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宮城発、一粒1000円のイチゴを世界に売り込め!

「食料品製造」立県の挑戦
宮城発、一粒1000円のイチゴを世界に売り込め!

GRAはIT機器を利用して自社ブランドのイチゴを栽培する

 豊かな自然に囲まれ、海や山の食材に恵まれた宮城県。東日本大震災で被災した農家や食料品製造業の中にも新たな販路として国外に目を向ける企業や、自社製品のブランド化に取り組む企業が出てきた。世界の市場にいかに地域産品を売り込み、アピールしていくか。各企業が知恵を絞っている。

 経済産業省の工業統計調査によると、宮城県は食料品製造業の事業所と従業員が全24業種中最も多い。県は県産品の輸出拡大に向け、2017年に「宮城県農林水産物等輸出促進戦略」を策定。生産量やシェアなど国内で競争力の高い水産物、コメ、牛肉、イチゴの4品目を輸出基幹品目に設定した。輸出先は香港や台湾、シンガポールなどで、国や地域を絞って支援している。

IT農業で起業


 県南部に位置する山元町は、県内有数のイチゴの産地。震災の津波で大部分のビニールハウスが流される被害を受けた。農業生産法人を立ち上げたGRA(山元町)の岩佐大輝社長は「地域の人が誇りに思っているイチゴ作りで地元に雇用を生み出したい」との思いから、12年に地元農家と共同で起業した。

 同社が栽培、販売する「ミガキイチゴ」は、高いものでは一粒1000円の値が付くこともある。農家の勘と経験をベースに、IT機器でハウス内の環境を制御したスマート農業を導入し、ブランド確立に必要な品質の安定化を可能にしている。香港や台湾、タイなどに輸出するほか、再現度の高さを生かした新規就農者支援にも取り組んでいる。

BツーCに挑戦


 高級食材のイメージのあるカニ。業務用水産加工品を手がけるカネダイ(気仙沼市)は、震災後に需要拡大を狙い、BツーC(対消費者)事業を始めた。「かに物語」の名称で、カニ爪やむき身、パック入りカレーやパスタソースなど一般家庭で気軽に食べられる商品を展開する。自社店舗や電子商取引(EC)、百貨店などを通じて全国販売している。

 被災後は仮工場で操業していたが、17年に新本社工場を稼働。古くから中国に進出しており、「現在2割の海外比率をさらに引き上げたい」と佐藤亮輔社長は意欲を示す。

宅配感覚目指す


 ヤマナカ(石巻市)や菓匠三全(仙台市青葉区)など東北地域の食品関連企業は、仙台国際空港を拠点とする食品輸出に取り組む。販路開拓、輸出業務の代行、代金決済などを一括して手がけ、中小企業の海外輸出のハードルを下げることに一役買っている。「東北の食材を簡単に宅配感覚で世界に届ける仕組みを作る」と高田慎司ヤマナカ社長は話す。
宮城県は県産食材の海外輸出を支援する(昨年のシンガポールでの商談会)
日刊工業新聞2018年5月4日
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
宮城県では人手不足に加え、首都圏などへの人口流出が深刻な問題となっている。還流を促すには若者が働きたいと思えるような魅力的な産業を地域に根付かせる必要がある。人々の生活に根ざした食産業が地方創生の起爆剤となることを期待したい。 (日刊工業新聞社仙台支局・苦瓜朋子)

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