ニュースイッチ

12万円超も!高級美容クリームに見る感情研究の最先端

花王・カネボウやポーラ
 内側から肌をきれいに―。近年、化粧品メーカーでは感情に着目した製品開発が始まっている。花王はクリームを塗る際の肌を慈しむ行動「ハンドプレス」に、ポーラはさまざまな感情を引き出すクリームの感触に着目。各社、化粧品に「肌を健やかに保つ」以上の役割を与えようとしている。

 「日本の女性はクリームでスキンケアする際、肌を慈しむようにハンドプレスしながら塗る。海外ではこの行為すらしないため、周知させる意味がある」。花王の開発研究第1セクタースキンケア研究所の森河朋彦研究員は研究意図を明かす。

 同社は20―49歳の女性にクリームをハンドプレスで塗り込むスキンケアをしてもらいデータを採取。ハンドプレスで快感情が喚起されることと、この感情により肌の質感が向上することを確認した。

 さらに同社はポジティブな感情を喚起できるクリームを研究。感触を工夫し、従来の同社製品とは違うクリームを開発した。現在、子会社のカネボウ化粧品が展開するブランド「カネボウ ザ エクセプショナル」シリーズの中で技術を活用している。

 今後、クリームタイプ以外の化粧品でも快感情を引き出せるよう研究を進める。クリームの感触と塗る行為、双方で快感情を引き出し、肌の質感改善につなげる。

 またポーラの子会社ポーラ化成工業でもクリームの感触と感情の関係を研究している。一般消費者369人に8種類のクリーム比較と感情記入を依頼。結果を分析し、種類によって「前向きさ」などの意識に違いが生じることを突き止めた。

 この結果を生かし、誕生したのが「Vリゾネイティッククリーム」だ。多くの人が「ポジティブな感情になった」と答えたクリームの質感を取り入れたという。

 フロンティアリサーチセンターの西田直人副主任研究員は「どんなクリームを使うと、どんな感情が引き出されるかがわかった。ニーズに合わせた形で製品に技術を提供できれば」と笑顔をみせる。

 現在同社ではマサチューセッツ工科大学内の学術研究機関「MITメディアラボ」のコンソーシアムに参画している。同機関内には感情を扱っている部署もあり、共同で研究することも検討中だという。今後、肌、化粧品、感情の関係性の研究が加速しそうだ。

 多種多様な化粧品が販売されている現代において、新たな技術は生まれにくくなっている。感情という新たな部分へのアプローチで、他社との差異化を図る。
ポーラが昨年発売した「Vリゾネイティッククリーム」

(文=門脇花梨)
日刊工業新聞2018年12月24日掲載
梶原洵子
梶原洵子 Kajiwara Junko 編集局第二産業部 記者
化粧品と感情・感性の研究は古くて新しいテーマ。例えば、5万円のクリームは1万円のものに比べ、中身だけでなく、外箱からパッケージ、香り、感触…全てにおいて女性の感情に訴えかける上質さ、満足感、ポジティブなイメージでなければ買ってもらえません。10年前に取材した某メーカーでは、スパチュラでクリームをすくった時の感触も全然違うものにしていると聞いて驚きました。記事中のカネボウのクリームは税抜き12万円、ポーラのクリームも税込みで6万円超。肌の研究との組み合わせや、より狙った感情を引き出すなど、感情研究も最高峰のようです。

編集部のおすすめ