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「人生100年時代に必要な金融リテラシー教育を」

生命保険協会・稲垣精二会長(第一生命保険社長)に聞く
 生命保険協会会長に第一生命保険の稲垣精二社長が就任した。国内生保業界は低金利環境が長引き、稼ぎ頭の一つだった貯蓄性の円建て保険の販売が減少したほか、人口減少に伴う市場の縮小も続くなど逆風が吹く。ただこうした中でも、高齢化社会を支える民間保険の役割は増大し、社会の持続的発展に寄与する投資行動も一層求められる。稲垣新会長に2018年度の協会の取り組みを聞いた。

 ―本年度の取り組みの骨子は。
 「『人生100年時代』を踏まえ、将来設計に必要な金融リテラシー教育を推進する。また、寿命が延びることで老後の医療や介護に備えるために民間保険などの『自助』が必要になるが、この自助のあり方の検討も進めたい。さらに、持続可能な社会の形成に貢献するために、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けた取り組みの強化やESG(環境、社会、ガバナンス)投融資の研究も推進する」

 ―ESG投融資は社会の要請が強まっています。
 「長期運用が可能な生保業界全体でESG投融資を推進する。これに向け、ESG投融資の推進作業部会を7月に設けた。部会ではESG投融資の優れた事例の研究や共有を実施し、本年度内には投融資の自主ガイドライン策定に向けた検討を開始したい。国民目線に合った投資行動を取らないと、見向きもされなくなってしまうことを認識すべきだ」

 ―「ソサエティー5・0(超スマート社会)」への対応も課題です。
 「超スマート社会における生保の役割を明確にし、国民の『健康増進』や『保険の利便性向上』の視点から具体的な議論を進めたい。引き続きマイナンバーや、医療情報へのアクセスの許可を政府などに働きかけ、保険金支払いの自動化や重要通知の迅速で確実な送付などが将来に実現できる土壌を作っていきたい」

 ―どのような協会運営を目指しますか。
 「問題提起や発信を積極的に行いたい。例えば、高齢者を地域が包括的に支援する『地域包括ケアシステム』への転換で、家族負担は増す可能性がある。この中で、民間保険がどのような役割を果たせるのか。さらには公的保険と民間保険のすみ分けなどの議論を開始し、なんらかの意見を発信したい」
稲垣精二会長
日刊工業新聞2018年7月24日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
少子高齢化や長寿化など社会環境が急速に変化する中で、国民生活に根ざした生保の役割は増大している。これまでは定年後や老後保障の役割が大きかったが、シニア層や女性の労働参加を保険を通じて後押しすることや、地域包括ケアシステムの中で社会保障の“補完役”としての働きにも期待がかかる。稲垣新体制の下で、今後の生保のあり方や、生保を取り巻く課題提起に向けた議論が深まるか注目したい。(小野里裕一)

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