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東京ビールをお土産に…「クラフト」新名物に名乗り

飽きない味追求、香り・色合いにこだわり
東京ビールをお土産に…「クラフト」新名物に名乗り

ホッピービバレッジが製造するビールは4ブランド7種類におよぶ

 “とりあえず1杯”をお土産に―。東京都内でクラフトビールを製造・販売する中小企業が増えている。瓶で売る「地ビール」タイプが主流ではあるが、その場で飲めるブルワリーパブ(醸造所併設型パブ)も多い。東京発のビールで、酒宴を盛り上げようとする各社を追った。

 「お土産でありながら、地元に愛されるビールを目指した」―。羽田麦酒(東京都大田区、鈴木祐一郎社長、03・6410・2653)の鈴木社長は笑顔をみせる。同社が製造・販売する「HANEDA」は小瓶で販売しながら、「羽田バル」(東京都大田区)で提供する。

 製品は外国人が「クラフトビール、スペース地名」で検索すると引っかかるように、到着地になりうる羽田空港の名前を使った。7月からは大田区名物の銭湯と協力し、「黒湯ビール」も販売している。鈴木社長は「クラフトビールは、全国にある製造所を転々と訪ねて飲む人が多いが、当社は常連客がほしかった。飽きないように味のくせも弱くした」と明かす。

 東京農業大学の醸造科学科出身の鈴木社長は卒業後、地ビール製造のプラント作りに関わった。将来オリジナルビールを作りたいと思っていたが、そのうち地ビールブームが下火になった。「地方でビールを飲むには、車でしか行かれない場所が多い。運転手が飲めないため、うまく普及しなかった」と振り返る。鈴木社長は“東京産のクラフトビール作り”に突き進む。自社で製造するかたわら、クラフトビールを作りたいという飲食店向けにコンサルティングも行っている。
 
 古くから「東京の地ビール」を製造・販売するメーカーも負けてはいない。老舗酒造会社である石川酒造(東京都福生市、石川彌八郎社長、042・553・0100)は、明治の一時期にビール醸造を手がけた経験から1998年、クラフトビール事業に本格参入した。創業時は農業のかたわら日本酒を醸造していたが、戦後、日本酒製造に軸足を移した。近年は日本酒製造の落ち込みを補う形で、クラフトビールの売上比率が3―4割に高まっている。

 欧州の伝統的な製法を踏襲しながら、蔵元ならではの感性を生かしたオリジナル醸造にこだわる。5月には、クラフトビールのブランド「TOKYO BLUES(トーキョーブルース)」から、第3弾となる「シングルホップウィート」を発売。ドイツ伝統の白ビール「ヴァイツェン」に近づけつつ、ニュージーランド産の希少なシングルホップをふんだんに使用した。日本酒と同じ地下150メートルからくみ上げた水で仕上げた。

 石川社長は「小麦のまろやかな口当たりとシングルホップの白ワインのような香り、品のいい苦みが特徴」と自信をみせる。

蔵元ならではの感性を生かしたオリジナル醸造にこだわる石川酒造

 また、お酒を割る飲料水「ホッピー」を製造するホッピービバレッジ(東京都港区、石渡美奈社長、03・3583・8255)が仕掛けるクラフトビールも話題だ。同社は創業者、石渡秀氏がホッピーを開発した当初から、ビール製造を夢に見ていた。94年の酒税法改正でビールの最低製造量が緩和され、2代目社長の石渡光一氏(現会長)が、全国5番目に地ビールの製造権を取得。ビールのブランドは本社を置く赤坂から工場のある調布、深大寺、日本橋と、東京にちなんだ地名を付けた。

 3代目の石渡美奈社長が造った「赤坂ビール ルビンロート」は、あや紫芋の天然色素を使ったピンク色のビール。着色料を使わず、赤坂の“赤”にちなんだ色合いのビールを造りたいという思いを実現した。甘みが強くシャンパンのような味わいと女性に評判だ。

 地ビールは全部で7種類におよぶ。洗瓶や醸造には東京都調布市の地下水を使用。70年の工場移設の際に水質がよく、豊富な水があり、都心に近い調布市を選んだ。コーポレート部門ナレッジマネジメント部秘書・HOPPY未来開発課の原知代課長は「東京に根ざして造っている。いつか東京土産などに選ばれたい」と目を輝かす。

英の伝統的製法受け継ぐ


 瓶ではなくその場で飲めるクラフトビールにこだわる店もある。カンピオンエール(東京都台東区、ジェームス・ウィリアムス代表、03・6231・6554)はブルワリーパブを経営する。浅草の中心街から少し離れた場所で、醸造したてのビールを味わえる。夜になると地元住民や観光客でにぎわう。

 英国出身のウィリアムス代表は、ケンブリッジ大学で数学を専攻。卒業後、観光で訪れた日本を気に入り、一度は東京都内の企業に就職したが、2013年にパブを開く決意をする。英国に帰国し、醸造学校でビールの製法を学んだ。

 同店は英国の伝統的な製法を受け継いだエールビールを提供する。定番からフレーバー入りまで常時3―4種類のビールを味わえる。一般的なビールに比べてアルコール分は4%前後と低め。ウィリアムス代表は「イギリス産の原材料にこだわった。麦芽の風味が強く、香りが立ちやすい」と特徴を語る。

 週末はビールの仕込み体験会を開くこともある。都内イベントへの出店も増えた。開店から5年、東京に根ざしてビール造りを続けている。

仕込みをするウィリアムス代表(カンピオンエール)
日刊工業新聞社2018年8月20日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
20年東京五輪・パラリンピックを控え、各地で観光商材の産出にも力が入る。日本総合研究所(東京都品川区)プリンシパルの柿崎平氏は「全国には約200社のクラフトビールメーカーがある。中でも東京は、消費地の近くにあるメーカーが増えていると感じる」と指摘する。クラフトビールは新たな“東京名物”となるか、期待がかかる。 (日刊工業新聞社・門脇花梨、松崎裕、大串菜月、大川諒介)

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