無人コンビニは流行らない?“先端走る”中国で投資の流れ止まる
タグ管理は採算合わず
中国の小売りでデジタル技術を活用する動きが急速に進んでいる。電子商取引(EC)の成長が鈍化しつつある中、先端技術を取り入れた実店舗が注目されている。上海市などでは、スマートフォンなどを活用する無人型のコンビニエンスストアが目を引く。一方で、早くも「無人店舗のピークは越えた」との見方もある。効率化と消費者の利便性を、いかに両立させるか。人手不足に悩む日本の小売りにも、共通課題だ。(江上佑美子)
「我々はハイテク企業。伝統的な小売りに関する固定概念は捨ててほしい」。中国のEC最大手、阿里巴巴(アリババ)集団の広報担当者は同社が手がける生鮮スーパーマーケット「盒馬鮮生(フーマーシェンシャン)」について、こう語る。
同スーパーはアリババが提唱する、オンラインとオフラインを融合した「新小売」の取り組みの一つだ。ECやレストランの機能を組み合わせ、現在、約50店舗を運営する。店内の商品は半径3キロメートルなら、スマホ経由で注文を受けてから30分程度で配達できる。
アピールポイントの一つは「新鮮さ」だ。例えばプライベートブランド「日日鮮」の商品について、上海市内にある店舗の店長は「店頭からは1日で撤去する。常に新鮮な商品を並べる」と説明する。売れ残りの牛乳はEC上で値下げして売り、廃棄ロスを抑える。
さらにいけすにある海産物を調理し、店内で食べられるサービスもある。一方でこの店長は「スーパー運営が目的ではない。店舗を体験してもらうことで、ECにつなげたい」と話す。
中国では顔認証といった人工知能(AI)などの研究が急速に進んでおり、米国を猛追する。「技術自体は日本にもあっても、それを実店舗に用いるのが早い」と、ローソンの竹増貞信社長はスピード感に驚く。
ローソンは都内で、来店者がスマホを使って商品のバーコードを読み取り、オンライン決済サービスの「楽天ペイ」などを使い、セルフ決済する仕組みの実証実験を始めた。
上海市や江蘇省、浙江省のローソン店舗では既に全店で導入済みのシステムだ。竹増社長は「(中国で)先進的なデジタルの取り組みにチャレンジし、日本や世界中に持って行く。そういう役割を担ってもらう」と期待する。
一方、2020年までの中期経営計画の一つに「デジタル化」を掲げるイオン。子会社のイオンディライトは5月末に、AIやIoT(モノのインターネット)を活用した無人化、省人化を研究する企業を上海市内に設けた。協業する深蘭科技(上海市)は生体認証決済などの技術を用いた無人コンビニ「take go」を開発する。
中国での無人コンビニの拡大は、「消費者が“新しモノ好き”」(中国の業界関係者)である点に加え、日本同様、人手不足や人件費高騰に対する危機感が理由だ。
無人コンビニはスマホをかざして入店し、商品に付いている無線識別(RFID)タグをセルフレジなどで読み取り、「支付宝(アリペイ)」といった決済アプリ経由で支払う仕組みが主だ。中国でのスマホ普及も追い風だ。
ただ、無人コンビニの投資の流れは「17年秋以降、パタリと止まった」(業界関係者)。背景にあるのは無人コンビニの“不便さ”だ。スマホがなければ入店や決済ができず、決済アプリを起動する手間などがかかる。店舗に先端技術を導入することが目的化している面もあり、消費者にとって必ずしも親切な仕組みではない。
無人コンビニも完全に無人ではない。品出しや店内調理、消費期限切れ商品の撤去といった作業を、ロボットなどで自動化するのは難しく、コストもかかる。無人化は決済や発注レベルに留まり、実際は“自動販売機”の域を出ない。扱う商品もスナック菓子や缶飲料など、消費期限の長い商品が主だ。
決済を支えるRFIDタグにも課題がある。店員らが一つ一つの商品に貼付する必要がある上、コンビニ商品の大半が低単価であることを考えれば、コスト面でも見合わない。
日本の小売り関係者も無人店舗の普及には懐疑的だ。スマホを使わない生体認証で入店・決済ができるなら、「消費者の負荷は小さい」(業界関係者)との声はある。しかし、個人情報の提供に抵抗を覚える人が多い日本では、導入のハードルは高そうだ。
巨大市場である中国は日系コンビニにとって魅力的な存在だ。ローソンは96年に上海市内で、中国の1号店を出した。現在は江蘇省、浙江省も含む上海エリアで約1000店、中国全域で約1600店を展開する。
日系小売りの進出が遅れていた江蘇省南京市には、17年8月に進出。ローソンとエリアフランチャイズ契約を結ぶ地場の大手小売り、南京中央商場集団股份有限公司の劉梦婕執行総裁は「1年間で100店の出店を見込む」とスピード拡大をアピール。両社は安徽省にも進出する。
中国も大学の近くやオフィスビル内など、立地に合わせて品ぞろえを変えており、そこは日本と共通だ。一方で、高速道路のサービスエリア内店舗では市中より高い価格で販売する商品もあるなど、異なる点もある。
18年5月末には、セブン―イレブンも南京市での出店を始めた。北京、天津、成都でのセブン―イレブンの平均日販は円換算で31万円。地場のコンビニなどと比べ、高水準だ。「中国に合ったフレッシュフードを出している。まだまだ売り上げは上がる」。セブン―イレブン・ジャパンの古屋一樹社長は自信をのぞかせる。
ファミリーマートは5月末時点で、台湾で3205店舗、中国大陸で2339店舗を展開する。現地のパートナーと組んで店舗を増やしており、フランチャイズ比率は台湾で約9割、中国で約6割と高い。
屋台文化を反映し、広いイートインスペースを設置。包子(中華まん)を豊富に扱うなど、どのチェーンも地域に合わせた店づくりを進める。
固定概念捨てる
「我々はハイテク企業。伝統的な小売りに関する固定概念は捨ててほしい」。中国のEC最大手、阿里巴巴(アリババ)集団の広報担当者は同社が手がける生鮮スーパーマーケット「盒馬鮮生(フーマーシェンシャン)」について、こう語る。
同スーパーはアリババが提唱する、オンラインとオフラインを融合した「新小売」の取り組みの一つだ。ECやレストランの機能を組み合わせ、現在、約50店舗を運営する。店内の商品は半径3キロメートルなら、スマホ経由で注文を受けてから30分程度で配達できる。
アピールポイントの一つは「新鮮さ」だ。例えばプライベートブランド「日日鮮」の商品について、上海市内にある店舗の店長は「店頭からは1日で撤去する。常に新鮮な商品を並べる」と説明する。売れ残りの牛乳はEC上で値下げして売り、廃棄ロスを抑える。
さらにいけすにある海産物を調理し、店内で食べられるサービスもある。一方でこの店長は「スーパー運営が目的ではない。店舗を体験してもらうことで、ECにつなげたい」と話す。
中国では顔認証といった人工知能(AI)などの研究が急速に進んでおり、米国を猛追する。「技術自体は日本にもあっても、それを実店舗に用いるのが早い」と、ローソンの竹増貞信社長はスピード感に驚く。
ローソンは都内で、来店者がスマホを使って商品のバーコードを読み取り、オンライン決済サービスの「楽天ペイ」などを使い、セルフ決済する仕組みの実証実験を始めた。
上海市や江蘇省、浙江省のローソン店舗では既に全店で導入済みのシステムだ。竹増社長は「(中国で)先進的なデジタルの取り組みにチャレンジし、日本や世界中に持って行く。そういう役割を担ってもらう」と期待する。
人手不足対応も…
一方、2020年までの中期経営計画の一つに「デジタル化」を掲げるイオン。子会社のイオンディライトは5月末に、AIやIoT(モノのインターネット)を活用した無人化、省人化を研究する企業を上海市内に設けた。協業する深蘭科技(上海市)は生体認証決済などの技術を用いた無人コンビニ「take go」を開発する。
中国での無人コンビニの拡大は、「消費者が“新しモノ好き”」(中国の業界関係者)である点に加え、日本同様、人手不足や人件費高騰に対する危機感が理由だ。
無人コンビニはスマホをかざして入店し、商品に付いている無線識別(RFID)タグをセルフレジなどで読み取り、「支付宝(アリペイ)」といった決済アプリ経由で支払う仕組みが主だ。中国でのスマホ普及も追い風だ。
ただ、無人コンビニの投資の流れは「17年秋以降、パタリと止まった」(業界関係者)。背景にあるのは無人コンビニの“不便さ”だ。スマホがなければ入店や決済ができず、決済アプリを起動する手間などがかかる。店舗に先端技術を導入することが目的化している面もあり、消費者にとって必ずしも親切な仕組みではない。
無人コンビニも完全に無人ではない。品出しや店内調理、消費期限切れ商品の撤去といった作業を、ロボットなどで自動化するのは難しく、コストもかかる。無人化は決済や発注レベルに留まり、実際は“自動販売機”の域を出ない。扱う商品もスナック菓子や缶飲料など、消費期限の長い商品が主だ。
決済を支えるRFIDタグにも課題がある。店員らが一つ一つの商品に貼付する必要がある上、コンビニ商品の大半が低単価であることを考えれば、コスト面でも見合わない。
日本の小売り関係者も無人店舗の普及には懐疑的だ。スマホを使わない生体認証で入店・決済ができるなら、「消費者の負荷は小さい」(業界関係者)との声はある。しかし、個人情報の提供に抵抗を覚える人が多い日本では、導入のハードルは高そうだ。
日本勢、続々と進出
巨大市場である中国は日系コンビニにとって魅力的な存在だ。ローソンは96年に上海市内で、中国の1号店を出した。現在は江蘇省、浙江省も含む上海エリアで約1000店、中国全域で約1600店を展開する。
日系小売りの進出が遅れていた江蘇省南京市には、17年8月に進出。ローソンとエリアフランチャイズ契約を結ぶ地場の大手小売り、南京中央商場集団股份有限公司の劉梦婕執行総裁は「1年間で100店の出店を見込む」とスピード拡大をアピール。両社は安徽省にも進出する。
中国も大学の近くやオフィスビル内など、立地に合わせて品ぞろえを変えており、そこは日本と共通だ。一方で、高速道路のサービスエリア内店舗では市中より高い価格で販売する商品もあるなど、異なる点もある。
18年5月末には、セブン―イレブンも南京市での出店を始めた。北京、天津、成都でのセブン―イレブンの平均日販は円換算で31万円。地場のコンビニなどと比べ、高水準だ。「中国に合ったフレッシュフードを出している。まだまだ売り上げは上がる」。セブン―イレブン・ジャパンの古屋一樹社長は自信をのぞかせる。
ファミリーマートは5月末時点で、台湾で3205店舗、中国大陸で2339店舗を展開する。現地のパートナーと組んで店舗を増やしており、フランチャイズ比率は台湾で約9割、中国で約6割と高い。
屋台文化を反映し、広いイートインスペースを設置。包子(中華まん)を豊富に扱うなど、どのチェーンも地域に合わせた店づくりを進める。
日刊工業新聞2018年6月25日