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ものづくり白書が警笛ならす。製造業の経営層、意識変革“待ったなし”

抜本的な変化の本質に気づいていない、このままでは将来の致命傷に
ものづくり白書が警笛ならす。製造業の経営層、意識変革“待ったなし”

(写真はイメージ=PIXTA)

 製造業の共通命題は経営力強化―。政府が5月29日に閣議決定した2018年版ものづくり白書には、そんな強いメッセージが込められた。人手不足、第4次産業革命、そして品質保証体制の確立など、迫り来る課題に対応するには、トップ主導の素早く大胆な変革が必要だ。伝統的に現場力が強みの日本の製造業だが、新たな課題が次々と現れる中、経営層の意識変革も求められている。

 18年版の白書は、経営主導による変革の必要性を強く訴える。製造業をめぐるさまざまな課題が“待ったなし”となり、迅速な対応が求められているからだ。

 例えば人手不足。経済産業省が17年12月に実施したアンケートでは、回答企業の90%超が「人手不足を認識している」と答えた。16年12月の調査から10ポイント以上伸び、深刻さが増している。

 IoT(モノのインターネット)といった第4次産業革命の流れに対応するため、デジタル化の推進も大きな課題だ。海外では「インダストリー4・0(I4・0)」を掲げるドイツを中心に、デジタル技術を用いたビジネス革新が進展する。モノづくりのあり方がグローバル化の進展によって急速に変わりつつある中、中小企業を含む国内製造業全体が、環境変化に向き合う必要がある。

 ただ、白書ではこうした諸課題について、国内の経営層が正しく認識できていない恐れを指摘。「抜本的な変化の本質に気づいていない、あるいは気づかずに目を背けてしまう」としたうえで、「このままでは将来の致命傷となりかねない」と警鐘を鳴らす。

 日本の製造業はこれまで、現場主導のボトムアップ型で発展してきた。だが環境変化はかつてないほど速く、ボトムアップだけではスピード面などで限界に直面している。
 
 さらに、神戸製鋼所の不正に代表される品質保証問題でも、現場至上主義の弊害が露呈した。現場でのデータ改ざんに対し、トップによるチェックは機能しなかった。

 経産省は製造データを利用したトレーサビリティー(生産履歴管理)システムなど、「うそのつけない仕組み」(世耕弘成経産相)をトップ主導で構築することを企業に求める。

経済産業省製造産業局長・多田明弘氏「“新しい現場力”身につけよ」


 かつてない力強いメッセージを盛り込んだ18年版ものづくり白書。経産省の多田明弘製造産業局長に思いを聞いた。

 ―18年版白書のポイントは。
 「総論を初めて設け、製造業に関する“四つの危機感”を記した。製造業は企業業績が好調な一方、人手不足など深刻な課題も少なくない。すぐ手を打たないと競争力に悪影響が出る。こうした問題を正面から指摘した。後ろ向きな意味ではなく、経営者の判断で素早く対応すればうまくいくという、日本のモノづくりへの期待を込めた」

 ―経営主導の対応を求めています。
 「有事はトップの大胆な判断が必要だ。そして製造業は、今まさに有事に直面する。多くの経営者が深刻さを理解していると思うが、もしそうでない人がいたら、今回の白書を読んでほしい。危機を認識する経営者も大部分が悩む。そのような経営トップの行動を促す政策を展開したい」

 ―特に期待することは。
 「“新しい現場力”を身につけてほしい。日本が誇る従来の現場力は、課題が設けられていればすごい成果を生む半面、課題の設定は苦手だ。課題設定力を高めるため、人材育成が重要になる」

 ―モノづくりはグローバルで急速に変化しています。
 「3Dプリンターを手がけるシリコンバレー発ベンチャーのカーボンには驚かされた。1種類の製品を1000個作るのと、1000種類を1000個作るのがほぼ同じ時間とコストで実現する。ソフトウエアの重要性が高まり、生産管理など従来の製造業の前提が覆されてもおかしくない」
経済産業省製造産業局長・多田明弘氏
日刊工業新聞2018年5月30日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
 足元で製造業の業況は悪くない。ただ人手不足や品質保証の強化をはじめ、迫り来る課題は避けようがなく、スピード感を伴った取り組みが急務と言える。「今こそ、経営主導で、対応を」―。これが、18年版ものづくり白書の提言だ。 (日刊工業新聞社・藤崎竜介)

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