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オフィス不要論もある中、“丸の内の大家"は役員の個室なくす

三菱地所の新本社、つながることで価値を発揮できる空間を実現
オフィス不要論もある中、“丸の内の大家"は役員の個室なくす

1月5日に営業を始めた三菱地所の新本社

 三菱地所は大手町パークビルディング(東京都千代田区)に移転した新本社を公開した。全体の延べ床面積は移転前に比べて2割減らしたが、共用スペースが占める割合は約3倍に増やした。部長級を含めた部署ごとのグループアドレス制を導入し、担当役員の個室もなくすなど、社員同士の物理的、心理的な壁を取り払う仕組みを随所に取り入れた。

吉田淳一社長は「社員が意見を自由にぶつけあい、つながることで価値を発揮できる空間を実現したい」と本社移転の狙いを述べた。テレワークの全社展開など働き方改革を推進する仕組みも取り入れた。食事だけでなく打ち合わせや来客対応にも利用できるカフェテリア「スパークル」でのイベント開催などにより、社内外の交流を促進。年間延べ約1万人のイベント参加者を見込む。

 また日立製作所と日立ビルシステム(東京都千代田区)は、三菱地所本社の受け付け業務を日立の人型ロボット「エミュー3」が手伝う実証実験を14日から16日まで行った。エミュー3が来客と音声対話して氏名や用件を聞き、応接室や会議室へ移動しながら案内した。実験結果が良好なら本採用も視野に入れる。

 新本社は従業員のコミュニケーションのあり方や、これからのオフィスのあり方を検証する実証実験の場としても位置付けており、エミュー3の活用もその一環となる。

吉田社長インタビュー「開放的なオフィスで交流」


 ―2018年の事業環境をどう見ますか。
「働き方改革や生産性向上、事業再編などを理由としたオフィス需要は旺盛だ。東京都心のオフィスビル空室率は低く、需給が逼迫(ひっぱく)している。18年に完成する『丸の内二重橋ビルディング』はほぼテナントが埋まった。賃料もゆるやかな上昇が続くだろう。商業施設に関してはインバウンド(訪日外国人)が着実に増えている」

 ―海外情勢は不安定ですが、影響は。
 「米国では大型減税が決まり、中東では新しい産業を取り込む動きが活発だ。世界が経済成長の必要性を感じている。北朝鮮の動きなど予測不可能な事柄には留意しなければならないが、経済成長は続くと期待している」 「一方、海外ではAI(人工知能)の進化やIoT(モノのインターネット)化の流れが急速に進んでおり、日本はやや取り残されている状況も一部にある。今後は不動産ビジネスも変わっていく。世界の流れを注視し、我々も変わるべきところは変えていく」

 ―年初に本社を移転しました。
 「各事業グループでフリーアドレスを取り入れた。部長も固定席は設けず、担当役員もオープンな空間で執務をする。社員同士の意図的・偶発的なコミュニケーションを活発化していく。外部の人との打ち合わせにも使えるカフェ風の社員食堂や、フロアを行き来できる階段も設けた。多くの刺激や気付きを得て、新しい価値を生み出してほしい」

 ―17年度にスタートした中期経営計画が2年目を迎えます。
 「既存事業のブラッシュアップや新しい成長ドライバーの創出のため全社横断で1000億円の投資枠を設けている。社内からのアイデアだけでなく外部からの共同事業の提案も受けており、18年は実行に移していく。コンセッション(公共施設等運営権)方式による下地島空港(沖縄県)や高松空港(香川県)の運営の取り組みも一部スタートした」

 ―東京駅前で進めている「常盤橋街区再開発プロジェクト」の進捗について。
 「全体完成予定の27年度に向け、どのような技術を活用するのか検討に本腰を入れる。アイデアが実用化するまでにはやはり数年かかる。早くアイデアを固め、必要なモノや協業先、コストなど具体的な検討を始めたい」
三菱地所の新本社受付で来客の用件を聞くエミュー3

(聞き手=齋藤正人)
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
東京・丸の内エリアを最先端技術の実験場にしつつある三菱地所。直近では公道で自動運転バスを走らせた。常盤橋の街も「世界の人びとが集うオープンイノベーションフィールド」(吉田社長)を目指す。人口減少や働き方改革の流れの中で「オフィス不要論」もささやかれる中、不動産ビジネスの新しいあり方を示す。 (日刊工業新聞第二産業部・齋藤正人)

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