太陽光やブルーレイも…「NEDOの支援がなければ成り立たなかった」
開発支援製品の累積売上高が50兆円越に
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が開発を支援してきた製品群の累積売上高が50兆円を突破した。太陽光パネルやブルーレイディスクなど、いまでは身近な製品が売り上げをけん引した。NEDOは研究開発の効率を定量評価するため、開発技術の経済効果を調査しており、今の課題は次世代の評価法の確立。近年の開発技術はプラットフォーム(基盤)競争のために技術を無償提供することもあり、多様な成果をいかに計って政策に反映するか模索する。
NEDOは、EBPM(確かな根拠に基づく政策立案)を推進するため、直接的な開発支援が終わった後も成果の実用化動向を追跡調査する。売り上げが大きな製品や省エネ効果の大きな製品などを「NEDOインサイド製品」に選び、売上高や二酸化炭素(CO2)削減効果を集計する。
NEDOは1980年の発足以来、これまで3兆6000億円を技術開発に投じてきた。ここから生まれた成果の累積売上高は16年度までで52兆4800億円。17―26年度の10年分の推計額を合わせれば99兆円に達する見込みだ。
これらの成果は、実用化した企業が「NEDOの支援がなければ製品や技術が成り立たなかった」と認める製品群のみを集計した。NEDO評価部の一色俊之主任は「これでも控えめな数字」と表現する。
早稲田大学研究戦略センターの小林直人副所長・教授は「支援後の産業への効果をきちんと評価できているのは日本ではNEDOだけだ。世界的にも珍しい」と指摘する。
52兆円のうち太陽光発電が17兆9400億円を売り上げた。そのほか、ブルーレイディスクやHDDなどを含むコンピューティング関連製品は15兆4900億円、積層DRAMや窒化ガリウム系発光ダイオード(LED)照明などを含む電子デバイス製品が4兆1800億円、家庭用燃料電池「エネファーム」などのヒートポンプ熱源システム製品が3兆8500億円と続く。
NEDOインサイド製品全体への投資額は7200億円だった。NEDOの研究開発投資は累積3兆6000億円であり、上位20%は72倍の投資効果を達成した計算だ。今後10年でそれが136倍に膨らむ。技術開発と事業化の壁となるいわゆる“死の谷”を越えるための支援が多く、投資効果が大きい。
CO2排出量の削減効果は16年度で年間4700万トン。26年度には9500万トンに増える見込みだ。政府の地球温暖化対策計画の30年度の削減目標である3億2900万トンの約3割にあたる。
一方、足元では人工知能(AI)技術や災害対応ロボットなど、製品売上高だけでは波及効果を計りきれない技術の開発が進む。例えば災害対応ロボは市場自体は小さく、被害の抑制効果を事前に評価することが難しいものの、社会的な価値は極めて高い。公共事業予算と研究開発予算を組み合わせて技術を実証すれば、それぞれの予算の成果と相乗効果を計る必要がある。
またAI技術はITサービスやコンサルティングの一部として使われることもあり、事業化動向を追跡しにくい。さらにプラットフォーム同士の競争が広がる中、個々の機能は無償で提供し、広告などサービスとは違う方法で収益化することもある。
つまり技術開発と売り上げが別の仕組みで動くビジネスが増えたのだ。これまでシンプルだった技術開発と製品販売の実用化モデルから、社会課題解決型ビジネスやプラットフォーム競争などへビジネスモデルが変わってしまった。
早大の鷲津明由教授は「イノベーションは多角的に評価する必要がある。NEDOのような機関が評価システムのフォーマットを決めたり、マネジメントシステムの標準化を進めたりするべきだ」と主張する。
一方、早大の小林副所長は「(NEDOの取り組みは)イノベーション研究の最前線。技術と経済、社会の研究者と連携してモデルを作っていく必要がある」と提案する。
官民で進める経済成長と社会課題の解決の両立を目指す、超スマート社会「ソサエティー5・0」時代にあった評価手法が必要だ。
NEDOの評価部門を担当する渡辺政嘉理事に展望を聞いた。
―調査の意義は。
「研究開発自体は計画と目標を定め、期間内に仕様を満たせば達成できる。ただ企業に技術移転したらそこで終わりではない。実用化の動向やその価値を確かめる必要がある。基礎研究から社会への導入までNEDOの外を含め、イノベーションサイクル全体で考える必要がある」
―売上高以外にも社会的な波及効果は多岐にわたります。
「あらゆるデータがあれば理想だが、調査にもコストがかかる。売上高と省エネ効果の追跡だけでも苦労している。生活の質や社会構造の変革などの評価は現在挑戦している領域だ。NEDOは産業界との距離が近く、追跡調査の回答率が98%と高い。これは海外の投資配分機関からも驚かれる。フランスや欧州連合(EU)が我々の手法を分析して取り入れようと検討している。評価の方法論は広く提供する」
―プラットフォーム競争などでビジネスモデルが変わり、経済効果の評価が難しくなりました。
「プラットフォーム競争は技術の標準化動向を追跡することが一つのベンチマーク。国際標準化機構(ISO)規格など公的に合意された『デジュール標準』と、市場原理できまる『デファクト標準』はともに重要な要素だ。開発技術の影響度を評価できる。ただ、社会構造の変革はまだいい評価法がない。評価自体の費用対効果をみながら、裾野を広げ多角的に評価していくことが重要だ。アカデミアと考えたい」
追跡調査「世界でも珍しい」
NEDOは、EBPM(確かな根拠に基づく政策立案)を推進するため、直接的な開発支援が終わった後も成果の実用化動向を追跡調査する。売り上げが大きな製品や省エネ効果の大きな製品などを「NEDOインサイド製品」に選び、売上高や二酸化炭素(CO2)削減効果を集計する。
NEDOは1980年の発足以来、これまで3兆6000億円を技術開発に投じてきた。ここから生まれた成果の累積売上高は16年度までで52兆4800億円。17―26年度の10年分の推計額を合わせれば99兆円に達する見込みだ。
これらの成果は、実用化した企業が「NEDOの支援がなければ製品や技術が成り立たなかった」と認める製品群のみを集計した。NEDO評価部の一色俊之主任は「これでも控えめな数字」と表現する。
早稲田大学研究戦略センターの小林直人副所長・教授は「支援後の産業への効果をきちんと評価できているのは日本ではNEDOだけだ。世界的にも珍しい」と指摘する。
52兆円のうち太陽光発電が17兆9400億円を売り上げた。そのほか、ブルーレイディスクやHDDなどを含むコンピューティング関連製品は15兆4900億円、積層DRAMや窒化ガリウム系発光ダイオード(LED)照明などを含む電子デバイス製品が4兆1800億円、家庭用燃料電池「エネファーム」などのヒートポンプ熱源システム製品が3兆8500億円と続く。
NEDOインサイド製品全体への投資額は7200億円だった。NEDOの研究開発投資は累積3兆6000億円であり、上位20%は72倍の投資効果を達成した計算だ。今後10年でそれが136倍に膨らむ。技術開発と事業化の壁となるいわゆる“死の谷”を越えるための支援が多く、投資効果が大きい。
CO2排出量の削減効果は16年度で年間4700万トン。26年度には9500万トンに増える見込みだ。政府の地球温暖化対策計画の30年度の削減目標である3億2900万トンの約3割にあたる。
ビジネスモデル変化・多角的評価
一方、足元では人工知能(AI)技術や災害対応ロボットなど、製品売上高だけでは波及効果を計りきれない技術の開発が進む。例えば災害対応ロボは市場自体は小さく、被害の抑制効果を事前に評価することが難しいものの、社会的な価値は極めて高い。公共事業予算と研究開発予算を組み合わせて技術を実証すれば、それぞれの予算の成果と相乗効果を計る必要がある。
またAI技術はITサービスやコンサルティングの一部として使われることもあり、事業化動向を追跡しにくい。さらにプラットフォーム同士の競争が広がる中、個々の機能は無償で提供し、広告などサービスとは違う方法で収益化することもある。
つまり技術開発と売り上げが別の仕組みで動くビジネスが増えたのだ。これまでシンプルだった技術開発と製品販売の実用化モデルから、社会課題解決型ビジネスやプラットフォーム競争などへビジネスモデルが変わってしまった。
早大の鷲津明由教授は「イノベーションは多角的に評価する必要がある。NEDOのような機関が評価システムのフォーマットを決めたり、マネジメントシステムの標準化を進めたりするべきだ」と主張する。
一方、早大の小林副所長は「(NEDOの取り組みは)イノベーション研究の最前線。技術と経済、社会の研究者と連携してモデルを作っていく必要がある」と提案する。
官民で進める経済成長と社会課題の解決の両立を目指す、超スマート社会「ソサエティー5・0」時代にあった評価手法が必要だ。
インタビュー/NEDO理事・渡辺政嘉氏 技術革新の流れ全体を考える
NEDOの評価部門を担当する渡辺政嘉理事に展望を聞いた。
―調査の意義は。
「研究開発自体は計画と目標を定め、期間内に仕様を満たせば達成できる。ただ企業に技術移転したらそこで終わりではない。実用化の動向やその価値を確かめる必要がある。基礎研究から社会への導入までNEDOの外を含め、イノベーションサイクル全体で考える必要がある」
―売上高以外にも社会的な波及効果は多岐にわたります。
「あらゆるデータがあれば理想だが、調査にもコストがかかる。売上高と省エネ効果の追跡だけでも苦労している。生活の質や社会構造の変革などの評価は現在挑戦している領域だ。NEDOは産業界との距離が近く、追跡調査の回答率が98%と高い。これは海外の投資配分機関からも驚かれる。フランスや欧州連合(EU)が我々の手法を分析して取り入れようと検討している。評価の方法論は広く提供する」
―プラットフォーム競争などでビジネスモデルが変わり、経済効果の評価が難しくなりました。
「プラットフォーム競争は技術の標準化動向を追跡することが一つのベンチマーク。国際標準化機構(ISO)規格など公的に合意された『デジュール標準』と、市場原理できまる『デファクト標準』はともに重要な要素だ。開発技術の影響度を評価できる。ただ、社会構造の変革はまだいい評価法がない。評価自体の費用対効果をみながら、裾野を広げ多角的に評価していくことが重要だ。アカデミアと考えたい」
日刊工業新聞2018年6月20日