社長みのもんたさん語る「社長になれる人」「なれない人」の違い
僕らの世代は、活字に飢えていた。昭和19年の生まれだけど、戦後の昭和20年代は本がなかった。小学校に上がる頃には本屋で少しずつ本が出るようになって、それを片っ端から読んだ。童話とか絵本のような子供向けの本は少なく、大人が読むような本に必死で食らいつく、そういう時代だった。「読む」という習慣がとても貴重な時代だった。活字からは、空気や水や太陽みたいなものを感じたね。
高校に上がった頃に読んだ山岡荘八さんの「徳川家康」は今でも印象的で時々エピソードを思い出す。全26巻もあり、半年くらいかかった。山岡さんはその場に居たかのような文章で家康の人間性を描いていて、どんどん引き込まれた。
立原正秋、川端康成、谷崎潤一郎、山崎豊子、ヘミングウェーなど、色々読んできたけれど、一冊挙げるとすれば、やっぱり「徳川家康」。この本の家康の生き様には、大人になってからも強く影響を受けた。
例えば「駆け引き」。タレント業も一つの実業。自分自身が株式会社のようなもの。どういう風に芸能界で生きてゆくか参考になった。それから、親から継いだ水道メーターの社長をやってわかったのは、会社経営には本当に「駆け引き」や「情実」があること。
大人になって、だんだん「男と女」の世界に入ってゆく。川端康成の「雪国」には、男のある種のかっこいい生き様みたいなものが描かれていて真似したいなと思った。
こういう風に、教科書のような本から何かを学ぶというよりも、小説を読んで「自分だったらこんな風に演じることができるかな?」ということをよく考えた。
忙しかった時の方が本は読めた。「午後は〇〇おもいッきりテレビ」と「朝ズバッ!」という二つの帯番組がある時も読んでいた。新幹線で東京駅から名古屋駅までの間に薄い単行本なら一冊読めていた。最近、字を追うスピードが本当に落ちてしまった。「我、衰えたり」という感じだね。
多忙を極めていた時の自己管理法は、「寝たい時に寝る」と「(お酒は)飲みたい時に飲む」。「寝たい時に」って言ったって生放送中どうするか? 寝ましたよ。ただ、耳は聞こえる。スタジオで「寝てる寝てる」って聞こえて来ると「寝てないよ」って答えてた。
僕にとって「寝る」とは、目をつぶって穏やかになった時のこと。寝てないんだけど、寝てる。そういう状態でしばらくいると、スッキリする。月曜日から土曜日まで早朝の番組をやって、それが終わるとすぐにお昼からの生放送。馬鹿だよね(笑)それ以外に週一の番組を7本持ってたから大変だったけど、なんとも思わなかったなあ。朝は4時半に起きて、寝るのはだいたい1時くらい。毎晩飲んでた。
今はインターネット番組を持っている。テレビとネットの違いは全然感じないね。多分、違いをわかってないんだろうな。やっていること、しゃべっていることは同じ。前に、喫茶店にいてびっくりしたのは、近くの席の人がスマホで僕の番組を観ていたこと。「ああ、もうこういう時代なんだな」と思ったね。テレビは負けてらんないよね。インターネットだと必要な時に必要なものが観られる。ニュースだってテレビや新聞やラジオより便利。すごい時代だよねえ。でもそれが普通なんだろうね。
来年7月に、ニッコク社長を引退する。社長を誰かに引き継がせないといけないけれど、事業承継は難しい。社長っていうのはね、他の役職と全然違う。社員や役員の立場と、社長の立場って全然違う。社長は会社を全部背負っている。背負えるか背負えないかが勝負だと思う。
社長業のことをよく「ウサギとカメ」の話に例える。カメがウサギに勝つなんて、普通に考えれば有りえないことだろうと。あの物語では、ウサギが昼寝して、その間にカメが追い抜く。そんな馬鹿なことはない。競争しているのに、ウサギが昼寝なんかするわけがないでしょう(笑)でも、会社をやっていると、そんな有りえないことが起きるんだね。有りえないことが起きた時に、それを背負えるかどうかが社長の器だと思う。社長だって逃げちゃったりする人もいるもんね。
社長を退任しても、2年間くらいは会長として会社を見ようと思う。心配だからね。口は出さないけれど、万が一の時は軌道修正できるようにしておきたい。
2年くらい経てば77歳の喜寿。生き残ってる仲間と盛大に、ぶっ倒れるまで飲みたいね。
(文・平川 透、写真・成田麻珠)
芸能界で生きていくために参考になった一冊
高校に上がった頃に読んだ山岡荘八さんの「徳川家康」は今でも印象的で時々エピソードを思い出す。全26巻もあり、半年くらいかかった。山岡さんはその場に居たかのような文章で家康の人間性を描いていて、どんどん引き込まれた。
立原正秋、川端康成、谷崎潤一郎、山崎豊子、ヘミングウェーなど、色々読んできたけれど、一冊挙げるとすれば、やっぱり「徳川家康」。この本の家康の生き様には、大人になってからも強く影響を受けた。
例えば「駆け引き」。タレント業も一つの実業。自分自身が株式会社のようなもの。どういう風に芸能界で生きてゆくか参考になった。それから、親から継いだ水道メーターの社長をやってわかったのは、会社経営には本当に「駆け引き」や「情実」があること。
大人になって、だんだん「男と女」の世界に入ってゆく。川端康成の「雪国」には、男のある種のかっこいい生き様みたいなものが描かれていて真似したいなと思った。
こういう風に、教科書のような本から何かを学ぶというよりも、小説を読んで「自分だったらこんな風に演じることができるかな?」ということをよく考えた。
忙しかった時の方が本は読めた。「午後は〇〇おもいッきりテレビ」と「朝ズバッ!」という二つの帯番組がある時も読んでいた。新幹線で東京駅から名古屋駅までの間に薄い単行本なら一冊読めていた。最近、字を追うスピードが本当に落ちてしまった。「我、衰えたり」という感じだね。
テレビ番組とネット番組の違い、全然感じない
多忙を極めていた時の自己管理法は、「寝たい時に寝る」と「(お酒は)飲みたい時に飲む」。「寝たい時に」って言ったって生放送中どうするか? 寝ましたよ。ただ、耳は聞こえる。スタジオで「寝てる寝てる」って聞こえて来ると「寝てないよ」って答えてた。
僕にとって「寝る」とは、目をつぶって穏やかになった時のこと。寝てないんだけど、寝てる。そういう状態でしばらくいると、スッキリする。月曜日から土曜日まで早朝の番組をやって、それが終わるとすぐにお昼からの生放送。馬鹿だよね(笑)それ以外に週一の番組を7本持ってたから大変だったけど、なんとも思わなかったなあ。朝は4時半に起きて、寝るのはだいたい1時くらい。毎晩飲んでた。
今はインターネット番組を持っている。テレビとネットの違いは全然感じないね。多分、違いをわかってないんだろうな。やっていること、しゃべっていることは同じ。前に、喫茶店にいてびっくりしたのは、近くの席の人がスマホで僕の番組を観ていたこと。「ああ、もうこういう時代なんだな」と思ったね。テレビは負けてらんないよね。インターネットだと必要な時に必要なものが観られる。ニュースだってテレビや新聞やラジオより便利。すごい時代だよねえ。でもそれが普通なんだろうね。
社長になれる人、なれない人
来年7月に、ニッコク社長を引退する。社長を誰かに引き継がせないといけないけれど、事業承継は難しい。社長っていうのはね、他の役職と全然違う。社員や役員の立場と、社長の立場って全然違う。社長は会社を全部背負っている。背負えるか背負えないかが勝負だと思う。
社長業のことをよく「ウサギとカメ」の話に例える。カメがウサギに勝つなんて、普通に考えれば有りえないことだろうと。あの物語では、ウサギが昼寝して、その間にカメが追い抜く。そんな馬鹿なことはない。競争しているのに、ウサギが昼寝なんかするわけがないでしょう(笑)でも、会社をやっていると、そんな有りえないことが起きるんだね。有りえないことが起きた時に、それを背負えるかどうかが社長の器だと思う。社長だって逃げちゃったりする人もいるもんね。
社長を退任しても、2年間くらいは会長として会社を見ようと思う。心配だからね。口は出さないけれど、万が一の時は軌道修正できるようにしておきたい。
2年くらい経てば77歳の喜寿。生き残ってる仲間と盛大に、ぶっ倒れるまで飲みたいね。
(文・平川 透、写真・成田麻珠)
本名・御法川法男(みのりかわ・のりお) 1944年生まれ、東京都世田谷区出身。大学卒業後、文化放送にアナウンサーとして入社、その後独立。『午後は○○おもいッきりテレビ』『どうぶつ奇想天外!』『みのもんたの朝ズバッ!』などのテレビ番組の司会を務めた。現在はインターネット番組『みのもんたのよるバズ!』の司会を務める。水道メーターの会社、ニッコクの代表取締役社長。
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