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72時間機能維持だけではもう古い、三菱地所が考える最新ビルの防災機能

東京・大手町「大手町フィナンシャルシティ グランキューブ」は地区全体のBCP拠点
72時間機能維持だけではもう古い、三菱地所が考える最新ビルの防災機能

汚水の浄化施設も備え、災害時のトイレ利用を可能にした

 2016年4月、三菱地所は東京・大手町に「大手町フィナンシャルシティ グランキューブ」を完成した。建築計画を最終確定する段階で、東日本大震災が発生。この経験を踏まえ、防災の観点から計画の大幅拡充に踏み切った物件だ。ビル安全管理室の大庭敏夫室長は「『ビルの機能を72時間維持できます』というだけではもう古い。ここは、大手町地区全体の事業継続計画(BCP)に貢献する拠点として仕上げた」と胸を張る。

 三菱地所は、グランキューブを大手町地区の防災拠点と位置付ける。このため帰宅困難者の受け入れ機能に加え、こだわったのが救護・復旧要員の“前線基地”となり得る自律性だ。実は隣接する宿泊施設棟も、機能を優先し出入りしやすい別棟に設計を改めた経緯がある。災害時はラウンジとグランキューブ1階のロビーで約1000人を収容。温浴施設も開放する。

 そんな防災拠点ならではの施設が、大型の汚水浄化設備だ。トイレや飲食店から出た汚水を微生物処理し、国の基準値を上回る水準まで浄化。平時から足元の日本橋川に放流している。もし災害で下水が寸断されても、ビル内で汚水処理することでトイレの継続利用を可能にする。簡易トイレやマンホールトイレに比べ、問題となる衛生環境の悪化を防ぐ効果は大きい。

 上水が断水し、トイレに洗浄水が供給されない事態も想定する。洗浄水向けの中水は、厨房(ちゅうぼう)の雑排水などを濾過して使うのが一般的だ。だがもし上水が途絶えれば、中水も不足する。防災拠点として使用量が増えればなおさらだ。そこで三菱地所が考えたのが「ビルで水を循環利用する仕組み」(大庭室長)。災害時は放流を止め、中水として再利用する運用を打ち出す。

 停電への備えにも重きを置いた。耐震性に優れる中圧ガスを使ったコージェネレーション(熱電併給)システムに加え、中圧ガスとA重油の両方に対応する非常用発電機を設置。もし電力会社からの供給が止まったとしても、中圧ガスがあれば最低でも10日間は電力を供給できる態勢で臨む。さらに中圧ガスが途絶えても、敷地内に備蓄するA重油によって72時間は電気を供給できる。

 大庭室長は「防災拠点として二重三重の効果を追求している」と明かす。この姿勢は、受変電施設や非常用発電機室の“地上化”にも反映した。通常は地下などの最下層に置く重量設備や広大な搬入スペースを、賃貸収入が見込めるフロアに設けたのは異例だ。だがこれも、200年に1度と言われる荒川の決壊を考えれば譲れない条件だった。

 グランキューブが建つ大手町は、千代田区が指定する荒川決壊時の浸水予想地区だ。これを受け、浸水すると復旧に時間を要する設備は地上に置いた。早期に復旧できるものは地下だが、止水板や防水扉でできる限り被害を防ぐ作戦だ。「幸いまだ運用実績はないものの、人材・機械はいつでも実稼働できる状態だ。街を守る防災拠点の整備は、三菱地所の責任でもある」(同)としている。

「大手町フィナンシャルシティ グランキューブ」(東京・大手町)

(文=堀田創平)
日刊工業新聞2018年10月22日

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