コスト「半減」は可能?新型ロケット開発が本格化
政府、新型ロケット「H3」の開発進める
開発現場では
2020年度の1号機打ち上げを目指す新型基幹ロケット「H3」の開発作業が、2014年4月から主契約者の三菱重工業で始まった。政府はH3の打ち上げコスト(製造費を含む)を現行のH2Aと比べ半分(約50億円)に抑える方針を掲げており、抜本的な生産革新が期待される。三菱重工は部品点数の大幅削減や汎用部品の多用といった対策を講じ、コストダウンを実現する考え。開発の現場を探った。
「価格ターゲット(目標)が最優先」。三菱重工宇宙事業部の二村幸基技監・技師長は、H3と既存ロケットとの違いをこう語る。1980年代の「H2」以来、約30年ぶりに“フルモデルチェンジ”される日本の基幹ロケットは、性能向上とコスト競争力の強化という二つの使命を負う。
従来は100万円で売っていた自動車を、性能面で進化させつつ50万円で売るようなもの。しかも車と違って量産効果は期待しにくく、相当な市場分析と生産革新が求められる。同社は現在、数十人のメンバーで開発・生産体制を詰めており、来年度以降の本格開発期には数百人体制を敷いてプロジェクトに挑む。
政府はH3の開発に1900億円を投じる。海外に比べ高い打ち上げ費用を下げるため開発段階から民間に主体的に関わってもらう考えで、3月には三菱重工を主契約者に選定。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の要求事項に沿い、三菱重工が機体開発や打ち上げを担う。
コスト削減の目玉は、JAXAを中心に技術実証を進めてきた新型エンジン「LE―X」。従来は推力の問題から第2段エンジンのみに用いられてきた「エキスパンダーブリードサイクル」という方式のエンジンを、H3では大推力が必要な第1段にも適用する。これによって構造の簡素化を実現し、複雑な燃焼サイクルを持つ現行の「LE―7A」と比べ「部品点数を4割削減する」(二村技監・技師長)。
一方、センサー類や電子部品などの分野では、汎用品の適用を増やす。これまでロケット部品は耐久性などの点からほぼ専用部品だったが、H3では「信頼性を確保した上で民間(市場)で流れている量産品を使いたい」(二村技監・技師長)。既に自動車部品メーカーなどとの交流会も始めた。コスト半減に向け、可能な手だてはすべて打つという姿勢だ。
同社はH3の開発を機に、宇宙事業を担う中核人材の育成が図られるメリットも強調する。H2に関わった技術者は50代中盤に差しかかり、現場の多くはロケット開発を知らない世代。技術力の低下を危惧する声は業界全体に広くある。
二村技監・技師長は、「若い技術者には“ノウホワイ教育”(理由を伝える教育)を重視している。これまでの知見を理解しつつ、どんどん新しい技術に挑戦してほしい」と話す。国際競争力を持つ新型ロケットの実現に向けては、何よりも市場ニーズにマッチした製品に仕上げる人材が求められそうだ。
(肩書きは取材当時)
日刊工業新聞 2015年07月09日、06月25日、04月17日、2014年06月30日付の記事を再編集