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ゴミ処理場が化石資源に代わる原料供給基地に?

積水化学、ゴミからエタノールを大量生産する技術開発
ゴミ処理場が化石資源に代わる原料供給基地に?

ゴミ由来ガスからエタノールを製造する設備

積水化学工業は微生物を使い、ゴミからエタノールを大量生産する技術を開発した。実際のゴミ処理場でエタノールを安定製造できることを実証済みで、2019年度に商業化する。エタノールはプラスチックの原料にできる。ゴミ処理場を化石資源に代わる原料供給基地に変える可能性があり、自治体から関心が集まっている。

 オリックス資源循環(東京都港区)の廃棄物処理工場(埼玉県寄居町)で14年から積水化学のエタノール製造設備が稼働している。3階建ての建物の高さほどまで配管が伸びた設備は、実証機とは思えないほど大きい。

 オリックス資源循環は企業や家庭から集めた廃棄物をガス化処理している。樹脂、紙、木、繊維、食品などさまざまな廃棄物を高温で蒸してガスを取り出す。

 積水化学の設備はガスの一部を供給してもらっている。ガスの成分は一酸化炭素(CO)と水素。設備内に生息する微生物がCOと水素をエサとして取り込み、代謝物として排出したエタノールを回収する。

 微生物は米ベンチャーのランザテックが開発した。積水化学は優れた微生物の選別を繰り返し、一般的な微生物と比べて10倍以上にエタノールの生産速度を高めた。反応を促進する加熱や加圧が不要となり、運転費を抑えられる。積水化学の岩佐航一郎BRプロジェクトヘッドは「エタノールの製造コストにとって非常に重要なポイント」と強調する。

 他にも技術革新があった。廃棄物を分別せずに処理するためガスの品質は一定せず、微生物の活動を弱める400種の物資が混ざっている。積水化学は素早く物質を除去し、微生物が好むガスに精製する技術を開発した。ゴミを分別せずにエタノール化できる世界初の技術という。

 ガス供給量の変動への追随も課題だった。ゴミ処理量が減り、ガスが減少すると微生物が死滅する。対策として、ガス供給が途絶えると微生物を仮死状態にする管理手法を確立した。ガス供給が始まると微生物は活動を再開する。

 エタノールはエチレンに変換するとプラスチック原料になる。ゴミのエタノール化は「化石資源に頼らない究極の資源循環社会の創生」(岩佐ヘッド)と力説する。

 積水化学は19年度に第1号プラントを商業化後、年2―4基を普及させる計画。全国にある1200カ所のゴミ処理場の1割にガス化設備がある。自治体にはエタノールの販売が収入となり、廃棄物処理の負担を軽くできる。3月末までに20の自治体が実証機の見学に訪れたという。
(文・松木喬)
エタノール生産速度の速い微生物(左)とエタノール
日刊工業新聞者2018年4月23日
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
同社はゴミを「都市油田」と言っていました。ゴミは毎日ゴミ処理場に持ち込まれます。つまりエタノールの原料を安定調達できます。食品、繊維、樹脂、紙などが混ざったままエタノール化できるので、分別の手間がかかりません。既存のガス化炉にプラントを併設できるので初期費用も抑えられそうです。日本のゴミ処理場35基にプラントを設置するとエタノールの年間需要を満たせるそうです。

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