通商リスクに中国市場の減速…日系自動車メーカーはどう生き抜くか
決算の潮目を読む
自動車各社の事業環境は2018年下期(10月−19年3月)に入り不透明感が増している。乗用車7社の2019年3月期連結決算で増収・営業増益を見込むのはトヨタ自動車と三菱自動車の2社に留まる。為替の円高の影響や、販売面では米中の2大自動車市場の減速が懸念材料だ。また米トランプ政権の保護主義的な通商政策のマイナス影響がじわりと出る。商用車はアジアで好調な一方、次世代車の開発や新サービスの構築に動く。
マークラインズによると米国の18年1―10月累計の新車販売は、前年同期比0・2%増の1426万台と横ばい状態にある。トヨタの北米担当のジム・レンツ専務役員は米国市場について「全体として消費者のマインドは良いが、逆風がある。また複雑性が増している」と表現する。同社の4―9月期連結決算で北米事業の営業利益は前年同期比2・8%減の1372億円と落ち込んだ。
日産自動車は19年3月期の北米販売について前期比2・9%減の203万台で、そのうち米国販売は同2・7%減の155万台と見通す。高止まりするインセンティブ(販売奨励金)の抑制が最重要課題。「成果は出てきたが、まだ不十分」(軽部博最高財務責任者〈CFO〉)。主力セダン「アルティマ」を6年ぶりに刷新して10月に投入しており取り組みを加速する。
中国の新車市場は減速感が強まっている。18年1―9月累計の販売台数は前年同期比1・5%増と前年同期比プラスをなんとか維持している状況。通期で日産やホンダは前期以上の販売を計画するが、生産撤退を決めたスズキやマツダは前年割れとなる見込み。
今後については「中長期的には市場・経済ともに回復すると見込んでいる」(内田誠日産専務執行役員)、「これからクリスマス商戦を迎え(消費が伸び)、全体市場は17年比3%増の3000万台強になる」(倉石誠司ホンダ副社長)と楽観的な声がある一方、「中国の消費マインドは冷え込んでいる。早期の回復は難しい」(青山裕大マツダ常務執行役員)と見方が分かれる。いずれにせよ各社は販売コストを抑えつつ、ニーズに合った新車を投入して需要喚起するという“正攻法”の精度を高める必要がある。
アジア市場はおおむね堅調で、スズキが主力のインドで前期比8%増を見込む。三菱自動車はスポーツ多目的車(SUV)の新型車投入効果などによりタイやインドネシアで拡販を狙う。
なおスバルは完成検査の不正問題を受け、通期での地域別販売台数見通しの公表を見送った。
米トランプ政権の自国優先の通商政策が日系自動車メーカーの業績や経営戦略に影響を与え始めた。鉄鋼・アルミニウムの追加関税により原材料費が上がっているほか、原産地規制を強める方向で見直された北米自由貿易協定(NAFTA)はサプライチェーンの再考を促す。中間選挙を経てもトランプ大統領が自動車分野を貿易不均衡の主犯と位置付ける姿勢は変わらず、日系各社の通商リスクはなくならない。
米国、メキシコ、カナダは9月末、NAFTA見直しで暫定合意し、新協定「USMCA」がスタートする見通しとなった。USMCAの特徴は原産地規制を強化した点。完成車、部品ともに域内原産地割合を引き上げるほか、時給16ドル以上の地域で製造した部材を一定以上採用する「賃金条項」を導入する。
日系自動車メーカー各社幹部は「まだ新協定の詳細はわかっていない。まずは内容の精査が必要」と口をそろえるが、サプライチェーンを再考する動きが出始めた。トヨタ自動車と共同で21年までに米アラバマ州に新工場を建設するマツダは「米国での部品調達を増やさないといけないと認識している」(古賀亮取締役専務執行役員)と明らかにした。
またトヨタは、日本で生産するハイブリッド車(HV)の部品を、「順次、米国で生産することを視野に入れている」(小林耕士副社長)と話す。追加コストを受け入れ、USMCAに対応する方針を示した格好だ。
トランプ政権の保護主義的な通商政策は、自動車メーカーの業績に影響を与え始めた。一つが3月に実施した鉄鋼とアルミの関税引き上げだ。日産自動車は通期では原材料費が前期比800億円の営業損益の悪化要因になると見込むが、軽部博最高財務責任者(CFO)は「鉄鋼・アルミ関税引き上げの影響が一部出ている。800億円より少し増えそう」と表情を曇らせる。
またトランプ政権は自動車の輸入関税引き上げや数量規制を検討しており、その行方も見逃せない。日米政府は物品貿易協定(TAG)締結に向けた2国間交渉に入ることで合意し、交渉中は自動車の関税引き上げを留保する方向で一致した。しかしトランプ大統領は中間選挙後の記者会見で、自動車分野を念頭に対日貿易赤字への不満を改めて示した。
ホンダの倉石誠司副社長は米国の自動車輸入制限が棚上げになったことについて「政府の交渉に感謝するが、あくまで先延ばしになった状態」と警戒し、「(完全回避できるよう)政府には継続的に取り組んでほしい」と要望している。
上場する国内大手商用車メーカー2社は、2019年3月期連結業績予想で売上高や営業利益など各利益段階の見通しを上方修正した。国内市場は堅調さを持続するほか、海外市場でも東南アジアを中心に販売増を見込む。為替や原材料価格の悪化など不安材料はあるものの、販売拡大に加えてサービスの拡充など成長路線を鮮明にしていく。
いすゞ自動車は19年3月期の売上高と営業利益で過去最高を見込む。引き続き業績をけん引するのが、タイやインドネシアなどのアジア地域の需要だ。19年3月期のアジアのトラック出荷台数は前期比13%増の7万8000台と伸長するほか、国内も19年3月期の出荷台数が同5%増の8万4000台と底堅い。中近東は販売が落ち込むが、アフリカ地域では回復基調を示しているという。
日野自動車は19年3月期のグローバル販売台数見通しを、従来予想の20万1000台から20万7000台に引き上げた。18年4―9月期のグローバル販売が半期として初めて10万台を超え過去最高を更新する勢いだ。国内やアジアが堅調に推移すると予想する。特に「さらなる成長市場」(下義生社長)と捉える主力のインドネシアを中心に販売の大幅増を見込む。
だが、利益面では懸念もある。為替と原材料価格の上昇だ。いすゞは19年3月期の為替想定レートで1ドルを当初計画より5円安い110円と見直したが、為替変動で前期比70億円の利益を押し下げると予想。片山正則社長は「新興国の通貨下落で厳しい面があるが、売り上げ増でカバーする」と語る。鋼材価格の高騰も想定する。日野自も1ドルを前回公表から5円安の110円と修正したが、インドネシアのルピアなど新興国の通貨安を見込む。為替変動と材料市況を合わせて、前期比240億円の営業減益要因としている。
好調な販売の一方で次代に向けた戦略も鮮明になりつつある。日野自は26年3月期に売上高2兆5000億円、グローバル販売30万台へ高める経営ビジョンを打ち出した。電動車の開発や整備などの保有ビジネスも積極化する。いすゞもテレマティクスを活用した整備サービス「プレイズム」を10月に発売した小型トラック「エルフ」にも拡充。「きめ細かい予防整備で入庫の平準化を図りたい」(片山社長)と期待する。両社とも19年3月期の設備投資や研究開発費を前期比で積み増しており、新たなトラックやサービスの展開も加速しそうだ。
マークラインズによると米国の18年1―10月累計の新車販売は、前年同期比0・2%増の1426万台と横ばい状態にある。トヨタの北米担当のジム・レンツ専務役員は米国市場について「全体として消費者のマインドは良いが、逆風がある。また複雑性が増している」と表現する。同社の4―9月期連結決算で北米事業の営業利益は前年同期比2・8%減の1372億円と落ち込んだ。
日産自動車は19年3月期の北米販売について前期比2・9%減の203万台で、そのうち米国販売は同2・7%減の155万台と見通す。高止まりするインセンティブ(販売奨励金)の抑制が最重要課題。「成果は出てきたが、まだ不十分」(軽部博最高財務責任者〈CFO〉)。主力セダン「アルティマ」を6年ぶりに刷新して10月に投入しており取り組みを加速する。
中国の新車市場は減速感が強まっている。18年1―9月累計の販売台数は前年同期比1・5%増と前年同期比プラスをなんとか維持している状況。通期で日産やホンダは前期以上の販売を計画するが、生産撤退を決めたスズキやマツダは前年割れとなる見込み。
今後については「中長期的には市場・経済ともに回復すると見込んでいる」(内田誠日産専務執行役員)、「これからクリスマス商戦を迎え(消費が伸び)、全体市場は17年比3%増の3000万台強になる」(倉石誠司ホンダ副社長)と楽観的な声がある一方、「中国の消費マインドは冷え込んでいる。早期の回復は難しい」(青山裕大マツダ常務執行役員)と見方が分かれる。いずれにせよ各社は販売コストを抑えつつ、ニーズに合った新車を投入して需要喚起するという“正攻法”の精度を高める必要がある。
アジア市場はおおむね堅調で、スズキが主力のインドで前期比8%増を見込む。三菱自動車はスポーツ多目的車(SUV)の新型車投入効果などによりタイやインドネシアで拡販を狙う。
なおスバルは完成検査の不正問題を受け、通期での地域別販売台数見通しの公表を見送った。
トランプ政権の制作が影響
米トランプ政権の自国優先の通商政策が日系自動車メーカーの業績や経営戦略に影響を与え始めた。鉄鋼・アルミニウムの追加関税により原材料費が上がっているほか、原産地規制を強める方向で見直された北米自由貿易協定(NAFTA)はサプライチェーンの再考を促す。中間選挙を経てもトランプ大統領が自動車分野を貿易不均衡の主犯と位置付ける姿勢は変わらず、日系各社の通商リスクはなくならない。
米国、メキシコ、カナダは9月末、NAFTA見直しで暫定合意し、新協定「USMCA」がスタートする見通しとなった。USMCAの特徴は原産地規制を強化した点。完成車、部品ともに域内原産地割合を引き上げるほか、時給16ドル以上の地域で製造した部材を一定以上採用する「賃金条項」を導入する。
日系自動車メーカー各社幹部は「まだ新協定の詳細はわかっていない。まずは内容の精査が必要」と口をそろえるが、サプライチェーンを再考する動きが出始めた。トヨタ自動車と共同で21年までに米アラバマ州に新工場を建設するマツダは「米国での部品調達を増やさないといけないと認識している」(古賀亮取締役専務執行役員)と明らかにした。
またトヨタは、日本で生産するハイブリッド車(HV)の部品を、「順次、米国で生産することを視野に入れている」(小林耕士副社長)と話す。追加コストを受け入れ、USMCAに対応する方針を示した格好だ。
トランプ政権の保護主義的な通商政策は、自動車メーカーの業績に影響を与え始めた。一つが3月に実施した鉄鋼とアルミの関税引き上げだ。日産自動車は通期では原材料費が前期比800億円の営業損益の悪化要因になると見込むが、軽部博最高財務責任者(CFO)は「鉄鋼・アルミ関税引き上げの影響が一部出ている。800億円より少し増えそう」と表情を曇らせる。
またトランプ政権は自動車の輸入関税引き上げや数量規制を検討しており、その行方も見逃せない。日米政府は物品貿易協定(TAG)締結に向けた2国間交渉に入ることで合意し、交渉中は自動車の関税引き上げを留保する方向で一致した。しかしトランプ大統領は中間選挙後の記者会見で、自動車分野を念頭に対日貿易赤字への不満を改めて示した。
ホンダの倉石誠司副社長は米国の自動車輸入制限が棚上げになったことについて「政府の交渉に感謝するが、あくまで先延ばしになった状態」と警戒し、「(完全回避できるよう)政府には継続的に取り組んでほしい」と要望している。
東南アジア堅調、商用車高成長
上場する国内大手商用車メーカー2社は、2019年3月期連結業績予想で売上高や営業利益など各利益段階の見通しを上方修正した。国内市場は堅調さを持続するほか、海外市場でも東南アジアを中心に販売増を見込む。為替や原材料価格の悪化など不安材料はあるものの、販売拡大に加えてサービスの拡充など成長路線を鮮明にしていく。
いすゞ自動車は19年3月期の売上高と営業利益で過去最高を見込む。引き続き業績をけん引するのが、タイやインドネシアなどのアジア地域の需要だ。19年3月期のアジアのトラック出荷台数は前期比13%増の7万8000台と伸長するほか、国内も19年3月期の出荷台数が同5%増の8万4000台と底堅い。中近東は販売が落ち込むが、アフリカ地域では回復基調を示しているという。
日野自動車は19年3月期のグローバル販売台数見通しを、従来予想の20万1000台から20万7000台に引き上げた。18年4―9月期のグローバル販売が半期として初めて10万台を超え過去最高を更新する勢いだ。国内やアジアが堅調に推移すると予想する。特に「さらなる成長市場」(下義生社長)と捉える主力のインドネシアを中心に販売の大幅増を見込む。
だが、利益面では懸念もある。為替と原材料価格の上昇だ。いすゞは19年3月期の為替想定レートで1ドルを当初計画より5円安い110円と見直したが、為替変動で前期比70億円の利益を押し下げると予想。片山正則社長は「新興国の通貨下落で厳しい面があるが、売り上げ増でカバーする」と語る。鋼材価格の高騰も想定する。日野自も1ドルを前回公表から5円安の110円と修正したが、インドネシアのルピアなど新興国の通貨安を見込む。為替変動と材料市況を合わせて、前期比240億円の営業減益要因としている。
好調な販売の一方で次代に向けた戦略も鮮明になりつつある。日野自は26年3月期に売上高2兆5000億円、グローバル販売30万台へ高める経営ビジョンを打ち出した。電動車の開発や整備などの保有ビジネスも積極化する。いすゞもテレマティクスを活用した整備サービス「プレイズム」を10月に発売した小型トラック「エルフ」にも拡充。「きめ細かい予防整備で入庫の平準化を図りたい」(片山社長)と期待する。両社とも19年3月期の設備投資や研究開発費を前期比で積み増しており、新たなトラックやサービスの展開も加速しそうだ。
日刊工業新聞2018年11月13、14、15日