増える女性経営者、活躍できるのはなぜ?
“思いがけない継承”も女性目線で活路を開く
近年、家業を引き継ぐ女性経営者が増えている。後継者の不在がクローズアップされる中、存続の義務感から経営を引き継ぎ、女性目線で新規事業や改革を実施。着実に成果を上げているほか、一連の取り組みを通じて社員との一体感も形成している。中小企業を取り巻く課題の一つである事業承継問題を解決する一助にもなりそうだ。多くの困難を乗り越え、さらなる発展を目指す女性経営者たちを追った。
1952年創業の平安伸銅工業(大阪市西区)は収納用品「突っ張り棒」を中心に事業展開してきた。3代目の竹内香予子社長は2010年に入社。前職は新聞記者だった。先代の父親が体調を崩したことや自身の仕事に限界を感じていたことで「入社と同時に継ぐことを決めた」。それまで両親に継いでほしいと一度も言われたことがなかったという。
入社後は製造委託している中国の協力工場の品質管理担当などを経て経理部に配属。直近の決算書を見て衝撃を受けた。入社した10年度の売上高がピーク時の3分の1以下の14億円まで落ち込んでいたのだ。競合の激化で商品単価が下がっていた。父の努力で事業規模を縮小しながら黒字経営は維持していた。
「先行きのことを考えて経営の勉強をしよう」。そこで門をたたいたのが当時、神戸大学大学院の忽那憲治教授が主催していた「アントレプレナーファイナンス実践塾」だった。ある時、新規ビジネスの可能性を探るため既存商品の優位性を測定する「アトリビュート分析」を実施。平安伸銅の「突っ張り棒」を当てはめたところ、顧客が興奮する要素がまったくなかったことに再び衝撃を受けた。
講座を終えた竹内社長は行動に出る。暮らしに役立つノウハウを提供するウェブメディアなど「失敗を重ねながら同時並行で新しいプロジェクトを進めていった」。15年に社長就任。デザイン会社の意見をもとに新商品と既存商品の担当者を分けた結果、社内の混乱が収まり社員とのコミュニケーションも改善されていった。
突っ張り棒をベースにしたデザイン性の高いインテリア商品「ドローアライン」など新商品を相次いで投入できるようになった。新商品や既存商品の改良などもあって17年度に売上高を約26億円まで回復させた。今後は新商品の売り上げ増に合わせて新たな社内体制を整える方針だ。
「最初は社員があいさつしない、トイレも汚いといった状態だった」と振り返るのは山仁薬品(大阪市北区)の関谷康子社長だ。54年創業で食品などの品質保持のためシリカゲル乾燥剤を製造・販売してきた同社の事業スキームを転換。現在は医薬品専門の乾燥剤メーカーとして製薬業界に存在感を示している。しかし、3代目社長として就任した10年当時は課題が山積していた。
関谷社長も家業を継ぐ気はなかった。杏林製薬(東京都千代田区)の医薬情報担当者(MR)として充実した日々を送っていたが、先代である父の病気をきっかけに継ぐことを決意。「会社のことは何も知らないし、決算書も読めない」という状態で09年に入社。翌年には社長に就任するが、社内は3S(整理、整頓、清掃)活動もできていない状態だった。
そこで関谷社長は1人黙々と清掃したり、社員一人ひとりにあいさつをかけたりするなど社内の改革に挑んでいった。「改革と言っても社員は分からない。見せた方が早い」。3S活動は6年目を迎えたが、社員の意識は大きく変わった。18年は中途入社した2人を3S活動のリーダーに任命。改善提案や活動報告のプレゼンテーションなど社員のスキル向上に取り組む。
14年にはカンボジアに進出。同国内に乾燥剤を供給するほか、東南アジアの企業や現地日系企業への売り込みも視野に入れる。16年からは自社のブランディングにも力を入れている。
製薬業界の多様なニーズに対応し、品質の保持と安定供給に向けた設備投資を毎年行っている。18年には老朽化した工場を閉鎖し、生産拠点を彦根工場(滋賀県甲良町)に集約した。改革や戦略が実を結び業績も堅調。18年12月期は売上高約6億円を見込む。中期的には同10億円を狙う。
ここに挙げた2人の女性経営者は思いがけない経緯で事業承継を経験した。関谷山仁薬品社長は「自分の会社という感じがしない」と語る。一方で「女性は目配り、気配り、心配りができ、長い目で経営を見ることができる」と指摘する。竹内平安伸銅社長も「トップに男性が多い中で女性が社長をやるからイノベーションを起こせる」と話す。女性の目線ときめ細かさを武器に、今後も事業承継で経営力を発揮する女性経営者が増えそうだ。
女性経営者の事業承継が増える一方で課題もある。ファミリービジネス(同族経営企業)の事業承継などに取り組むFBマネジメント(東京都中央区)の山田一歩社長に課題解決策などを聞いた。
―女性の事業承継についての認識は。
「増えているという印象はある。女性がすごく働くことに抵抗感がなくなったことも一因にある。オーナー側も息子だけでなく娘を後継者の選択肢に入れるようになってきた。女性が事業継承しないと後継者不在の企業も現実的に多い。事業承継も計画的なものと急きょ継いだという2通りがある。現状は後者の方が多いと思う」
―急な承継だと課題が多そうですね。
「経営を全然分かっていない状況で継ぐ例がある。プライドの高い人ほど自分の方針を社員に強く求めてしまいがちだ。それで社員が辞めてしまうことがある。よく経営のことが分からないのに気を張って空回りするケースがみられる。番頭役の幹部社員と二人三脚で取り組んでいる企業はうまくいっている」
―女性後継者の支援策として考えるべきことはありますか。
「事業承継するまでの相談相手が少ないと思う。結婚して育児しながら仕事するというケースも考えられる。先輩経営者のアドバイスを聞き、同じ悩みを共有できるようなコミュニティーが圧倒的に少ない。大学や金融機関などがコミュニティーを提供し、多くの事業承継の事例に触れながら学んでいくことが大事だと思う」
(文=編集委員・渡部敦)
入社時に決断
1952年創業の平安伸銅工業(大阪市西区)は収納用品「突っ張り棒」を中心に事業展開してきた。3代目の竹内香予子社長は2010年に入社。前職は新聞記者だった。先代の父親が体調を崩したことや自身の仕事に限界を感じていたことで「入社と同時に継ぐことを決めた」。それまで両親に継いでほしいと一度も言われたことがなかったという。
入社後は製造委託している中国の協力工場の品質管理担当などを経て経理部に配属。直近の決算書を見て衝撃を受けた。入社した10年度の売上高がピーク時の3分の1以下の14億円まで落ち込んでいたのだ。競合の激化で商品単価が下がっていた。父の努力で事業規模を縮小しながら黒字経営は維持していた。
「先行きのことを考えて経営の勉強をしよう」。そこで門をたたいたのが当時、神戸大学大学院の忽那憲治教授が主催していた「アントレプレナーファイナンス実践塾」だった。ある時、新規ビジネスの可能性を探るため既存商品の優位性を測定する「アトリビュート分析」を実施。平安伸銅の「突っ張り棒」を当てはめたところ、顧客が興奮する要素がまったくなかったことに再び衝撃を受けた。
講座を終えた竹内社長は行動に出る。暮らしに役立つノウハウを提供するウェブメディアなど「失敗を重ねながら同時並行で新しいプロジェクトを進めていった」。15年に社長就任。デザイン会社の意見をもとに新商品と既存商品の担当者を分けた結果、社内の混乱が収まり社員とのコミュニケーションも改善されていった。
突っ張り棒をベースにしたデザイン性の高いインテリア商品「ドローアライン」など新商品を相次いで投入できるようになった。新商品や既存商品の改良などもあって17年度に売上高を約26億円まで回復させた。今後は新商品の売り上げ増に合わせて新たな社内体制を整える方針だ。
社内改革に着手
「最初は社員があいさつしない、トイレも汚いといった状態だった」と振り返るのは山仁薬品(大阪市北区)の関谷康子社長だ。54年創業で食品などの品質保持のためシリカゲル乾燥剤を製造・販売してきた同社の事業スキームを転換。現在は医薬品専門の乾燥剤メーカーとして製薬業界に存在感を示している。しかし、3代目社長として就任した10年当時は課題が山積していた。
関谷社長も家業を継ぐ気はなかった。杏林製薬(東京都千代田区)の医薬情報担当者(MR)として充実した日々を送っていたが、先代である父の病気をきっかけに継ぐことを決意。「会社のことは何も知らないし、決算書も読めない」という状態で09年に入社。翌年には社長に就任するが、社内は3S(整理、整頓、清掃)活動もできていない状態だった。
そこで関谷社長は1人黙々と清掃したり、社員一人ひとりにあいさつをかけたりするなど社内の改革に挑んでいった。「改革と言っても社員は分からない。見せた方が早い」。3S活動は6年目を迎えたが、社員の意識は大きく変わった。18年は中途入社した2人を3S活動のリーダーに任命。改善提案や活動報告のプレゼンテーションなど社員のスキル向上に取り組む。
14年にはカンボジアに進出。同国内に乾燥剤を供給するほか、東南アジアの企業や現地日系企業への売り込みも視野に入れる。16年からは自社のブランディングにも力を入れている。
製薬業界の多様なニーズに対応し、品質の保持と安定供給に向けた設備投資を毎年行っている。18年には老朽化した工場を閉鎖し、生産拠点を彦根工場(滋賀県甲良町)に集約した。改革や戦略が実を結び業績も堅調。18年12月期は売上高約6億円を見込む。中期的には同10億円を狙う。
女性の目線
ここに挙げた2人の女性経営者は思いがけない経緯で事業承継を経験した。関谷山仁薬品社長は「自分の会社という感じがしない」と語る。一方で「女性は目配り、気配り、心配りができ、長い目で経営を見ることができる」と指摘する。竹内平安伸銅社長も「トップに男性が多い中で女性が社長をやるからイノベーションを起こせる」と話す。女性の目線ときめ細かさを武器に、今後も事業承継で経営力を発揮する女性経営者が増えそうだ。
FBマネジメント社長・山田一歩氏 事例に触れ学ぶこと大事
女性経営者の事業承継が増える一方で課題もある。ファミリービジネス(同族経営企業)の事業承継などに取り組むFBマネジメント(東京都中央区)の山田一歩社長に課題解決策などを聞いた。
―女性の事業承継についての認識は。
「増えているという印象はある。女性がすごく働くことに抵抗感がなくなったことも一因にある。オーナー側も息子だけでなく娘を後継者の選択肢に入れるようになってきた。女性が事業継承しないと後継者不在の企業も現実的に多い。事業承継も計画的なものと急きょ継いだという2通りがある。現状は後者の方が多いと思う」
―急な承継だと課題が多そうですね。
「経営を全然分かっていない状況で継ぐ例がある。プライドの高い人ほど自分の方針を社員に強く求めてしまいがちだ。それで社員が辞めてしまうことがある。よく経営のことが分からないのに気を張って空回りするケースがみられる。番頭役の幹部社員と二人三脚で取り組んでいる企業はうまくいっている」
―女性後継者の支援策として考えるべきことはありますか。
「事業承継するまでの相談相手が少ないと思う。結婚して育児しながら仕事するというケースも考えられる。先輩経営者のアドバイスを聞き、同じ悩みを共有できるようなコミュニティーが圧倒的に少ない。大学や金融機関などがコミュニティーを提供し、多くの事業承継の事例に触れながら学んでいくことが大事だと思う」
(文=編集委員・渡部敦)
日刊工業新聞2018年12月17日