もんじゅ廃炉へ一歩も…どうなる核燃料サイクル維持
30年計画 燃料530本取り出し
30年にも及ぶ高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)の廃炉に向け、核燃料の取り出し作業が始まった。核燃料サイクルの中核だったもんじゅを廃炉にする一方で、政府は同サイクルを維持する姿勢を崩さない。当面の高速炉開発は、国際協力で計画中のナトリウム冷却高速炉「ASTRID(アストリッド)」に頼るが、建設地であるフランスはその計画縮小を検討。経済産業省は2018年中をめどに高速炉開発のロードマップを示す予定だが、先行きは不透明なままだ。
日本原子力研究開発機構は8月30日、もんじゅの炉外燃料貯蔵槽から1本目の核燃料を取り出した。もんじゅ廃止措置の計画期間は、47年度までの30年間。4段階に分けられ、22年度までの第1段階で全530本の燃料体を取り出す。
燃料体の取り出しは全て遠隔操作。機械でつり上げ、付着したナトリウムを洗い流し、燃料プールへ移送する。年内に貯蔵槽から100本を移送。19年度以降は、原子炉容器にある燃料体(370本)の取り出しにかかる。23年度からの第2段階以降は、最大の難関である放射性ナトリウムの処理が控える。
廃炉費用の増大も懸念される。原子力機構は、費用を約3750億円と試算。うち2250億円は施設の維持管理費で、トラブルなどで作業が長引けば管理費は増える。
使用済み燃料の処理費用もかかる。処理方法は決まっておらず、総額は見えない。さらに既存の国内施設ではもんじゅの燃料を処理できない。21年度完成予定の日本原燃の六ケ所再処理工場(青森県六ケ所村)は軽水炉の燃料再処理向け。処理は海外に委託するか、ライン新設が必要だ。
高速中性子を使って高出力を得られる「高速炉」。もんじゅは開発の2段階目にあたる「原型炉」だが、1兆円超の国費を投じながら、稼働はわずか250日で終わった。会計検査院は、もんじゅの原型炉としての技術成果の達成度は16%にとどまると試算した。
もんじゅによる高速炉プラントの総合評価や運転、保守技術の蓄積は不十分だとの指摘は多い。東京大学の笠原直人教授は、「原型炉は多くのトラブルを経験し、不具合をどれだけあぶり出せるかに意味がある。経験が足りないと次の大型炉に問題を先送りすることになる」と懸念する。
例えば高速炉で先行するロシアは、原型炉で20回を超えるナトリウム漏れなどのトラブルを経て、75%超の稼働率を実現。現在、120万キロワット出力の商業炉の計画を進める。
一方で、廃炉作業から得るものもある。原子力機構の安部智之もんじゅ所長は、「将来の高速炉開発の一端を担うもので、所員一丸で取り組む」と力を込める。安全かつ効率的な廃炉作業の完了は、今後の高速炉開発が受け入れられるために不可欠だ。また、笠原教授は「廃炉作業中ももんじゅを技術開発に活用すべきだ」と指摘する。例えば、燃料体取り出し作業は、燃料交換機能の検証などに役立てられる。
使用済み核燃料を再処理し、プルトニウムなどを燃料として利用する核燃料サイクルは、日本の原子力政策の根幹だ。核燃料サイクルの柱は、ウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料を使うプルサーマル発電と高速炉。だが東日本大震災後の原発再稼働は遅れ、プルサーマル発電での再稼働は4基にとどまる。
プルトニウム利用の透明性が国際社会から求められる中、余剰プルトニウム削減につながる高速炉への期待は依然残る。また、高レベル放射性廃棄物の処理で役立つとの期待は大きい。高速炉は、廃棄物の地層処分での隔離期間を大幅に短縮する。原子力機構の試算では使用済み核燃料の毒性低減にかかる時間はそのまま埋めると約10万年、軽水炉による再処理で約8000年かかるが、高速炉サイクルなら約300年だ。
日本はもんじゅ廃炉後、国内での高速炉新設は見送り、当面の高速炉開発はアストリッドが中心になる。
アストリッドは、商用炉開発に向け、経済性や信頼性を確かめる実証炉。24年をめどに建設を決める。計画には原子力機構や三菱重工業などが参画し、経産省は18年度予算で企業への委託費など約50億円を計上した。
だが、建設地のフランスは5月、その規模縮小の方針を示した。当初の電気出力60万キロワットから、10万―20万キロワットへの縮小を検討する。炉は小型化し、数値シミュレーションツールの開発を重視する方針だ。28万キロワットのもんじゅより小出力の炉で、100万キロワット級の商業炉の設計や許認可を検討していく。
原型炉より小さな炉で、十分な知見が得られるか不安視する声もある。だが、原子力分野での数値シミュレーションの歴史は長く、「シミュレーションという技術の開発を引っ張ってきたのは、原子力分野だ」(東京大学の山口彰教授)。
原子力の安全やリスク管理に関するシミュレーション技術には、多くの経験や知見がすでに存在しており、山口教授は「スケールアップには対応できる」とする。
また、笠原教授は「小型化しても炉の建設にこだわっていることに意味がある」と評価する。建設や施設の運転、保守などの技術確立には、実際の炉が欠かせないからだ。
ただ、アストリッドだけに高速炉開発を委ねることは難しい。目指す核燃料サイクルのあり方や実用時期など、国ごとに事情は違う。日本では厳しい耐震設計も必要で、運転には技術者の育成も重要だ。
(文=曽谷絵里子)
日本原子力研究開発機構は8月30日、もんじゅの炉外燃料貯蔵槽から1本目の核燃料を取り出した。もんじゅ廃止措置の計画期間は、47年度までの30年間。4段階に分けられ、22年度までの第1段階で全530本の燃料体を取り出す。
燃料体の取り出しは全て遠隔操作。機械でつり上げ、付着したナトリウムを洗い流し、燃料プールへ移送する。年内に貯蔵槽から100本を移送。19年度以降は、原子炉容器にある燃料体(370本)の取り出しにかかる。23年度からの第2段階以降は、最大の難関である放射性ナトリウムの処理が控える。
廃炉費用の増大も懸念される。原子力機構は、費用を約3750億円と試算。うち2250億円は施設の維持管理費で、トラブルなどで作業が長引けば管理費は増える。
使用済み燃料の処理費用もかかる。処理方法は決まっておらず、総額は見えない。さらに既存の国内施設ではもんじゅの燃料を処理できない。21年度完成予定の日本原燃の六ケ所再処理工場(青森県六ケ所村)は軽水炉の燃料再処理向け。処理は海外に委託するか、ライン新設が必要だ。
高速中性子を使って高出力を得られる「高速炉」。もんじゅは開発の2段階目にあたる「原型炉」だが、1兆円超の国費を投じながら、稼働はわずか250日で終わった。会計検査院は、もんじゅの原型炉としての技術成果の達成度は16%にとどまると試算した。
安全検証 作業の過程で得る技術
もんじゅによる高速炉プラントの総合評価や運転、保守技術の蓄積は不十分だとの指摘は多い。東京大学の笠原直人教授は、「原型炉は多くのトラブルを経験し、不具合をどれだけあぶり出せるかに意味がある。経験が足りないと次の大型炉に問題を先送りすることになる」と懸念する。
例えば高速炉で先行するロシアは、原型炉で20回を超えるナトリウム漏れなどのトラブルを経て、75%超の稼働率を実現。現在、120万キロワット出力の商業炉の計画を進める。
一方で、廃炉作業から得るものもある。原子力機構の安部智之もんじゅ所長は、「将来の高速炉開発の一端を担うもので、所員一丸で取り組む」と力を込める。安全かつ効率的な廃炉作業の完了は、今後の高速炉開発が受け入れられるために不可欠だ。また、笠原教授は「廃炉作業中ももんじゅを技術開発に活用すべきだ」と指摘する。例えば、燃料体取り出し作業は、燃料交換機能の検証などに役立てられる。
使用済み核燃料を再処理し、プルトニウムなどを燃料として利用する核燃料サイクルは、日本の原子力政策の根幹だ。核燃料サイクルの柱は、ウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料を使うプルサーマル発電と高速炉。だが東日本大震災後の原発再稼働は遅れ、プルサーマル発電での再稼働は4基にとどまる。
プルトニウム利用の透明性が国際社会から求められる中、余剰プルトニウム削減につながる高速炉への期待は依然残る。また、高レベル放射性廃棄物の処理で役立つとの期待は大きい。高速炉は、廃棄物の地層処分での隔離期間を大幅に短縮する。原子力機構の試算では使用済み核燃料の毒性低減にかかる時間はそのまま埋めると約10万年、軽水炉による再処理で約8000年かかるが、高速炉サイクルなら約300年だ。
アストリッド 仏で実証、方向性探る
日本はもんじゅ廃炉後、国内での高速炉新設は見送り、当面の高速炉開発はアストリッドが中心になる。
アストリッドは、商用炉開発に向け、経済性や信頼性を確かめる実証炉。24年をめどに建設を決める。計画には原子力機構や三菱重工業などが参画し、経産省は18年度予算で企業への委託費など約50億円を計上した。
だが、建設地のフランスは5月、その規模縮小の方針を示した。当初の電気出力60万キロワットから、10万―20万キロワットへの縮小を検討する。炉は小型化し、数値シミュレーションツールの開発を重視する方針だ。28万キロワットのもんじゅより小出力の炉で、100万キロワット級の商業炉の設計や許認可を検討していく。
原型炉より小さな炉で、十分な知見が得られるか不安視する声もある。だが、原子力分野での数値シミュレーションの歴史は長く、「シミュレーションという技術の開発を引っ張ってきたのは、原子力分野だ」(東京大学の山口彰教授)。
原子力の安全やリスク管理に関するシミュレーション技術には、多くの経験や知見がすでに存在しており、山口教授は「スケールアップには対応できる」とする。
また、笠原教授は「小型化しても炉の建設にこだわっていることに意味がある」と評価する。建設や施設の運転、保守などの技術確立には、実際の炉が欠かせないからだ。
ただ、アストリッドだけに高速炉開発を委ねることは難しい。目指す核燃料サイクルのあり方や実用時期など、国ごとに事情は違う。日本では厳しい耐震設計も必要で、運転には技術者の育成も重要だ。
(文=曽谷絵里子)
日刊工業新聞2018年9月3日