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日立・東原社長が挑む、“ルマーダ収益改革”の勝算

見えてきた1兆円、次期中計で収益の刈り取り狙う
日立・東原社長が挑む、“ルマーダ収益改革”の勝算

「収益化モデル」が少しずつ見え始めたきた(タイ・バンコクでプレゼンする東原社長)

 9月中旬、日立製作所の東原敏昭社長は、バンコクから東に約60キロメートルの位置にあるタイ最大の工業団地「アマタシティ・チョンブリ」にいた。新設された「Lumada(ルマーダ)センター」の開所式典に出席するためだ。社長就任以降、IoTのプラットフォーム(基盤)「ルマーダ」を成長の核にしてきた。2018年度は中期経営計画の最終年。先行投資を収益に結び付けることはできるかー。

 16年に提供を始めた「ルマーダ」。顧客データをAI(人工知能)や解析技術で分析、企業や社会の課題解決を支援してきた。タイのセンターは日米や中国での実績を東南アジアにも広げるための拠点。専用の施設は世界初だ。

 ルマーダのユースケースはすでに500件を超える。関連するシステムインテグレーション事業まで含めると今年度の売上高は1兆円(前年度比6%増)を超える見通し。

 企業向けでは、モノづくり分野に適用が広がっている。板金加工機械メーカーのアマダは、日立の大みか事業所(茨城県日立市)で実現した生産効率化の枠組みを自社工場に導入する。ダイキン工業は化学品の製造工程管理や、熟練技能のデジタル伝承に活用する。

 社会インフラ向けでは国内外の交通機関が期待を寄せる。西日本鉄道はバスダイヤ運行計画支援システムの構築に乗り出す。バス業界では慢性的な乗務員不足の問題を抱えており、走行実績や乗降に関する統計データを活用し、19年度のダイヤ改正に反映させる予定。

 海外ではデンマークのコペンハーゲン地下鉄で、駅に設置されたセンサーから駅の混雑度を可視化、乗客数を分析し列車の運行本数を自動で最適化する。

 日立の強みでもある研究開発では、大学とのオープンな連携が活溌化している。コンセプトは「産学連携から産学協創へ」ー。東京大学、京都大学、北海道大学と相次ぎ共同ラボを設立し研究に取り組むほか、神戸医療産業都市に開設した日立神戸ラボでは再生医療の産学協創を始めた。「ルマーダで価値創造のサイクルを広めたい」と東原社長。

 日立がベンチマークしてきた米ゼネラル・エレクトリック(GE)は、業績悪化を受け在任期間1年で最高経営責任者(CEO)が退任した。GEデジタルの出身者が、ルマーダ事業の司令塔となる米子会社「日立ヴァンタラ」の幹部になるケースも出てきた。しかし東原社長は「GEは航空機エンジンなど強いプロダクトを持っている。日立はまだ少ない。そこを強化していく」と話す。

 現中計(16ー18年度)では目標とする営業利益率8%の達成が見えてきた。今年4月、東原社長は次の中計(19ー21年度)について、グローバル優良企業の目安でもある営業利益率10%以上を目指す考えを示した。

 カギを握るのはルマーダの全部門、海外への広がり。これまでの実績はまだごく一部に過ぎず、「顧客と一緒に市場を創っていくという意識が、まだ全社に浸透していない」(中西宏明会長)。

 その仕掛けとして、顧客のニーズに合わせフロント部門がプロダクトやプラットフォームを組み合わせたソリューションを柔軟に提供できる組織への変革を急ぐ。デジタル時代における日立の「収益化モデル」が少しずつ見え始めたきた。東原社長は18日に開かれる日立最大のイベントで、将来展望を語ることになっている。

日立最大のビジネスイベント「Hitachi Social Innovation Forum」 


 開催日 10月18日(木)、19日(金)
 会場  東京国際フォーラム(東京都千代田区)
 イベント概要はこちら

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明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
文中に出てくる「Hitachi Vantara(日立ヴァンタラ)」。米Hitachi Data Systems(日立データシステムズ)と買収した米Pentahoが統合して誕生した。ストレージ販売が中心だった日立データシステムズ。ソリューション企業への変革のモデルとなるだろう。「Hitachi Social InnovationForum」では海外の事例も多く紹介されそうです。

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