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誰もが見分けられるカラーデザイン、“色彩の最前線”に立つ企業たちの挑戦

DICと東洋インキが追求
誰もが見分けられるカラーデザイン、“色彩の最前線”に立つ企業たちの挑戦

DICは工業製品向けに、日本の伝統色を提案する

 街角にあふれるカラフルな看板や地図、デジタルサイネージ…。他にも鉄道の路線図や災害情報、カレンダーなど、色を通じて受け取る情報は多岐にわたる。ただ、その色はすべての人に等しく見えているわけではない。印刷インクという“色彩の最前線”に立つDICと東洋インキの両グループは、誰もが正しく情報を入手する「カラーユニバーサルデザイン」を追求する。

 国内には色覚障がいの人が300万人以上、弱視の人は100万人以上いるといわれる。人間の目は、網膜の錐体(すいたい)という視細胞が光に反応することで色を感じる。錐体は赤から黄緑、オレンジから緑、青から紫の光に反応する3種類があり、脳はその差から色を認識する仕組みだ。それが遺伝的に錐体が欠落していたり網膜に疾患があったりすると、色の感じ方に個人差が出る。

 身近なところでは、水色とピンクで男女を表すトイレの表示がどちらも灰色に見えてしまう。黒地に赤い文字を使っても、白く縁取りしなければ見分けにくい。用途で色分けした書類も、色名を書かないと判別できないといった具合だ。DICカラーデザインの竹下友美カラープランナーは「解決に向けあらゆる色覚特性を持つ人たちと検証・調整を重ねた」と自信を示す。

 DICは東京大学の監修を受け、2009年に多くの人が等しく情報を認識できる「推奨配色セット」を開発した。同社が手がける色見本2544色を大きく24色に分類した上で、色覚障がいの種類である1型色覚(P型)と2型色覚(D型)の人で判別しやすい色を抽出。さらに弱視と3型色覚(T型)の人が検証した。たどり着いたのが、見分けやすくかつ共通の色名でイメージできる20色だ。

 ただ、これでは色の概念にすぎず実用性に欠ける。そこで塗装と印刷、画面用にマンセル値とCMYK値、RGB値を設定。色の再現方法は違っても、同等の印象を感じられるようこだわった。18年4月には、さらに色調を調整して使いやすくした推奨配色セット第4版を完成。これを踏まえ、7月に目的や使用上の注意事項をまとめたガイドブック(第2版)も仕上げた。

 例えば、よく混同を指摘される赤と緑でも「オレンジ寄りの赤」と「青寄りの緑」に直すだけで見分けやすくなるという。竹下カラープランナーは「使えない色が増えると敬遠されがちだが、少しの工夫で見え方は改善できる。色覚のバリアーを取り除ければ」と話す。すでに路線図や公共施設のほか、タッチパネルやデジタルサイネージの塗り分けなどに活用されている。

色使い、効率良く


 東洋インキも04年から、色覚の違いによる見え方の差をデザイン段階で解消しようとする支援ツール「UDing CFUD」を提供している。画面上から使いたい色を選ぶと、P型・D型・T型の色覚別に見え方を表示。併せて組み合わせた場合に見分けにくくなる色に×印が付くため、カラーユニバーサルデザインに即した色づかいを効率よく決めることが可能だ。

 だが「この方法では元々のイメージが変わってしまうため、使いたがらないデザイナーも多かった」(細井功テクニカルソリューションセンター長)。その反省を踏まえ14年に開発したのが、色を変更せずにデザインを表現する「UDingディザ」だ。元々の色を少し明るく・暗くした市松模様や縦じま、横じまと組み合わせることで、デザイン性と識別性を両立した。

 両社は多様な色表現を提案する取り組みにも熱心だ。DICは日本文化特有の色を建材やインテリア、アパレルといった工業デザインに展開する。「日本の伝統色」として開発した色見本300色を季節や地域、時代などの切り口で分け、由来の解説と併せて紹介。印刷物の色指定や色合わせという従来用途に加え、デザイナーやメーカーの色彩資料としての活用も促す。

 すでに建材や色鉛筆に採用された。まずは豊富な色彩を訴求するとともに、色見本が備える“色の公用語”という機能を幅広い分野に浸透させる。インクや顔料など事業拡大にもつなげる。

 例えばアパレル業界には、デザイナーとメーカーが早い段階で共通の色彩イメージを持つことができる利点を強調。双方のズレを修正し、コスト削減や生産性の向上にも寄与する。

路線カラーに区別しやすい配色を用いた阪急電鉄の路線図(DIC)

日刊工業新聞2018年8月16日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
一方、色材や機能材を生産するトーヨーカラー(東京都中央区)はデザイン事務所のNOSIGNERと「プレミアムカラーブランディングプロジェクト」を始動した。その第1弾が、5月に開発した黒色「ZENBLACK」だ。同社のカーボンナノチューブを活用したもので、機能材料営業部の藤田健一グループリーダーは「通常の黒より黒く、光を吸収するような漆黒感」と胸を張る。中国・広東省で4月に開かれた「深圳デザインウィーク」に出展し、高級感の演出を中心とした需要が見込める感触を得た。足元はデザイナーやメーカーと最終製品への展開を模索している段階で、年内の試作を目指す。「付加価値を高めるツールとして、黒を使おうというニーズは大きい。今回は数値ではなく、感性に訴えかけていく」(藤田グループリーダー)戦略だ。 (日刊工業新聞社・堀田創平)

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