防災・点検・農業・物流に…ドローン事業の最前線を追う
飛行ロボット(ドローン)の基本的な運用ルールを定めた改正航空法の施行から10日で3年を迎える。ドローンの飛行申請数は急激に伸びており、防災や防犯、農業、物流、航空写真などさまざまな場面で身近になってきた。ドローン関連のスクールも全国で開かれている。ドローン活用の現在を追った。
ドローンの実利用が先行するのは、防災や農業分野だ。SOMPOホールディングスはグループで16機のドローンを保有、豪雨災害後の被災現場調査などに活用する。ドローンはヘリコプターより小型・軽量で電柱やビルの高さスレスレの低空にも降りられるため、鮮明画像を撮影できる利点がある。被害状況を短時間・正確に把握できる手段として期待されている。
11月には同社傘下の損保ジャパン日本興亜が、東京都新宿区などと共同で、新宿西口エリアでドローンを活用した超高層ビル街複数拠点の災害対応実験を行った。複数地点で飛ばしたドローンの撮影映像を関係者がリアルタイムで共有、状況判断と住民への避難誘導に役立てる。
ドローンにはスピーカーを搭載し、どこへ逃げたらいいか分からない人々に、公園などへの避難ルートを示す。「実験の結果、音声などの問題点はほぼ解消した。関係者らと、より現実に近い形の訓練ができた」と同社は語る。
また、関西電力は、送電線や火力発電所の点検などにドローンを試験導入した。さらに子会社のかんでんエンジニアリング(大阪市北区)はドローンを使う大規模太陽光発電所(メガソーラー)向けの太陽電池の故障診断サービスを2018年度から始めた。
電力会社は鉄塔や変電所、ケーブルなど大量設備を持つ。少子化で技術者が減少する中、危険な作業のロボット導入は欠かせない。
関電の大石富彦取締役は「(ドローンは)火力発電所の煙突の高所作業、ボイラの点検などに生かせる」と説明する。水深の深い場所で長時間潜る作業では、水中ドローンの活用も模索する。将来は災害時の電力復旧作業も視野に入れる。
一方、ミライト・テクノロジーズ(大阪市西区)はコマツと業務提携し、工事現場の情報通信技術(ICT)管理に生かしている。現場でスムーズなデータ処理ができるコマツの「エッジボックス」と自動運行のドローンを連携させ、1日近くかかっていた3D点群データの作成を数十分で可能にした。現場の施工状況を管理するのに大きな戦力となる。
また、ドローンネット(東京都千代田区)は、高齢者の安否確認や産業廃棄物など不法投棄の監視に、ドローン活用を提案している。徘徊(はいかい)老人の追跡や発見に、ドローンが役立つと考え、地方自治体に採用を呼びかける。夜間に活動するイノシシやシカなどの鳥獣被害対策にも、ドローンが有効と見ている。
農業分野でも普及が進む。ヘリコプターよりも低空で飛べるため、農薬を作物に近い場所で噴霧でき、農薬コストや散布の量を節約できる。中山間地の田畑や野菜などの栽培では、ドローンの方がヘリより有効であるとの見方が多い。ピンポイントで農薬をまけるため、付近の有機栽培の田畑へも影響が少ないし、害虫発見や生育監視の画像も高精度なものが得られる。ヘリや衛星画像では畝一つ一つや1株単位の管理は困難だが、ドローンでは実現性が高い。
農林水産省が進めるスマート農業や精密農業の需要にも、マッチする。ヤマハ発動機やエンルート(埼玉県朝霞市)、TEAD(群馬県高崎市)、ナイルワークス(東京都渋谷区)などが関連事業を加速している。
物流では過疎地や山奥での物資輸送などに、ドローン活用実験が始まった。限界集落に住む高齢者宅に食料品や介護用品を届けるのは、コストがかさむ。そうした社会福祉の側面からも、ドローンが期待されている。日本郵便はブルー・イノベーション(東京都文京区)と共同で、長野県伊那市で配送実験を始めている。
国土交通省によると法改正以来、申請件数は増え続けており、10月末現在で約5万5000件を突破した。人手不足や業務の効率化などを背景に、今後もドローン活用の場面は増加する。ドローンならではの新しいビジネスモデルが生まれる機会も広がりつつある。
ドローンは無人ヘリコプターよりも操縦が簡単で低空を飛ばせるが、誰でも自由に飛ばせるわけではない。飛行禁止エリアで飛ばす場合は国の許可が必要で、この許可を得るための方法や操縦者の大量育成にも、それぞれにノウハウがある。それを狙った事業者も登場している。
スカイエステート(東京都目黒区)は人材派遣会社と組んで、ドローン操縦士を企業に派遣したり、紹介したりするビジネスを始めた。国土交通省認定講習団体の指定を受け、ドローンスクールを運営する利点を生かす。オリックス・レンテック(東京都品川区)も、操縦士を養成する法人向け講習を始めた。
また、関西電力も、17年11月に業務提携したドローン撮影クリエイターズ協会(京都市南区)とドローン操縦者の養成や活用したサービスの開発に取り組んでいる。
改正航空法とは…
15年12月10日施行。重さが200グラムを超えるドローンの飛行は、高さ150メートル以上の空域や空港などの周辺、人口集中地区の上空では禁止された。これらのエリアで飛ばしたい場合、国からの許可が必要。>
(文=嶋田歩、香西貴之)
安全・安心 空からチェック
ドローンの実利用が先行するのは、防災や農業分野だ。SOMPOホールディングスはグループで16機のドローンを保有、豪雨災害後の被災現場調査などに活用する。ドローンはヘリコプターより小型・軽量で電柱やビルの高さスレスレの低空にも降りられるため、鮮明画像を撮影できる利点がある。被害状況を短時間・正確に把握できる手段として期待されている。
11月には同社傘下の損保ジャパン日本興亜が、東京都新宿区などと共同で、新宿西口エリアでドローンを活用した超高層ビル街複数拠点の災害対応実験を行った。複数地点で飛ばしたドローンの撮影映像を関係者がリアルタイムで共有、状況判断と住民への避難誘導に役立てる。
ドローンにはスピーカーを搭載し、どこへ逃げたらいいか分からない人々に、公園などへの避難ルートを示す。「実験の結果、音声などの問題点はほぼ解消した。関係者らと、より現実に近い形の訓練ができた」と同社は語る。
また、関西電力は、送電線や火力発電所の点検などにドローンを試験導入した。さらに子会社のかんでんエンジニアリング(大阪市北区)はドローンを使う大規模太陽光発電所(メガソーラー)向けの太陽電池の故障診断サービスを2018年度から始めた。
電力会社は鉄塔や変電所、ケーブルなど大量設備を持つ。少子化で技術者が減少する中、危険な作業のロボット導入は欠かせない。
関電の大石富彦取締役は「(ドローンは)火力発電所の煙突の高所作業、ボイラの点検などに生かせる」と説明する。水深の深い場所で長時間潜る作業では、水中ドローンの活用も模索する。将来は災害時の電力復旧作業も視野に入れる。
一方、ミライト・テクノロジーズ(大阪市西区)はコマツと業務提携し、工事現場の情報通信技術(ICT)管理に生かしている。現場でスムーズなデータ処理ができるコマツの「エッジボックス」と自動運行のドローンを連携させ、1日近くかかっていた3D点群データの作成を数十分で可能にした。現場の施工状況を管理するのに大きな戦力となる。
また、ドローンネット(東京都千代田区)は、高齢者の安否確認や産業廃棄物など不法投棄の監視に、ドローン活用を提案している。徘徊(はいかい)老人の追跡や発見に、ドローンが役立つと考え、地方自治体に採用を呼びかける。夜間に活動するイノシシやシカなどの鳥獣被害対策にも、ドローンが有効と見ている。
農業スマート化にマッチ/過疎地への物資輸送で活躍
農業分野でも普及が進む。ヘリコプターよりも低空で飛べるため、農薬を作物に近い場所で噴霧でき、農薬コストや散布の量を節約できる。中山間地の田畑や野菜などの栽培では、ドローンの方がヘリより有効であるとの見方が多い。ピンポイントで農薬をまけるため、付近の有機栽培の田畑へも影響が少ないし、害虫発見や生育監視の画像も高精度なものが得られる。ヘリや衛星画像では畝一つ一つや1株単位の管理は困難だが、ドローンでは実現性が高い。
農林水産省が進めるスマート農業や精密農業の需要にも、マッチする。ヤマハ発動機やエンルート(埼玉県朝霞市)、TEAD(群馬県高崎市)、ナイルワークス(東京都渋谷区)などが関連事業を加速している。
物流では過疎地や山奥での物資輸送などに、ドローン活用実験が始まった。限界集落に住む高齢者宅に食料品や介護用品を届けるのは、コストがかさむ。そうした社会福祉の側面からも、ドローンが期待されている。日本郵便はブルー・イノベーション(東京都文京区)と共同で、長野県伊那市で配送実験を始めている。
国土交通省によると法改正以来、申請件数は増え続けており、10月末現在で約5万5000件を突破した。人手不足や業務の効率化などを背景に、今後もドローン活用の場面は増加する。ドローンならではの新しいビジネスモデルが生まれる機会も広がりつつある。
ドローンスクール 育成ノウハウ多彩
ドローンは無人ヘリコプターよりも操縦が簡単で低空を飛ばせるが、誰でも自由に飛ばせるわけではない。飛行禁止エリアで飛ばす場合は国の許可が必要で、この許可を得るための方法や操縦者の大量育成にも、それぞれにノウハウがある。それを狙った事業者も登場している。
スカイエステート(東京都目黒区)は人材派遣会社と組んで、ドローン操縦士を企業に派遣したり、紹介したりするビジネスを始めた。国土交通省認定講習団体の指定を受け、ドローンスクールを運営する利点を生かす。オリックス・レンテック(東京都品川区)も、操縦士を養成する法人向け講習を始めた。
また、関西電力も、17年11月に業務提携したドローン撮影クリエイターズ協会(京都市南区)とドローン操縦者の養成や活用したサービスの開発に取り組んでいる。
15年12月10日施行。重さが200グラムを超えるドローンの飛行は、高さ150メートル以上の空域や空港などの周辺、人口集中地区の上空では禁止された。これらのエリアで飛ばしたい場合、国からの許可が必要。>
(文=嶋田歩、香西貴之)
日刊工業新聞2018年12月5日