問われる損保の価値、広域災害時の迅速な支払いをどう実現?
効率化は各社が抱える課題
大阪北部地震や西日本豪雨など広域災害が相次ぐ中、損害保険各社は災害対応を加速する。損害保険は自然災害や自動車事故など偶発的な損害に対し、保険金を支払うもの。広域災害の場合、保険金は被災者の生活再建に向けた重要な資金となる。ただ、広域災害時には保険金の支払いに必要な損害調査や事務作業が集中しがちで、これらの効率化は各社が抱える課題だ。
「広域災害時にどれだけ正確で迅速に保険金を支払えるか。我々の価値が問われる場面と言っても過言ではない」。ある大手損保幹部は自然災害が頻発する現状を踏まえ、災害対応の重要性を強調する。2018年は既に6月に大阪府高槻市付近を震源とする最大震度6弱の地震が発生。7月には西日本を中心に記録的な豪雨が観測され、広島県や岡山県などに甚大な被害をもたらした。
東京海上ホールディングス(HD)、MS&ADインシュアランスグループホールディングス(HD)、SOMPOホールディングス(HD)の大手損保グループは、西日本豪雨の保険金の発生見込み額を1500億円程度と見積もっており、大阪北部地震と合わせると支払保険金は2000億円規模になりそうだ。
損保各社はこれまでも自然災害に備えた体制整備や社員教育、飛行ロボット(ドローン)などを活用した損害調査を推進してきたが、先の二つの自然災害では、より効率的な損害調査や事務作業を確立しようとする姿がみられた。
広域災害時の体制構築に独自色を出すのは、東京海上日動火災保険だ。同社は「マルチロケーション」と呼ばれる、災害時に被災地に集中する事務作業を全国の拠点に分散する仕組みを構築した。これまでは災害時に多くの社員が被災地の応援に駆け付けていたが、現在は自身の拠点に居ながら被災地の支援業務に当たれるようになった。
この仕組みの根幹にあるのが、12年に刷新したオンラインの損害サービスシステム「Gネット」。従来は災害時に損害調査を始める場合、書類で管理する事故情報のオンライン登録が必要で、膨大な登録作業を被災地の拠点が行っていた。今は事故情報をGネットで一括管理するため、被災地から離れた社員でもGネットにアクセスすれば登録作業を手助けできる。
この取り組みにより被災地に派遣する社員は減り、災害時の課題だった通常業務の停滞が改善し、移動に伴う社員負担も軽減したという。同時に被災地は事務量が軽減し、人手が必要な損害調査により多くの社員を充てることが可能になった。北沢利文社長は「マルチロケーションは災害時に力を発揮している」と手応えを語っており、この取り組みを核に災害対応を一層強化する方針だ。
一方、損害調査の効率化を目指し、新たな手法を試験運用する動きもあった。広域災害時は損害調査が過度に集中するため、ノウハウを持った調査員が不足する。これに「遠隔査定」を取り入れたのは、三井住友海上火災保険とあいおいニッセイ同和損害保険だ。
水害の場合、損害調査は調査員が現場を訪問し、自動車や家屋の浸水度合いなどを確認する。一方、遠隔査定は調査員は拠点に留まり、スマートフォンやタブレット端末を携帯した応援の社員が現場に行き、損害現場の映像を調査員に送る仕組み。調査員は時間を要しがちな被災地での移動や現場の段取りを別の社員に任せ、届いた現場の映像を確認しながら査定を進めることが可能だ。
三井住友海上が西日本豪雨時に行った遠隔査定の時間は1件当たり1時間程度と、従来の査定と大差がなかった。従来の損害査定は1人当たり1日3件程度が限界とされるが、同社担当者は遠隔査定を効率的に運用すれば従来の2倍の査定をこなせると見ている。
あいおいニッセイ同和損保は、大阪北部地震の遠隔査定が効果を発揮した。調査員は通常、移動しながら家屋の損壊度合いなどを査定し、保険金支払いに必要な関係書類も現場で作成する。今回の遠隔査定では、調査員は拠点で映像を見ながら書類の作成に集中することができ、関係書類の作成を含めた査定時間は大幅に短縮。損害調査の同日内に保険金の支払い手続きを完了した事例が4件あった。
損保ジャパン日本興亜は広域災害時にRPA(ソフトウエアロボットによる業務自動化)を活用する取り組みを進める。人手が必要な事務作業をソフトウエアロボットで代行し、事故受付から保険金支払いまでの時間を短縮するのが狙いだ。
同社は大阪北部地震で初めて事故情報の印刷や損害調査の進捗(しんちょく)状況の入力にRPAを導入し、西日本豪雨では新たに契約情報の確認と印刷の二つの業務にRPAを活用。人が行う単純事務を大幅に削減した。西澤敬二社長は「広域災害時のRPA活用は保険金支払いの迅速化のほかに、災害対策拠点の事務負担の軽減にもつながる。意義は大きい」と述べ、RPAへの積極投資を続ける方針だ。
「広域災害時にどれだけ正確で迅速に保険金を支払えるか。我々の価値が問われる場面と言っても過言ではない」。ある大手損保幹部は自然災害が頻発する現状を踏まえ、災害対応の重要性を強調する。2018年は既に6月に大阪府高槻市付近を震源とする最大震度6弱の地震が発生。7月には西日本を中心に記録的な豪雨が観測され、広島県や岡山県などに甚大な被害をもたらした。
東京海上ホールディングス(HD)、MS&ADインシュアランスグループホールディングス(HD)、SOMPOホールディングス(HD)の大手損保グループは、西日本豪雨の保険金の発生見込み額を1500億円程度と見積もっており、大阪北部地震と合わせると支払保険金は2000億円規模になりそうだ。
損保各社はこれまでも自然災害に備えた体制整備や社員教育、飛行ロボット(ドローン)などを活用した損害調査を推進してきたが、先の二つの自然災害では、より効率的な損害調査や事務作業を確立しようとする姿がみられた。
広域災害時の体制構築に独自色を出すのは、東京海上日動火災保険だ。同社は「マルチロケーション」と呼ばれる、災害時に被災地に集中する事務作業を全国の拠点に分散する仕組みを構築した。これまでは災害時に多くの社員が被災地の応援に駆け付けていたが、現在は自身の拠点に居ながら被災地の支援業務に当たれるようになった。
この仕組みの根幹にあるのが、12年に刷新したオンラインの損害サービスシステム「Gネット」。従来は災害時に損害調査を始める場合、書類で管理する事故情報のオンライン登録が必要で、膨大な登録作業を被災地の拠点が行っていた。今は事故情報をGネットで一括管理するため、被災地から離れた社員でもGネットにアクセスすれば登録作業を手助けできる。
この取り組みにより被災地に派遣する社員は減り、災害時の課題だった通常業務の停滞が改善し、移動に伴う社員負担も軽減したという。同時に被災地は事務量が軽減し、人手が必要な損害調査により多くの社員を充てることが可能になった。北沢利文社長は「マルチロケーションは災害時に力を発揮している」と手応えを語っており、この取り組みを核に災害対応を一層強化する方針だ。
遠隔査定・RPAを活用
一方、損害調査の効率化を目指し、新たな手法を試験運用する動きもあった。広域災害時は損害調査が過度に集中するため、ノウハウを持った調査員が不足する。これに「遠隔査定」を取り入れたのは、三井住友海上火災保険とあいおいニッセイ同和損害保険だ。
水害の場合、損害調査は調査員が現場を訪問し、自動車や家屋の浸水度合いなどを確認する。一方、遠隔査定は調査員は拠点に留まり、スマートフォンやタブレット端末を携帯した応援の社員が現場に行き、損害現場の映像を調査員に送る仕組み。調査員は時間を要しがちな被災地での移動や現場の段取りを別の社員に任せ、届いた現場の映像を確認しながら査定を進めることが可能だ。
三井住友海上が西日本豪雨時に行った遠隔査定の時間は1件当たり1時間程度と、従来の査定と大差がなかった。従来の損害査定は1人当たり1日3件程度が限界とされるが、同社担当者は遠隔査定を効率的に運用すれば従来の2倍の査定をこなせると見ている。
あいおいニッセイ同和損保は、大阪北部地震の遠隔査定が効果を発揮した。調査員は通常、移動しながら家屋の損壊度合いなどを査定し、保険金支払いに必要な関係書類も現場で作成する。今回の遠隔査定では、調査員は拠点で映像を見ながら書類の作成に集中することができ、関係書類の作成を含めた査定時間は大幅に短縮。損害調査の同日内に保険金の支払い手続きを完了した事例が4件あった。
損保ジャパン日本興亜は広域災害時にRPA(ソフトウエアロボットによる業務自動化)を活用する取り組みを進める。人手が必要な事務作業をソフトウエアロボットで代行し、事故受付から保険金支払いまでの時間を短縮するのが狙いだ。
同社は大阪北部地震で初めて事故情報の印刷や損害調査の進捗(しんちょく)状況の入力にRPAを導入し、西日本豪雨では新たに契約情報の確認と印刷の二つの業務にRPAを活用。人が行う単純事務を大幅に削減した。西澤敬二社長は「広域災害時のRPA活用は保険金支払いの迅速化のほかに、災害対策拠点の事務負担の軽減にもつながる。意義は大きい」と述べ、RPAへの積極投資を続ける方針だ。
日刊工業新聞2018年8月15日