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ICTで収益力強化を狙う建機業界

ICTで収益力強化を狙う建機業界

日立建機はICT油圧ショベルも拡充

 建設機械業界で情報通信技術(ICT)サービスの展開を通じて、収益力を高めようとする動きが広がっている。コマツはICT企業との連携を進め、日立建機もICTサービスの拡充で対抗する。建機レンタル大手のアクティオ(東京都中央区)も、建機各社の機種を提供する強みを生かしながら、ICTやIoT(モノのインターネット)の需要を取り込む。建設現場でのICTの活用の勢いが増している。

異業種と連携 ARで設計データ融合


 コマツは工事全般をICTで支援するビジネスモデルで先行し、アプリケーション(応用ソフト)事業者などとの結びつきを深めている。拡張現実(AR)技術を持つカヤックと協業し、ICT対応の油圧ショベル「PC200i―11」向けの施工支援サービスを月内に商用化する。目指すのは現場の映像と3次元(3D)の設計データの融合だ。

 建機に搭載されたステレオカメラで撮影した映像をARにより設計データと合成して、運転席に取り付けたタブレット端末に表示する。作業者が計画通りに施工できているかどうかを確認しやすくして生産性を高める。新サービスの投入を皮切りに、カヤックが持つソフトウエア技術やユニークな発想を活用し、工事関係者の需要を取り込む。

 工事現場でのICTの活用を進める国土交通省の方針「アイ・コンストラクション」により、以前からICTサービスを重視してきたコマツの商機は広がった。ただ、自前の開発だけでは限界がある。「顧客に早くサービスを提供する」(岩本祐一専務執行役員CTO)には、外部の有望な技術も活用する必要がある。

 コマツはNTTドコモなどとの共同出資会社を通じて、建設業向けIoT基盤も展開している。アプリ事業者などの参画を増やして需要を取り込む。

サービス拡充 作業の進捗“見える化”


 「手軽に現場を“見える化”する」―。日立建機の福本英士執行役常務は施工支援サービスの拡大に自信をのぞかせる。

 スマートフォンで建機や作業者の位置をほぼリアルタイムに確認でき、現場での段取り作業を効率化する。車載専用の全地球測位システム(GPS)端末も提供し、例えばダンプトラックによる土砂の運搬回数も把握できる。IoT技術を導入し、作業の進捗(しんちょく)管理に役立てる。

 日立建機はアイ・コンストラクションに沿って、工事関係者が測量から検査までのデータを使いこなす仕組み作りを目指している。日立製作所のグループ会社と連携したサービス展開も武器で、今秋には高速道路やダム建設に必要な通信環境を確保するサービスと、スマホで土砂の量を計測するサービスをそれぞれ始める。現場でICTの需要が高まっている中で、新サービスを拡充している。

 日立建機も建機販売を中心としながらも、ICTサービスで安定して収益を得る事業モデルを強化している。飛行ロボット(ドローン)による測量や建設用ソフトなど、自社で持たない技術は協業でまかなう戦略を明確に打ち出している。日立の総合力も強みだ。

 アイ・コンストラクションが大規模工事だけでなく、小規模工事にも広がる状況でサービス開発も対応が求められそうだ。

車両状況を管理 燃料の残量把握にIoT


 アクティオは建機メーカー各社の油圧ショベルや施工に必要なICT機器などを幅広くレンタル提供していることを強みに、収益力の強化に動いている。

 建機各社と同様にICTへの投資を進めており、車両の運行管理システムを運用している。GPS機能を搭載した携帯端末を車両に搭載し、位置情報と運転手が入力した運行状況が定期的に専用サーバーに送信される。工事関係者が事務所で、車両の状況や運行ログ(履歴)を手軽に確認できる。

 また工事で使われる機械の燃料の残量データをIoTで把握するサービスを2019年以降に商用化する予定。機械に的確なタイミングで給油できるようにして、工事業者を支援する。

 アクティオにとって、こうしたサービスの展開はレンタルに続く収益の柱に育つ可能性がある。現場では複数のメーカーの建機や機械が稼働しており、まとめて管理できる環境作りを進める意味は大きい。工事支援サービスがそろう体制をアクティオが整えることで、現場の生産性向上が加速することも予想される。

 建機メーカー顔負けのICT戦略を描き、アイ・コンストラクションを追い風に現場の需要を取り込むことで収益拡大に弾みを付ける。

アクティオは自社の展示会でICT建機やサービスの性能を訴求した
日刊工業新聞2018年8月16日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
アクティオは建機レンタル最大手の立場を生かしながら、新たな事業モデルの確立を目指す。 (日刊工業新聞社・孝志勇輔)

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