伝統と新しい価値の融合で東京・日本橋は進化する
“活気と誇り”を取り戻す日本橋再生計画
東京・日本橋エリア(中央区)が大きく変わりつつある。三越や高島屋の店舗が今秋リニューアルしたほか、三井不動産などの手がける大型のオフィス・商業ビルの開業が相次ぐ。共通するのは日本橋というブランドの再創造。伝統を受け継ぎつつ、時代に沿った新たな価値を取り込み、街がかつてのにぎわいを取り戻す。
三越伊勢丹ホールディングス(HD)は24日、大改装していた日本橋三越本店をオープンした。同社の杉江俊彦社長は、「約30年ぶりに日本橋三越をリニューアルした。この町の発展、都心へのお客さまの流入増加を踏まえ、これから大きな投資をして、もっともっと良くしていきたい」とあいさつした。
「おもてなし」をキーワードに本館1階に顧客を迎えるレセプション、5階に限定会員向けのラウンジを設置。顧客に付き添ってブランドを超えた商品を提案する従業員「コンシェルジュ」を90人配置するなど、接客サービスに力を入れる。
一方、9月25日に日本橋高島屋に大型商業施設「日本橋高島屋S.C.(ショッピングセンター)」を開業した高島屋。本館、新館、東館、ウオッチメゾンの4館体制が整い、集客に自信を見せている。
開業して1カ月の高島屋には、1日に約5万人が来店。当初想定を1万7000人も上回る。木本茂社長は「開業効果で上振れしているのだろうが、順調な滑り出し」と喜ぶ。
グループ全体で「まちづくり」戦略を掲げる高島屋は、4館を街ととらえる。街歩きを楽しみながら買い物する設定だ。出店した約115の専門店は、職場でも家でもないサードプレイス(第3の場所)として、心地よく過ごせる場所の提供を目指す。
特徴的なのは、一部店舗が7時30分から23時まで開いている点だ。出勤前のオフィスワーカーを想定し、おかゆやサンドイッチを食べられる店や女性専用のヨガスタジオもある。仕事帰りのサラリーマンらが立ち寄ったり、飲み会などができるよう飲食店も23時まで開けている。
三越と高島屋の店舗リニューアルは一見、老舗百貨店対決にも見えるが、日本橋三越の浅賀誠本店長(三越伊勢丹執行役員)は、「競合であり、共存共栄」と言い切る。高島屋の木本社長も「街のアンカー(錨)として、魅力をどう上げるか。品ぞろえの編集力を強みに、さまざまな文化を発信する」と意気込む。老舗百貨店による日本橋が活気を取り戻す取り組みは、これから本番を迎える。
日本橋の再生計画を進める三井不動産。中心となる室町エリアは、現在の三井グループの源流たる三井高利が1673年に呉服店・越後屋を開いた特別な地だ。そんな“お膝元”の再開発に対し、同社は「残しながら 蘇(よみがえ)らせながら 創っていく」というコンセプトを掲げる。日本橋のアイデンティティーを継承した上で、かつてと同じくにぎわい、活気あふれる街を志向する。
日本橋再生計画の始動は、99年閉店の東急百貨店日本橋店によるところが大きい。当時は中央通りでも週末の人通りはまばらで「新宿や渋谷に比べると地味な街」(三井不)。日本の食や技を伝える数多い老舗も、若い世代は敬遠した。それでも同社が重きを置いたのが「日本橋ならではの街づくり」だ。
日本橋は江戸時代の五街道の起点であり、水運の要所。全国から人やモノが集まり、経済や文化の中心としての地位を確立した。この当時の「活気と誇り」こそ、同社が位置付ける日本橋の原点。日本橋が本来持つポテンシャルをもう一度引き出し、魅力あふれる粋な大人の街を再構築する戦略だ。
その先駆けが、東急百貨店跡地を再開発し、04年に完成した日本橋1丁目ビルディングだ。オフィスビル足元には『EDOのCORE(核)に』との思いを込めた商業区画「COREDO日本橋」を開業。三越や高島屋といった百貨店や老舗が象徴する日本橋の“商いの伝統”と現代的なスタイルを提案する個性的な店舗を共存させ、人の流れを変えるきっかけを作った。
05年開業の日本橋三井タワーの役割も大きい。低層部は外観を隣接する三井本館と統一感のある意匠とし、コンセプトの『残す』を具現化。同時に『創る』として高級ホテルを誘致。地元の千疋屋総本店出店や三井記念美術館も話題を呼び、にぎわい再生の下地を整えた。三井不の担当者は「“点”ながら、これで再生計画に弾みが付いた」と振り返る。
さらに10、14年に室町東三井ビルディングなど3棟を完成。同時にシネマコンプレックスを含む「COREDO室町1・2・3」も開業し、「30―40代の来街者が増え、にぎわいが戻った」(三井不の石神裕之取締役)。
三井不の菰田正信社長はかねて「多彩な機能を複合したミクストユースの街づくりが必要だ」と強調する。その目線の先には、19年3月完成の日本橋室町三井タワーがある。足元には約30店舗を集めた商業区画「COREDO室町テラス」やホールを設置。1500平方メートルの広場には大きな屋根を設け、3世代がくつろぐサード・プレイスを提供する。
室町エリア再開発は、これで一区切り。日本橋の活性化という共通目標を持ちながらも、当初はデベロッパーである同社を警戒する地元の旦那衆もいた。その彼らも今や「こんなに盛り上がるとは」と好意的だ。同社は日本橋の南側や八重洲を視野に、さらに連続したにぎわいを形成する街づくりに挑む。
(文=編集委員・丸山美和、堀田創平)
百貨店、相次ぎ新装 老舗が切磋琢磨
三越伊勢丹ホールディングス(HD)は24日、大改装していた日本橋三越本店をオープンした。同社の杉江俊彦社長は、「約30年ぶりに日本橋三越をリニューアルした。この町の発展、都心へのお客さまの流入増加を踏まえ、これから大きな投資をして、もっともっと良くしていきたい」とあいさつした。
「おもてなし」をキーワードに本館1階に顧客を迎えるレセプション、5階に限定会員向けのラウンジを設置。顧客に付き添ってブランドを超えた商品を提案する従業員「コンシェルジュ」を90人配置するなど、接客サービスに力を入れる。
一方、9月25日に日本橋高島屋に大型商業施設「日本橋高島屋S.C.(ショッピングセンター)」を開業した高島屋。本館、新館、東館、ウオッチメゾンの4館体制が整い、集客に自信を見せている。
開業して1カ月の高島屋には、1日に約5万人が来店。当初想定を1万7000人も上回る。木本茂社長は「開業効果で上振れしているのだろうが、順調な滑り出し」と喜ぶ。
グループ全体で「まちづくり」戦略を掲げる高島屋は、4館を街ととらえる。街歩きを楽しみながら買い物する設定だ。出店した約115の専門店は、職場でも家でもないサードプレイス(第3の場所)として、心地よく過ごせる場所の提供を目指す。
特徴的なのは、一部店舗が7時30分から23時まで開いている点だ。出勤前のオフィスワーカーを想定し、おかゆやサンドイッチを食べられる店や女性専用のヨガスタジオもある。仕事帰りのサラリーマンらが立ち寄ったり、飲み会などができるよう飲食店も23時まで開けている。
三越と高島屋の店舗リニューアルは一見、老舗百貨店対決にも見えるが、日本橋三越の浅賀誠本店長(三越伊勢丹執行役員)は、「競合であり、共存共栄」と言い切る。高島屋の木本社長も「街のアンカー(錨)として、魅力をどう上げるか。品ぞろえの編集力を強みに、さまざまな文化を発信する」と意気込む。老舗百貨店による日本橋が活気を取り戻す取り組みは、これから本番を迎える。
室町エリア再開発 “三井の聖地”蘇る
日本橋の再生計画を進める三井不動産。中心となる室町エリアは、現在の三井グループの源流たる三井高利が1673年に呉服店・越後屋を開いた特別な地だ。そんな“お膝元”の再開発に対し、同社は「残しながら 蘇(よみがえ)らせながら 創っていく」というコンセプトを掲げる。日本橋のアイデンティティーを継承した上で、かつてと同じくにぎわい、活気あふれる街を志向する。
日本橋再生計画の始動は、99年閉店の東急百貨店日本橋店によるところが大きい。当時は中央通りでも週末の人通りはまばらで「新宿や渋谷に比べると地味な街」(三井不)。日本の食や技を伝える数多い老舗も、若い世代は敬遠した。それでも同社が重きを置いたのが「日本橋ならではの街づくり」だ。
日本橋は江戸時代の五街道の起点であり、水運の要所。全国から人やモノが集まり、経済や文化の中心としての地位を確立した。この当時の「活気と誇り」こそ、同社が位置付ける日本橋の原点。日本橋が本来持つポテンシャルをもう一度引き出し、魅力あふれる粋な大人の街を再構築する戦略だ。
その先駆けが、東急百貨店跡地を再開発し、04年に完成した日本橋1丁目ビルディングだ。オフィスビル足元には『EDOのCORE(核)に』との思いを込めた商業区画「COREDO日本橋」を開業。三越や高島屋といった百貨店や老舗が象徴する日本橋の“商いの伝統”と現代的なスタイルを提案する個性的な店舗を共存させ、人の流れを変えるきっかけを作った。
05年開業の日本橋三井タワーの役割も大きい。低層部は外観を隣接する三井本館と統一感のある意匠とし、コンセプトの『残す』を具現化。同時に『創る』として高級ホテルを誘致。地元の千疋屋総本店出店や三井記念美術館も話題を呼び、にぎわい再生の下地を整えた。三井不の担当者は「“点”ながら、これで再生計画に弾みが付いた」と振り返る。
さらに10、14年に室町東三井ビルディングなど3棟を完成。同時にシネマコンプレックスを含む「COREDO室町1・2・3」も開業し、「30―40代の来街者が増え、にぎわいが戻った」(三井不の石神裕之取締役)。
三井不の菰田正信社長はかねて「多彩な機能を複合したミクストユースの街づくりが必要だ」と強調する。その目線の先には、19年3月完成の日本橋室町三井タワーがある。足元には約30店舗を集めた商業区画「COREDO室町テラス」やホールを設置。1500平方メートルの広場には大きな屋根を設け、3世代がくつろぐサード・プレイスを提供する。
室町エリア再開発は、これで一区切り。日本橋の活性化という共通目標を持ちながらも、当初はデベロッパーである同社を警戒する地元の旦那衆もいた。その彼らも今や「こんなに盛り上がるとは」と好意的だ。同社は日本橋の南側や八重洲を視野に、さらに連続したにぎわいを形成する街づくりに挑む。
(文=編集委員・丸山美和、堀田創平)
日刊工業新聞2018年10月25日