SDGs実現にブロックチェーン、国連で活用の動きが活発化
日刊工業新聞電子版コラム「論説室から」
国連の第73回総会が18日から、本部のある米ニューヨーク市で開かれている。安倍晋三首相も出席。一般討論演説のほか、総会に参集する主要国首脳同士の会談も繰り広げられている。
国連は現在、2030年までにSDGs(持続可能な開発目標)を達成することを目指している。SDGsは01年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として、15年9月に国連サミットで採択された。“「誰一人取り残さない」持続可能で多様性と包摂性のある社会”の実現へ、17の目標とその下に169のターゲット、232の指標を掲げている。SDGsに関しては国内の経済界でも、経団連の会員企業などを中心に、取り組みが徐々に浸透しつつある。
そうした中で、SDGsの実現には、「ビットコイン」など仮想通貨の基盤技術として開発されたブロックチェーン(分散型台帳)技術が役立つのではないかとの見方が広がり、国連機関内でブロックチェーン技術の活用に向けた動きが強まっている。
その中心となっているのが、紛争後の地域のインフラ建設、難民支援受け入れ国の支援などを行っている国連プロジェクトサービス機関(UNOPS)。UNOPSのブロックチェーンに関する特別顧問を務める山本芳幸氏は、16年夏頃から国連本部の首脳部にブロックチェーン技術の有用性を説き、国連内の今日の動きを創出させた人。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)、国連人道問題調整事務所(UNOCHA)、国連開発計画(UNDP)などで紛争地域・途上国支援に携わり、現場の経験も豊富な山本氏は、同技術は「国連機関の事業の透明性、効率化の向上に役立つ」と強調する。
「援助疲れ」とも言われる現状、国連機関内の官僚主義や被援助国での援助絡みの汚職防止は喫緊の課題と言えなくもない。国連はすでに「ブロックチェーン・ミッション」を立ち上げ、各国政府、NGO、民間企業との連携を推進し、同技術活用による途上国での良好な社会的インパクトの惹起(じゃっき)を目指している。連携相手にはスタートアップ企業も目立ち、400社程度とのネットワークができているという。
ブロックチェーン技術の具体的な利用分野としては、山本氏によると、パスポートなど公的な身分証明を持たない難民などに対する虹彩や顔認証技術を利用したID付与、20億人ともいわれる銀行口座を持たない人々の金融へのアクセスを可能とする「金融包摂」、人身売買や児童労働、“現代の奴隷制度”ともいわれる強制労働の防止、公共サービスの向上など広範囲にわたる。IDとしての活用では、マイクロソフトとアクセンチュアの支援を受けた国際的な認証プログラムである「ID2020」のコンペも今総会のサブイベントとして開催される。
国連の活動で重要な支援の「分配」の面では、世界食糧計画(WFP)がヨルダンで試験運用を実施している。仮想通貨を使い、分配での中間作業を省略できるため効率的で、中間搾取もない。ただ、山本氏はこの技術利用のリスクも指摘する。ブロックチェーン技術が独裁政権に利用されると大変なことになる、と言うように、負の側面防止は重要になる。
今総会中の26日(日本時間27日)には、オランダ政府とUNOPSの共催で、ブロックチェーン技術利用の法的側面に関する書籍の出版記念シンポジウムがニューヨークで開催される。日本からは、ブロックチェーンで著名なベンチャーであるソラミツ(東京都千代田区)の岡田隆代表取締役・共同創業者がパネリストとして参加する。山本氏は「こうした会議で、日本人がパネリストとして参加するのは初めてではないか」と筆者らとの電話インタビューで話した。山本氏は「日本で来年、そうしたシンポを開きたいが、まだ具体化していない」と、もどかしそうだった。
日本でもブロックチェーン技術が注目されている折、企業も政府機関もこの分野でも国連機関との協力・提携に意欲を示してもらいたい。
(文=日刊工業新聞社・中村悦二)
※このコラムは執筆者個人の見解であり、日刊工業新聞社の主張と異なる場合があります。
多様性と包摂性のある社会
国連は現在、2030年までにSDGs(持続可能な開発目標)を達成することを目指している。SDGsは01年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として、15年9月に国連サミットで採択された。“「誰一人取り残さない」持続可能で多様性と包摂性のある社会”の実現へ、17の目標とその下に169のターゲット、232の指標を掲げている。SDGsに関しては国内の経済界でも、経団連の会員企業などを中心に、取り組みが徐々に浸透しつつある。
そうした中で、SDGsの実現には、「ビットコイン」など仮想通貨の基盤技術として開発されたブロックチェーン(分散型台帳)技術が役立つのではないかとの見方が広がり、国連機関内でブロックチェーン技術の活用に向けた動きが強まっている。
その中心となっているのが、紛争後の地域のインフラ建設、難民支援受け入れ国の支援などを行っている国連プロジェクトサービス機関(UNOPS)。UNOPSのブロックチェーンに関する特別顧問を務める山本芳幸氏は、16年夏頃から国連本部の首脳部にブロックチェーン技術の有用性を説き、国連内の今日の動きを創出させた人。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)、国連人道問題調整事務所(UNOCHA)、国連開発計画(UNDP)などで紛争地域・途上国支援に携わり、現場の経験も豊富な山本氏は、同技術は「国連機関の事業の透明性、効率化の向上に役立つ」と強調する。
なぜブロックチェーン?
「援助疲れ」とも言われる現状、国連機関内の官僚主義や被援助国での援助絡みの汚職防止は喫緊の課題と言えなくもない。国連はすでに「ブロックチェーン・ミッション」を立ち上げ、各国政府、NGO、民間企業との連携を推進し、同技術活用による途上国での良好な社会的インパクトの惹起(じゃっき)を目指している。連携相手にはスタートアップ企業も目立ち、400社程度とのネットワークができているという。
ブロックチェーン技術の具体的な利用分野としては、山本氏によると、パスポートなど公的な身分証明を持たない難民などに対する虹彩や顔認証技術を利用したID付与、20億人ともいわれる銀行口座を持たない人々の金融へのアクセスを可能とする「金融包摂」、人身売買や児童労働、“現代の奴隷制度”ともいわれる強制労働の防止、公共サービスの向上など広範囲にわたる。IDとしての活用では、マイクロソフトとアクセンチュアの支援を受けた国際的な認証プログラムである「ID2020」のコンペも今総会のサブイベントとして開催される。
国連の活動で重要な支援の「分配」の面では、世界食糧計画(WFP)がヨルダンで試験運用を実施している。仮想通貨を使い、分配での中間作業を省略できるため効率的で、中間搾取もない。ただ、山本氏はこの技術利用のリスクも指摘する。ブロックチェーン技術が独裁政権に利用されると大変なことになる、と言うように、負の側面防止は重要になる。
今総会中の26日(日本時間27日)には、オランダ政府とUNOPSの共催で、ブロックチェーン技術利用の法的側面に関する書籍の出版記念シンポジウムがニューヨークで開催される。日本からは、ブロックチェーンで著名なベンチャーであるソラミツ(東京都千代田区)の岡田隆代表取締役・共同創業者がパネリストとして参加する。山本氏は「こうした会議で、日本人がパネリストとして参加するのは初めてではないか」と筆者らとの電話インタビューで話した。山本氏は「日本で来年、そうしたシンポを開きたいが、まだ具体化していない」と、もどかしそうだった。
日本でもブロックチェーン技術が注目されている折、企業も政府機関もこの分野でも国連機関との協力・提携に意欲を示してもらいたい。
(文=日刊工業新聞社・中村悦二)
※このコラムは執筆者個人の見解であり、日刊工業新聞社の主張と異なる場合があります。
日刊工業新聞電子版 2018年9月27日