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現金が消えた国、スウェーデン

決済手段多様化は世界の潮流
現金が消えた国、スウェーデン

スウェーデンでは個人間のおカネのやり取りにもスマホ決済が浸透している

 現金支払いが根強く、クレジットカードや電子マネーといった「キャッシュレス決済」が浸透していない日本。これに対し、海外では、それぞれの経済事情や歴史的、地理的背景を理由に、キャッシュレス前提の社会を目指す動きが広がる。多様化する決済手段はテクノロジーの進展やサービスの多様化と相まって、いまなお発展途上にある。

 「現金が消えた国」と称されるスウェーデン。現金流通量は対GDP比でわずか1・4%(2016年)。19・9%の日本と比べるとその差は歴然だ。冬季の現金輸送が困難といった北欧ゆえの事情もあるが、90年代初めの金融危機を発端に、国を挙げて生産性向上に取り組んできたことや現金強奪など犯罪対策としてもキャッシュレス化を進めてきた経緯がある。

 すでに公共交通機関では現金は利用できないほか、現金を扱わない金融機関も増えており、2010年から12年にかけて約900台のATMが撤去された。「ノーキャッシュ(現金お断り)」の看板を掲げる店も珍しくないほど、キャッシュレスが社会に浸透している。

 同国のキャッシュレス化にさらに拍車をかけたのが「スウィッシュ」と呼ばれるスマートフォンを使った決済サービスだ。国内の複数の銀行が共同開発したこのサービスは、家族や友人といった個人間のお金のやりとりにも使えるのが特徴だ。実際、スウィッシュの年間利用額140億クローナ(約1800億円)のうち、個人間送金が9割を占める。

 そんなスウェーデンでは、スマホさえ不要になるサービスさえ登場している。同国のベンチャー企業「バイオハックス」が開発したのは、手に埋め込んだマイクロチップで支払いをするシステム。専用の端末に手をかざすだけで個人を識別、決済が可能になるもので、すでに鉄道運賃の支払いなどに利用されている。

カード先進国、韓国


 お隣、韓国は、カード先進国だ。97年の東南アジア通貨危機後の経済の低迷を脱するため、消費喚起や脱税防止対策として政府がクレジットカードの利用促進策を打ち出してきた。

 クレジットカード利用額の20%を課税所得から控除したり、カード利用控えに記載された番号を対象にした宝くじ制度を導入するといった大胆な施策が奏功し、1999年から2002年にかけてクレジットカード利用金額は6・9倍に拡大。今や決済に占めるキャッシュレス比率は先進国トップの約9割に達する。

スマホ決済、主役に躍り出る


 とりわけ中国やインドといった多くの人口を抱える国では、キャッシュレス決済が爆発的に広がっている。2008年の北京五輪を契機に国を挙げてキャッシュレス化を推進してきた中国で、これまで主流だった「銀聯カード」に変わり、キャッシュレス決済の主役に躍り出たのがスマホ決済だ。

 アリババ(アントフィナンシャル)の「Alipay(アリペイ)」やテンセントの「WeChat Pay(ウィーチャットペイ)」がQRコードを使った決済システムを展開。急速にそのユーザー数を伸ばしている。これらはもともと自社のネットショッピングや個人間送金のために普及したアプリサービスだが、QRコードによるリアルな店舗における決済機能が加わったことで、爆発的に広がった。
日本の観光地でもアリペイの導入が不可欠となりつつある

イノベーションの原動力


 その仕組みは極めてシンプルだ。店側が提示したQRコードを顧客がスマホで読み取る、あるいは顧客のスマホに表示されたQRコードを店側が読み取るだけで、銀行口座からダイレクトに代金が引き落とされる。店舗側は決済インフラの導入コストが生じないことから、屋台や露店でもQRコード決済が主流になりつつある。

 消費者にとっても、もはやスマホ決済がなければ日常生活に支障を来すほど浸透。同時にこうした新たな決済手段は、乗り捨て自由なレンタサイクルや無人コンビニエンスストアなどこれまでなかったサービスを生み出し社会を変えつつある。

 「世界的には金融包摂の観点でもキャッシュレス化が注目されている」。新興国を中心にスマホ決済が普及する理由について、こう指摘するのはニッセイ基礎研究所の福本勇樹主任研究員。金融包摂とは、すべての人々が必要とされる金融サービスにアクセスでき、それを利用できる状況を示す。

 新興国では固定電話網が未整備の状態で携帯電話の普及が先行。ATMなど金融インフラも未整備であったことから、「キャッシュレス化との親和性の高いモバイル端末を金融インフラとして活用することで金融包摂の促進を目指す政府の意図がうかがえる」(福本氏)と語る。

 翻って日本-。金融インフラが十分整備されている状況にあることを鑑みれば、日本が目指すキャッシュレス社会は、スマホ決済のみならず、用途やニーズによって、クレジットカードや電子マネーなど多様な決済手段を消費者が使い分けることで利便性や効率性を追求する姿が現実的といえるだろう。そして企業にとっても、こうした決済ニーズに応えることは新たなサービスやイノベーションを生み出す原動力となる。
神崎明子
神崎明子 Kanzaki Akiko 東京支社 編集委員
次回は日本の実情について紹介します。

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