揺れる東芝「第三の柱・ヘルスケア」アドバルーンの着地点
田中社長肝いり。M&A難しく2017年度売上高1兆円の目標は遠のく
世界3強入り目指し分散していた研究開発拠点を集約
東芝は14年末にヘルスケア分野の研究開発拠点「ヘルスケア開発センター」(川崎市幸区)を開設した。同センターで磁気共鳴断層撮影装置(MRI)や超音波画像診断装置、ウエアラブルセンシング技術、ビッグデータ解析技術など次世代製品・技術を開発する。東芝のヘルスケア部門の売上高は約4000億円で、現在は東芝メディカルシステムズ(栃木県大田原市)が手がける画像診断機器がその過半を占めている。
特にコンピューター断層撮影装置(CT)は患者への被ばくを低減させる技術が世界の医療現場から評価され販売台数が拡大して、世界シェアは2位に高まった。画像診断機器市場で世界3強(米GE、独シーメンス、蘭フィリップス)に食い込むには、「さらにMRIと超音波の開発を強化することが必要」(綱川智東芝ヘルスケア社社長)であり、これまで国内に分散していた研究開発人員約120人を同センターに結集させた。
超音波画像診断装置や磁気共鳴断層撮影装置(MRI)、ウエアラブルセンシング技術、医療データ解析などテーマごとにプロジェクトを立ち上げ、2年以内に市場投入が見込める製品・技術を研究開発する。同センター開設とともに研究開発投資も今後拡大する。開所式で田中久雄社長は「研究開発費は2016年度に14年度比3割増の500億円に高める」と語った。研究開発人員もグローバルで現在の3000人から3800人に増員する。
<新興国を深耕>
東芝メディカルシステムズは国内外で生産体制を強化。中国やブラジルで現地向けCTを生産するほか、新設したマレーシア工場では1月から超音波画像診断装置の生産が本格的に始まる。国内の本社・那須事業所は画像診断機器のマザー工場として機能させる。那須事業所では国内の医療機関が使用していたCTを再生し、新興国に投入するCTリサイクル事業といった新しい取り組みも始めている。
交換が必要なパーツを新品と取り換え、メーカー品質保証を付与した再生品として出荷。日本で再生産したハイエンド機種を低価格で提供し、CTの新規ユーザーを新興国で広げていく。
(2014年12月18日/2015年01月01日付を一部修正)
ウエアラブル生体センサーの活用進む。ストレス診断支援サービスを実証へ
東芝はウエアラブル型生体センサーを活用したストレス診断支援サービスを開発する。10月から住宅や職場、医療機関などで実証試験を始め、同センサーの有効性などを確かめる。6月成立の改正労働安全衛生法により各事業所にはストレスチェックが原則義務化されており、大企業を中心にメンタルヘルス対策が急務となっている。今後2年間の実証を通じて、本格的な事業化を目指す。
東芝は開発したウエアラブル生体センサー「シルミー」を用いて職場のストレス検査での有効性を評価する実証試験を行う。具体的には都市生活や森林浴環境など条件の異なる環境を設定。同センサーで取得した自律神経バランスの数値と他の生理データ、アンケートの相関関係を調べる。それらの試験で得られた知見を商品開発に生かす。
用途開発として薬局での健康支援サービスを想定した実証も行う。睡眠障害や更年期障害の患者へ同センサーを貸し出し、薬局において睡眠の質の改善などの指導に役立てられるか検討する。
また、心臓手術を受けた患者のリハビリにも活用する。病院の助言を基に、自宅で患者本人がデータを確認しながら適切なリハビリを行えるサービスの可能性を探る。
東芝は今回、約300台のセンサーを用意する予定。ソフトバンクテレコム(東京都港区)が実証試験に参加し、スマートフォンを活用したデータ集計やグラフ化などで連携する。医療関係のベンチャー企業なども加わるほか、国公立・私立の大学とも実際の試験実施・評価で協力する。
実証試験は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業として約2億円の支援を受ける。そのため、各用途で共通するデータ仕様などを標準化し、試験後に公表する予定だ。
東芝はヘルスケア事業を成長戦略の柱に位置づけている。2016年度の売上高を13年度比75%増の7200億円に引き上げる目標を掲げる。健康支援サービスや重粒子線がん治療システムなど新規事業に取り組む。(2014年09月29日付)