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ボッシュから事業買収、そしてインド進出…。金型鋳造メーカーの事業承継

【次世代グローバル人材塾塾生】東京鋳造所・小澤社長に聞く
 中堅・中小企業の中で、若手の経営者や幹部候補の人材育成が注目を集めている。国内の中堅・中小企業は事業承継や海外展開など多様な経営課題が待ち構えているためだ。今後、どのように経営課題を乗り越えて行くべきか、グローバルな視野で事業戦略を進める企業の代表者に聞く。第1回目は、インド市場への参入など攻めの経営を進める東京鋳造所(群馬県高崎市)の小澤淳社長に最近の事業動向などを聞いた。

 -現在、社長を務めている内外(群馬県高崎市)とその子会社、東京鋳造所は最初から継ぐつもりだったのですか。
 「そうではない。タイミングだった。社会人としてのスタートは自動車部品メーカーの東京濾器だった。当時住んでいた神奈川県に一戸建てを建て、その会社でやっていくと思っていた。一方、群馬県で内外を経営していた叔父の斉藤哲夫会長からは『お前が(内外を)継ぐか、事業をたたむかだ』と言われた。4-5年考える中で、可愛がってもらった祖母に会社を継ぐ姿を見せてもいいかもしれないと感じていた。その後、家内にも『はっきりしたほうがいいよ』と後押しされ、2010年の4月から群馬県に移り、内外で仕事を始めた」

 -事業承継とほぼ同時に、東京鋳造所のM&A(合併・買収)を経験しました。
 「私の入社時は、東京鋳造所は買収されていたため、まだボッシュグループが親会社だった。だが、入社から2カ月後に、東京鋳造所の売却の話がきた。東京鋳造所は、社長を務めていた叔父の斉藤会長からすれば父親の会社だ。斉藤会長に『できれば東京鋳造所を買い戻したいが、その先やるのはお前だからどうするか』とM&Aの判断が迫られた。買う側の内外の方が企業規模は小さく、売り上げ規模で2倍の差があった。だが、商権の拡大や事業成長など合理性のほか、タイミングがよいと判断。12年1月に内外が東京鋳造所の全株式を取得した。正直、工場などの資産や土地、多くの従業員を持つことに対して甘い部分はあった。だが、事業承継やM&A、海外展開などを早い段階で経験することで、経営を学んでいった」

 -企業規模を生かし海外展開も進めています。
 「8月からインド・ベンガルール工場が本格稼働する予定だ。当面は日本や欧州向けに輸出する高圧燃料噴射ポンプなどの製品を中心に生産する。13年に現地企業との共同出資でシンプレクス・ナイガイ・キャスティングを設立し、生産拠点の開設に至った。海外で工場を開設するのはこれが初めてで、5年かかってやっと量産にこぎ着けた」

 -5年の時間を要したのはなぜですか。
 「インド市場の独特の仕組みがあったためだ。まず土地の選定の段階で、当初は農地を工場用地として転用することを計画していた。だが最終的に工場を建てたのは別の土地で、カルナータカ州のベンガルール近郊のドゥダラバプール工業団地内を選定した。書類審査や調査などが遅く、土地を選定していくことに時間がかかってしまった。また、その後の工場建設では、現地の雇用の問題が生じた。インド国内はカースト制の名残ががいまだにあり、建設に関わる労働者などは日給が基本。家を保有している労働者も少ないため、建設期間中は工場地域にその家族が住むことがあった。つまり労働者にとって、建設に時間がかかることが望ましく、建設機械などの導入は好まれていない。こうした現地のリアルや成長の速度感を知れる、よい経験になった」

 -インド市場は今後、大きな成長を見込める有望市場です。どのような戦略で攻めますか。
 「参入のきっかけはインドの友人からの話だった。別にインドに固執したわけではなく、12年頃に話があったため検討をはじめた。そのため市場調査を兼ねて、その知人と家族ぐるみの付き合いをすることで生活面なども見極めた。その中で、徐々に海外展開先としての魅力を感じ、市場参入を決断。今ではこれがよかったと思っている。インド市場を攻略するためには実際に、どのような町があり、そこで人が生活できるか、成長速度はどのくらいかなどを自分の肌で知ることが大切だ」

 「また、一般的に企業が海外展開する場合は、現地の仕事があるから参入するという発想だ。だが、当社は現地企業との仕事がない状態で、先に工場を建設した。仕事ありきで参入すると、現地の実情を知らないまま生産規模や製品売価を設定し、失敗するケースが多い。今後は国内の輸入に向けて生産を行いつつ、腰を据えて仕事を獲得していきたい」
【略歴】
小澤淳(おざわ・じゅん)95年(平7)東京濾器入社。10年内外入社、11年取締役、15年社長就任。神奈川県出身、46歳。

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【要項】
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【問い合わせ先】日刊工業新聞社事業推進室 担当・須藤
TEL:03(5644)7338
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日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
内外と東京鋳造所は、アルミの金型鋳造に特化し、多品種少量生産から大量生産まで一貫体制で製造を手がける。両社の社長を務める小澤氏はインドの参入やM&Aを行った理由に、友人からの誘いや運命的なタイミングなどを挙げており、合理性だけに頼らない判断能力と、瞬発力が印象的だ。今では経験を重ね、飲み会などに行くだけで、その飲み屋が赤字なのか黒字なのかが直感的に分かるらしい。本を読むよりも、リアルでこそ微視的な情報を集められるため、現場から学ぶようにしているとか。まさに経営を実践する日々だ。

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