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東京五輪を守る“顔認証” 技術革新が止まらない

東京五輪を守る“顔認証” 技術革新が止まらない

顔認証で人物をリアルタイムに測定。訪日外国人も認識(NEC提供)

 指紋や虹彩など身体的な特徴で本人を特定するバイオメトリクス(生体認証)が身近な存在となってきた。注目は顔認証。適用分野は入退出管理にとどまらず、パソコンのログインや現金自動預払機(ATM)の認証、モバイル決済など幅広く、このほど東京五輪・パラリンピックへの採用も決まった。「東京2020大会」をショーケースに、安心・安全を支えるプラットフォーム(基盤)として、顔認証が社会にどう根付くかが注目される。

 東京2020大会では、大会関係者向け入場ゲートなどのレーン(進路)に顔認証装置を設置し、顔とIDカードで本人確認を行う。対象は各国の選手やスタッフ、ボランティアら約30万人と大規模。顔認証の採用は五輪史上初となり、設置場所は数百カ所にのぼる予定。

 顔認証の特徴は、利用者にストレスをかけずにさりげなく、かつ高精度に照合できること。目視に比べて認証時間を大幅に削減できるうえ、IDカードの貸し借りやなりすましなどの不正入場も防止できる。東京2020大会はこうした効果を内外に示す格好の舞台といえる。

 同システムを受注したNECは7日、東京五輪・パラリンピック競技大会組織委員会と共同会見し、「アスリートの生み出す感動を損なわないように、大会をしっかりと守りたい」(菅沼正明執行役員)と強調した。

 顔認証は人工知能(AI)との連携で技術革新が目覚ましい。他の生体認証と違う点は複数の人たちをリアルタイムに検知できること。しかも動いている被写体の顔を「99・2%の照合精度で即時に認証できる」(NEC)という。

 このため顔認証の利用シーンは空港などの公共施設から、大規模な店舗やイベントへと広がっている。もとより、カメラを使った認証はITサービスの入り口でもあり、そこをどう押さえるかで、ITベンダー各社が火花を散らせている。

 ITサービスの動向を調査している野村総合研究所(NRI)の藤浪啓上級コンサルタントは「顔認証はカメラを中心とする『センサー』、画像処理や機械学習をベースとした『認識』、本格的なAIを活用する『判断』の三つの階層があり、それぞれに強みを持ったプレーヤーが群雄割拠している」と語る。

 認証と判断の違いは顔認証では肝となる技術だ。例えば、振る舞いの怪しい人を監視カメラで検知する場合、あらかじめ不審者の顔を特定できていれば、データ照合による“認識”処理でカバーできる。しかし、あらかじめ特定できない場合はデータの参照では分からず、AIによる高度な“判断”が不可欠というわけだ。

 顔認証は、かつてはカメラの性能が占めるウエートが大きかったが、藤浪氏は「現在は認識や判断がイノベーションの中心となっている」と指摘する。同分野で競うベンダー各社のつば競り合いも激しい。キヤノンはセンサーのカメラに加え、事業領域を広げるため、買収を積極化。スウェーデンのアクシスの買収に続き、5月には映像解析に強いイスラエルのブリーフカムの買収を発表した。

 NECは「カメラはどこでも組める」というフリースタンスに立ち、認識と判断という二つの階層で競争力を高める戦略だ。AI活用にも力を注いでおり、不審者が特定できていない場合でも、異なる複数のカメラ動画から、不審な振る舞いの人物を任意に検知できるシステムなども実用化している。

 パナソニックは3階層のすべてを持つ。監視カメラでは鉄道や空港の入国管理などでのシェアが高い。顔認証ではNECとは全面対決の様相だ。
日刊工業新聞2018年8月21日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
顔認識はセキュリティー以外用途でも期待が大きい。例えば、特定のエリア内で、対象者が意識していなくても、各自の行動を分析して、売り上げ増につながるような多様なサービスを提供することも可能。もちろん、本人の同意を得ることが必須。過度なサービスを提供すると、プライバシー侵害となる恐れもある。こうした“もろ刃の剣”のような破壊力を持つ顔認証が共通プラットフォームとして社会に受け入れられるためには、利用ルールの明確化と周知徹底が急がれる。 (日刊工業新聞社・斉藤実)

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