#3
「わからない」は成長への期待、アサヒ会長の挑戦支えた言葉の力
謙虚さを持って学ぶ
大きく変化するビジネスに、国語力はどう生かせるのか。アサヒグループホールディングスの泉谷直木会長は、初めてのことに挑戦する時も、言葉の力で自分に勢いをつけたという。言葉を強みにする極意を聞いた。
-読書家として知られています。こだわりを教えてください。
「本をテーマに、考えることを大事にしている。本を読んで『へぇ』と思うだけでは知恵は入ってこない。『これは何だ』と考えることで、頭が活性化する。そう思う謙虚さを持って読む。また、主語を自分などに置き換えて、考えを広げる。本を開いて別の事を考えていることもある」
-言葉や考える力は、さまざまな人とのコミュニケーションにどう役立ちましたか。
「私のコミュニケーションは聞くことが先だ。執行役員の時、メンターに言われた『沈黙を聞け』という言葉を今も大事にしている。部下に指示する時、1から10まで説明すると、部下は『わかりました』と言う。だが、3で止め、質問しながら部下の考えを引き出す。考えている時は沈黙して待つ。これを繰り返し、部下が納得して『やります』と宣言すると、気合が違う」
-もどかしく感じることはありませんか。
「謙虚さや我慢強さ、部下への愛情、使命感がなければできない。例えば、ある部下には、『以前こういうことをやってたね。見てたよ。今回はそれより難しいけど、どうすればできると思う?』と話した。これまでの仕事ぶりなどを把握し、こちらがしっかり準備して臨むと、相手も応えてくれる。距離を近づけることも重要だ」
-コミュニケーションは難しいと感じる人もいます。
「まず自分から兜を脱ぎ、心を開くこと。近寄っていくにはパワーがいる。自信がないと思う人は、ぜひ本を読むことから始めてほしい。本を読むことは、筆者とのコミュニケーション。次に本をテーマに考えると、自分とのコミュニケーションになる。本からエネルギーをチャージし、自信を持って、相手に心を開くことができるだろう」
-泉谷会長は話をきく時、耳に聞こえる『聞く』と、相手が主人公になるように質問して『訊く』、それに対する相手の意見を理解して『聴く』とを使い分け、考えや行動を深めているそうですね。
「『きく』などの言葉の三段活用は、原理原則を知ることが好きでやっている。例えば、モグラたたきゲームを百発百中でたたける人は、対応型の優秀さだ。ゲーム機の下に潜り、どろどろになって仕組みを調べる人は予測ができる。対応型はモグラが出てこないと何もできないが、原理原則を知れば別の行動を思いつく」
-言葉を深く考えると、日常生活の感じ方が変わりそうです。
「他にも『信念』という文字を分解すると、『今の心を人に言う』となる。今の心は願望だが、人に言い、謙虚に相手の話を聞くと信念になる。言葉を心に刻むと、行動が磨かれる」
-知って、考えることを楽しむんですね。
「わからないことやできないことが増えるのは楽しい。わからないと感じられるのは、それを取り入れ、自分が成長できる期待があるからだ。言葉を知ることで幸せになれる。ストレス社会で、自分で理解した『信念』のような言葉は、自分を励ましてくれる。社長となった時、『山頂の松に学べ』と教えてもらった。社長は厳しい風雨にさらされても、徳の根を張り、元気に立つ様子を麓にいる従業員へ見せなくてはいけない」
-若者を中心に、言葉は変化しています。
「言葉は変わるもので、悪いとは思わない。今、若者言葉よりも気になる変化が起きている。一つはIT革命で、大量データの送受信が容易になると、動画のコミュニケーションも増えるだろう。これまで人間は文章から学び、考える力や感じる力などを養ってきた。これがどうなるのかを注視したい」
-ますます変化の大きな時代に身を置く若手ビジネスパーソンに伝えたい言葉はありますか。
「若い人には『虚心坦懐』で、裸でぶつかってほしい。若い時の知ったかぶりは成長の敵だ。若手の時は、体で勝負する『体技心』、中堅になると技を使えるようになる『技体心』、50代以降は『心技体』と、段階を踏んで成長していってほしい」
『沈黙を聞け』
-読書家として知られています。こだわりを教えてください。
「本をテーマに、考えることを大事にしている。本を読んで『へぇ』と思うだけでは知恵は入ってこない。『これは何だ』と考えることで、頭が活性化する。そう思う謙虚さを持って読む。また、主語を自分などに置き換えて、考えを広げる。本を開いて別の事を考えていることもある」
-言葉や考える力は、さまざまな人とのコミュニケーションにどう役立ちましたか。
「私のコミュニケーションは聞くことが先だ。執行役員の時、メンターに言われた『沈黙を聞け』という言葉を今も大事にしている。部下に指示する時、1から10まで説明すると、部下は『わかりました』と言う。だが、3で止め、質問しながら部下の考えを引き出す。考えている時は沈黙して待つ。これを繰り返し、部下が納得して『やります』と宣言すると、気合が違う」
-もどかしく感じることはありませんか。
「謙虚さや我慢強さ、部下への愛情、使命感がなければできない。例えば、ある部下には、『以前こういうことをやってたね。見てたよ。今回はそれより難しいけど、どうすればできると思う?』と話した。これまでの仕事ぶりなどを把握し、こちらがしっかり準備して臨むと、相手も応えてくれる。距離を近づけることも重要だ」
-コミュニケーションは難しいと感じる人もいます。
「まず自分から兜を脱ぎ、心を開くこと。近寄っていくにはパワーがいる。自信がないと思う人は、ぜひ本を読むことから始めてほしい。本を読むことは、筆者とのコミュニケーション。次に本をテーマに考えると、自分とのコミュニケーションになる。本からエネルギーをチャージし、自信を持って、相手に心を開くことができるだろう」
言葉を心に、行動を磨く
-泉谷会長は話をきく時、耳に聞こえる『聞く』と、相手が主人公になるように質問して『訊く』、それに対する相手の意見を理解して『聴く』とを使い分け、考えや行動を深めているそうですね。
「『きく』などの言葉の三段活用は、原理原則を知ることが好きでやっている。例えば、モグラたたきゲームを百発百中でたたける人は、対応型の優秀さだ。ゲーム機の下に潜り、どろどろになって仕組みを調べる人は予測ができる。対応型はモグラが出てこないと何もできないが、原理原則を知れば別の行動を思いつく」
-言葉を深く考えると、日常生活の感じ方が変わりそうです。
「他にも『信念』という文字を分解すると、『今の心を人に言う』となる。今の心は願望だが、人に言い、謙虚に相手の話を聞くと信念になる。言葉を心に刻むと、行動が磨かれる」
-知って、考えることを楽しむんですね。
「わからないことやできないことが増えるのは楽しい。わからないと感じられるのは、それを取り入れ、自分が成長できる期待があるからだ。言葉を知ることで幸せになれる。ストレス社会で、自分で理解した『信念』のような言葉は、自分を励ましてくれる。社長となった時、『山頂の松に学べ』と教えてもらった。社長は厳しい風雨にさらされても、徳の根を張り、元気に立つ様子を麓にいる従業員へ見せなくてはいけない」
-若者を中心に、言葉は変化しています。
「言葉は変わるもので、悪いとは思わない。今、若者言葉よりも気になる変化が起きている。一つはIT革命で、大量データの送受信が容易になると、動画のコミュニケーションも増えるだろう。これまで人間は文章から学び、考える力や感じる力などを養ってきた。これがどうなるのかを注視したい」
-ますます変化の大きな時代に身を置く若手ビジネスパーソンに伝えたい言葉はありますか。
「若い人には『虚心坦懐』で、裸でぶつかってほしい。若い時の知ったかぶりは成長の敵だ。若手の時は、体で勝負する『体技心』、中堅になると技を使えるようになる『技体心』、50代以降は『心技体』と、段階を踏んで成長していってほしい」
【略歴】いずみや・なおき 京都府出身。1972年京都産業大学法卒、同年アサヒビール入社。00年執行役員、03年取締役、04年常務、09年専務、10年社長。11年アサヒグループホールディングス社長、16年会長。明るく話好きで、気さくな人柄。若手社員と話す時、誕生日などいろいろなことを調べて会話に盛り込み、最初から「ぐんと距離を近づける」(泉谷会長)ようにしているという。家族とのコミュニケーションにはLINEを使うことも。
(2018年8月16日)
特集・連載情報
インターネットが一般化し、社会システムにデジタル技術が導入されたことで、瞬時の情報処理が実現し、デジタル社会が確立された。こうした中、知識や教養、価値観、感性などで構成する「国語力」はどう変わるのか。新たな時代に求められる国語力を、言葉や文章などに関わる識者に聞く。