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船舶用大型ディーゼルエンジン、VWが分離検討でやきもき日本メーカー

三井E&Sとのライセンス契約どうなる?
船舶用大型ディーゼルエンジン、VWが分離検討でやきもき日本メーカー

三井E&Sの玉野事業所で製造する舶用大型ディーゼルエンジン

フォルクスワーゲン(VW)による事業ポートフォリオ改革の行方を三井E&Sホールディングス(旧三井造船)が注視している。4月に就任したVWのヘルベルト・ディース社長がグループのMANディーゼル&ターボ(MDT)のスピンオフ(分離・独立)に言及したためだ。MDTは船舶用大型ディーゼルエンジンで世界最大のライセンサー。中国企業などに買収され、三井E&Sとのライセンス契約が見直されると事業に影響を及ぼしかねない。

 「今は静観するしかない」。三井E&Sグループで船舶用ディーゼルエンジンを手がける三井E&Sマシナリー(東京都中央区)の田中一郎取締役執行役員ディーゼル事業部長は話す。

 国内の舶用ディーゼルエンジン市場で約6割のシェアを握る三井E&S。デンマーク・B&W(現MDT)と技術提携して以来、ライセンシーとして約90年の歴史を持つ。2017年度には同じくライセンシーの韓国・現代重工業をかわし、数十年ぶりに生産量で世界首位へ返り咲いた模様だ。

 日本、韓国、中国などのライセンシーがMDTやスイスのウインターツール・ガス・アンド・ディーゼル(WinGD、旧バルチラ)などとの契約に基づき市場を棲(す)み分けてきた舶用ディーゼルエンジン業界。国内では三井E&Sを筆頭に日立造船、川崎重工業がMANのライセンスを保有し、エンジンを製造する。

 三井E&SとMDTのライセンス契約は21年12月まで。更新時期が迫る中、今回の問題はエンジン事業にとっての大きな変数になりかねない。

 MANに次ぐライセンサーだったバルチラは15年に舶用低速エンジン事業を中国船舶工業集団公司(CSSC)との合弁会社WinGDに継承。その後、残りの持ち株もCSSCに譲渡した。

 現状、WinGDは巨大造船グループを株主に迎えた事で研究開発の自由度が増し、競争力が高まっている。IHIグループの船舶用エンジンメーカー、ディーゼル・ユナイテッド(DU、東京都千代田区)とのライセンス契約にも特段の変更はない模様だ。

 競争法上、二大ブランドを中国企業が抑えるのは難しいと見られるが、その行方は分からない。造船関係者も「VWがMDT株を持ち続ける現状維持が望ましい」(造船関係者)と漏らす。

 船舶用エンジン(主機関)は船価の約1割を占める。中国や韓国のエンジンメーカーとの競争はないが、造船所からの価格圧力を受けやすい。折しも新造船業界は船価低迷が長期化し、巨額損失に苦しむ国内造船大手は身動きが取りにくい。必然とエンジン需要も縮小する。我慢が続く中、霧の晴れない状況が続く。
(文=鈴木真央)
               

日刊工業新聞2018年6月4日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
三井E&Sは硫黄酸化物(SOx)規制強化に対応した液化天然ガス(LNG)燃料エンジンなど環境技術で差別化を図り、利益率の高いアフターサービス事業を強化する。工場では1割以上の生産性改善を目指し、プロセス改革も進める。 (日刊工業新聞・鈴木真央)

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