)基盤「ホームX」を紹介。宮部専務執行役員は、「βは既存事業を変えようと動いてくれている。期待以上だ」と手放しで評価する。
ただしリーマン・ショックで同様に経営不振に陥ったソニーや日立といった日系電機メーカーが営業利益率8%を達成する中、パナソニックは同5・1%と足踏みする。
今後はより大胆な事業の取捨選択に加え、モノ売りだけに頼らない高収益事業の創出加速が不可欠だ。それにはβや事業間連携の取り組みを社内の細部にまで広げることやその浸透、さらに事業効率や経営スピードを一層高めることが必要だ。
宮部専務執行役員は「大きな枠組みはできた。後は既存の取り組みを徹底的にやるのみ」と力を込める。18年に創業100年を迎え、最初に打ち出す中計は、今後の飛躍を占う重要な転換点となりそうだ。
(文=政年佐貴恵)
『2030年に生き残れる事業』でポートフォリオ見直し
津賀一宏社長は「アップデートする」というキーワードで事業改革を進めようとする。経営課題や次期中計の方針などを聞いた。
―「くらしアップデート」というコンセプトを掲げています。
「これまでは物事を単品で見ていた。しかし、くらしをアップデートするにはトータルで環境を考える必要がある。例えば以前の車は機械的で(同一の車を)アップデートすることは無理だったが、今の車はコンピューター化しており、容易にできる。家電や住環境も、同じくらい大胆に変えないといけない」
―社内で浸透していますか。
「打ち出してすぐに(企業体質が)変わるとは思わない。しかし、このままでは10年先もない。最近は暮らしに関係するしないにかかわらず、常に『それはアップデートできるのか』と聞いている。既にある商品のアップデートだけでは不十分だ。製品の作り方からガラッと変える必要がある。今や何十年もかけて研究開発するテーマはほんの一握り。スピード感も重要だ」
―継続的な課題である利益率向上に向けた対策は。
「事業ポートフォリオのマネジメントをきっちりとやらなければならない。次期中計では『2030年に生き残れる事業』という前提で、ポートフォリオ構成の見直しも進める。自社で継続するのか、より収益性の高い領域をどう得るか、そのためには外部に切り出してキャッシュを確保した方がいいのか―。これらを検討する」
―19年3月期の営業利益率は5・1%を見込みます。
「今の利益水準は明らかに低い。株価の水準や時価総額も、当社はもう少し高い実力があるのではないか。『事業・地域・くらしのアップデート』という方向性は定まった。これを軸にきっちりマネジメントする。次期中計ではオーガニック成長(自立的成長)を達成するには何をすべきか、明確に打ち出す」
―4月にはカンパニー制を拡大し、米国と中国にも設置します。
「イノベーションが起きる市場は米国で、間違いなく成長するのは中国だ。これまでの4カンパニーと事業部制だけでは対応し切れない。中国では、社内カンパニーのアプライアンス社とエコソリューションズ社のような暮らしを軸に、これまでとは別の枠組みで事業部を作ることを考える。米国ではパートナー探しを強化する」
CESで見えた“アップデート”の形
「家電や住環境も、(コンピューターを導入した自動車と)同じくらい大胆に変えないといけない」―。8日(日本時間9日)に米ラスベガスで開幕した世界最大級の家電・IT見本市「CES」で取材に応じた津賀社長は、パナソニックが目指す方向性として掲げるキーワード「くらしアップデート」についてこう説明した。その上で、「製品の作り方からガラッと変える必要がある」と決意を述べた。
くらしアップデートの考えが社内で十分に浸透したとはいえないものの、会社のマインド変化を象徴する成果の一部は、CESでもうかがえる。冷蔵ショーケースを搭載した自動運転機能を備えた電気自動車(EV)のコンセプトカーは、車載機器事業と家電事業の連携の一例だ。
全社の横串を通す動きも進み、日本が中心のサイクルユニットを搭載した電動アシスト自転車の北米投入も決定。米ケントとの協業で19年度に発売する。
くらしアップデートという目標を実現するには、イノベーションにつながる経営スピードと、異分野の知見を活用できる事業間の連携基盤が必要となる。宮部義幸専務執行役員は、「タテの概念を崩して新たな概念の商品やソリューションを生み出さねば、パナソニックの将来はない」と危機感を隠さない。
縦割り、完成品…既存の前提条件崩すパナソニックβ
そこで17年から取り組むのが“完璧な製品”ではなく、その前段階で市場投入することで、新規事業を短期間で立ち上げる米シリコンバレーの開発拠点「パナソニックβ」だ。
日本の事業部から社員を派遣し、その経験を再度日本の本社へと循環することで、全社のスピードを向上することも狙う。
CESでも、パナソニックβの取り組みや、そこから生まれた住宅向けIoT(モノのインターネット)基盤「ホームX」を紹介。宮部専務執行役員は、「βは既存事業を変えようと動いてくれている。期待以上だ」と手放しで評価する。
ただしリーマン・ショックで同様に経営不振に陥ったソニーや日立といった日系電機メーカーが営業利益率8%を達成する中、パナソニックは同5・1%と足踏みする。
今後はより大胆な事業の取捨選択に加え、モノ売りだけに頼らない高収益事業の創出加速が不可欠だ。それにはβや事業間連携の取り組みを社内の細部にまで広げることやその浸透、さらに事業効率や経営スピードを一層高めることが必要だ。
宮部専務執行役員は「大きな枠組みはできた。後は既存の取り組みを徹底的にやるのみ」と力を込める。18年に創業100年を迎え、最初に打ち出す中計は、今後の飛躍を占う重要な転換点となりそうだ。
(文=政年佐貴恵)
日刊工業新聞2019年1月10日掲載