昆虫写真家はなぜチョウの生き方に惹かれたのか
「まね」で生き物は進化する/虫の声を聞け!(3)海野和男さん
虫の生き方や行動を観察するのは学者や研究者だけではない。ファインダー越しに覗くからこそ見えてくる世界がある。〝虫の目〟を持つ識者4人に聞くインタビューシリーズ。第3回目は昆虫写真家の海野和男さん。
―昆虫が他の種や植物などに格好を似せる「擬態」の撮影をライフワークにされていますね。
「昆虫の擬態はすべてひかれる。その中でもカマキリの擬態は面白い。枯れ葉に似て捕食者から隠れたり、花に似てチョウや蜂を呼び寄せて食べたりする。擬態がどのように生じたかは不思議で解明されていないが、擬態したことで生存競争において大幅に有利になった。『まね』という行為は生き物が進化する方向性の一つとして遺伝子に組み込まれているのではないかと思う」
―人間の世界に通じる部分はありますか。
「マネをして進化するという意味ではモノ作りの世界も同じでしょう。(優れた製品や自然界のモノの)まねをしてそれに改良などを加えて新しいものを生み出している。それに人間自身もまねをして環境に溶け込もうとする。例えば、軍隊が身につける迷彩服はジャングルなどで自分を目立たなくして生き残るための知恵だ」
―もっと擬態に学ぶべきだと感じる仕事はありますか。
「優秀な人などのまねをして学ぶことはどんな仕事も重要でしょう。その中でも私は投資商品のセールスマンは擬態を勉強すべきだと思う。営業の電話をよく受けるが、声や話し方が皆同じで(すぐに営業だと気づき)切りたくなる。営業相手に気に入られるような人の声や話し方を研究して擬態すればもっと商品が売れるかもしれない」
―社会人のスーツ姿は働く環境などに溶け込む擬態のようにも感じるのですが、ベンチャー企業などでラフな格好をする人も増えています。これは進化でしょうか、突然変異でしょうか。
「社会において新しいスタンダードになったということは進化の形だろう。昆虫の世界でも仲間と違った形で生まれたら攻撃されてしまうが、それが強ければ新たな種として残る。昆虫はそのように種を増やし、多様性を広げることで繁栄してきた」
―昆虫は世界で1000万種いるとも言われますが、なぜ「多様性」がなりたっているのでしょうか。
「小さいからだ。私たちには見えない環境の違いを区別して狭い範囲で住み分けることで種を増やしてきたのだろう。寿命が短いということも背景にあるのかもしれない。ただ、人間も顔や形はあまり変わらないが、脳が発達して考え方を多様化することで進化してきたと思う。それに多様な考えを持つ人たちが共存している社会こそが健全だ」
―多様性はなぜ重要なのでしょうか。
「単純に種類が多くなれば、環境が大きく変化してもすべてが一度に駄目になることはないし、新たなリーダーが生まれる可能性も高くなる。これは昆虫の世界も人間の社会や企業組織も同じでしょう。昆虫写真家の世界もそうだ。最近は皆が身近な昆虫の写真を撮って同じ市場を食い合ってしまっている。海外にも積極的に出て昆虫写真の多様性を広げることで私たちの業界も発展できると思うのだが」
―擬態の様子などを見ると昆虫の環境に適応する力を感じます。
「昆虫は環境を変えられないので置かれた環境に対応して一生懸命進化してきた。それに比べると、日本の企業は環境が変わっても古い体質を捨てて新しいモノを生み出すという作業が遅すぎるように感じてしまう」
―海野さんが運営するウェブサイト「小諸日記」ではチョウの写真を毎日紹介されていますね。
「撮影したい昆虫はまだまだたくさんいるが、私もだいぶ年を重ねたので今は原点に回帰して自分の好きなチョウを攻めている。2017年10月からチョウの撮影を主目的として毎月1度海外に出ている。チョウは子どもの頃から好きだった。見た目はきれいだし、単独で生きていて憧れを感じている。周囲(の環境)との関わりはあるけれど自由そうでいいなぁと。私は企業に所属して働きたくないし、働いたことがないので共感する。それにチョウの行動は人間に似たところもあって親近感がわく」
―どんなところが人間と似ていますか。
「普段は単独で行動しているのに、一匹のチョウが水を飲むために水辺に止まると他のチョウも集まる。私たちもレストランに行くとき、誰も客が居なければ入るのをちゅうちょし、適度に混んでいれば入るでしょ。それと同じで普段は個で動いていてもやっぱり同じ仲間とつるむと安心するし、仲間がいないと生きていけないのが生き物のかなと」
―海野さんもつるみますか。
「私自身はつるむのは好きではないと思っている。ただ、日本自然科学写真協会の会長を務めていて、その集まりの時などに私がいると、昆虫写真家たちが集まってくる。だからつるむと言えばつるんでいるのかもしれないね」
「まね」は遺伝子に組み込まれている
―昆虫が他の種や植物などに格好を似せる「擬態」の撮影をライフワークにされていますね。
「昆虫の擬態はすべてひかれる。その中でもカマキリの擬態は面白い。枯れ葉に似て捕食者から隠れたり、花に似てチョウや蜂を呼び寄せて食べたりする。擬態がどのように生じたかは不思議で解明されていないが、擬態したことで生存競争において大幅に有利になった。『まね』という行為は生き物が進化する方向性の一つとして遺伝子に組み込まれているのではないかと思う」
―人間の世界に通じる部分はありますか。
「マネをして進化するという意味ではモノ作りの世界も同じでしょう。(優れた製品や自然界のモノの)まねをしてそれに改良などを加えて新しいものを生み出している。それに人間自身もまねをして環境に溶け込もうとする。例えば、軍隊が身につける迷彩服はジャングルなどで自分を目立たなくして生き残るための知恵だ」
―もっと擬態に学ぶべきだと感じる仕事はありますか。
「優秀な人などのまねをして学ぶことはどんな仕事も重要でしょう。その中でも私は投資商品のセールスマンは擬態を勉強すべきだと思う。営業の電話をよく受けるが、声や話し方が皆同じで(すぐに営業だと気づき)切りたくなる。営業相手に気に入られるような人の声や話し方を研究して擬態すればもっと商品が売れるかもしれない」
ベンチャーは進化の形
―社会人のスーツ姿は働く環境などに溶け込む擬態のようにも感じるのですが、ベンチャー企業などでラフな格好をする人も増えています。これは進化でしょうか、突然変異でしょうか。
「社会において新しいスタンダードになったということは進化の形だろう。昆虫の世界でも仲間と違った形で生まれたら攻撃されてしまうが、それが強ければ新たな種として残る。昆虫はそのように種を増やし、多様性を広げることで繁栄してきた」
―昆虫は世界で1000万種いるとも言われますが、なぜ「多様性」がなりたっているのでしょうか。
「小さいからだ。私たちには見えない環境の違いを区別して狭い範囲で住み分けることで種を増やしてきたのだろう。寿命が短いということも背景にあるのかもしれない。ただ、人間も顔や形はあまり変わらないが、脳が発達して考え方を多様化することで進化してきたと思う。それに多様な考えを持つ人たちが共存している社会こそが健全だ」
多様性こそ発展の源
―多様性はなぜ重要なのでしょうか。
「単純に種類が多くなれば、環境が大きく変化してもすべてが一度に駄目になることはないし、新たなリーダーが生まれる可能性も高くなる。これは昆虫の世界も人間の社会や企業組織も同じでしょう。昆虫写真家の世界もそうだ。最近は皆が身近な昆虫の写真を撮って同じ市場を食い合ってしまっている。海外にも積極的に出て昆虫写真の多様性を広げることで私たちの業界も発展できると思うのだが」
―擬態の様子などを見ると昆虫の環境に適応する力を感じます。
「昆虫は環境を変えられないので置かれた環境に対応して一生懸命進化してきた。それに比べると、日本の企業は環境が変わっても古い体質を捨てて新しいモノを生み出すという作業が遅すぎるように感じてしまう」
自由なチョウに憧れ
―海野さんが運営するウェブサイト「小諸日記」ではチョウの写真を毎日紹介されていますね。
「撮影したい昆虫はまだまだたくさんいるが、私もだいぶ年を重ねたので今は原点に回帰して自分の好きなチョウを攻めている。2017年10月からチョウの撮影を主目的として毎月1度海外に出ている。チョウは子どもの頃から好きだった。見た目はきれいだし、単独で生きていて憧れを感じている。周囲(の環境)との関わりはあるけれど自由そうでいいなぁと。私は企業に所属して働きたくないし、働いたことがないので共感する。それにチョウの行動は人間に似たところもあって親近感がわく」
―どんなところが人間と似ていますか。
「普段は単独で行動しているのに、一匹のチョウが水を飲むために水辺に止まると他のチョウも集まる。私たちもレストランに行くとき、誰も客が居なければ入るのをちゅうちょし、適度に混んでいれば入るでしょ。それと同じで普段は個で動いていてもやっぱり同じ仲間とつるむと安心するし、仲間がいないと生きていけないのが生き物のかなと」
―海野さんもつるみますか。
「私自身はつるむのは好きではないと思っている。ただ、日本自然科学写真協会の会長を務めていて、その集まりの時などに私がいると、昆虫写真家たちが集まってくる。だからつるむと言えばつるんでいるのかもしれないね」
【略歴】うんの・かずお 1947年東京都生まれ。東京農工大学の日高敏隆研究室で昆虫行動学を学び、フリーの昆虫写真家に。主な活動拠点は長野県小諸市とマレーシア。特に擬態に興味を持ち、長年撮影している。99年からデジタルカメラで撮影した昆虫写真を発表する「小諸日記」をはじめ、現在まで毎日更新を続けている。写真集「昆虫の擬態」で94年日本写真協会賞を受賞。子ども向けの書籍を中心に150冊以上の著作がある。日本自然科学写真協会会長。
日刊工業新聞2018年5月4日