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牛用製品も…繊維各社がIoTで狙う新市場

他者に先駆けた独自の製品・サービスを開発へ
牛用製品も…繊維各社がIoTで狙う新市場

クラボウは熱中症など猛暑下の作業リスクを低減するシステム「スマートフィットフォーワーク」を提供

 老舗繊維企業が自社の素材やIoT(モノのインターネット)などの技術を活用し、関心の高まる熱中症対策商品や衣料以外の用途開発に注力している。繊維各社はそれぞれ差別化できる機能を持つ素材を有するが、衣料用途だけで大きな成長は難しい。複数技術の融合で素材に付加価値を付け、他者に先駆けた独自の製品・サービスを開発し、事業拡大を図る狙いだ。

 クラボウは5月、建設業や製造業など向けに暑熱環境下での作業リスクを低減するシステムのサービスを始めた。同社の導電性繊維を使ったシャツに生体センサーを装着し、着用者の心拍や加速度などの生体情報を高精度に測る。大阪大学や日本気象協会と開発した、着用者の生体データを個別解析する算出法を用い、作業者の熱中症や転倒の可能性など体調変化を管理者が遠隔で把握できる。システムは大手建設会社の作業現場に採用された。

 猛暑の影響が深刻なのは人だけではない。グンゼは今春、同社の接触冷感素材の牛用衣服などを使い、夏に搾乳量が減る乳牛の熱ストレスを軽減するシステム「ウシブル」の販売を始めた。ウシブルは衣服に適度な湿り気を与え、送風機などで気化を促進し、熱を効率よく体外に逃がす。衣服にはセンサーが付いており、生地が乾いたら自動的に注水する構造だ。

 農林水産業に関わる研究機関によると、乳牛は汗腺が少なく放熱が苦手。気温が24度C以上でストレスを感じて乳量が激減、極度の夏バテから死ぬこともあるという。グンゼ経営戦略部の永井義之新規事業推進室室長は「酪農以外の用途展開も検討中」と意気込む。東洋紡のフィルム状導電素材「COCOMI」も、競走馬の体調管理などを行うシステムに使われる。同素材を使って心拍数を測定する馬用腹帯カバーをアニコール(横浜市)と共同で開発。全力疾走する競走馬でも、同素材が有する0・3ミリメートルという薄さや高い導電性、伸縮性の特徴を生かし、高精度なデータが安定して取れると評価された。

 東洋紡の作田光浩繊維生産技術総括部長は「高齢化が進む犬や猫などペット用途も、今後見逃せない市場」と次の展開を見据える。

グンゼが提供する、乳牛の熱ストレスを軽減するシステム「ウシブル」

(文=大原佑美子)
日刊工業新聞2018年8月23日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
どれだけ優れた素材を持っていても、新たな需要開拓は簡単でない。素材各社が他社と組むことで、新しい発想を得て独自の商品やサービスにつなげられるか、勝負となる。 (日刊工業新聞社大阪支社・大原佑美子)

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