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揺れる東芝「屋台骨・半導体」は大丈夫か

大幅下方修正で財務基盤が悪化!?NANDフラッシュの世界一戦略に影響も
揺れる東芝「屋台骨・半導体」は大丈夫か

新製造棟では最先端のフラッシュメモリーが量産される(第5製造棟クリーンルーム)


微細化で先行、首位サムスンと天王山の戦いへ


 今後、東芝とサムスンの技術開発に対するアプローチの違いが、どのように影響するかも注目される。東芝は性能向上のため微細化を先行。4月に業界最先端の15ナノメートルの量産を始め、第5製造棟の2期工事分でも手がける。一方のサムスンは記憶素子を垂直に積載する3次元(3D)構造技術を優先し、13年8月に量産を始めた。

 3Dは微細化に代わる新技術で、記憶容量を大幅に増やせる。ただ「まだ進化過程。サムスンの製品は既存の平面技術と性能は変わらず、コスト高になっている」(東芝幹部)と言われる。東芝は建て替え後の新第2製造棟で、3D構造のNANDフラッシュの本格量産に16年度に乗り出す。それまでに生産技術を磨き上げ、スタートからサムスンをしのぐ競争力の高い製品の投入を目指す。

 米調査会社のIHSグローバルによると13年のNANDフラッシュの世界シェアはサムスンが34・7%、東芝は32・2%の僅差。サムスンも13年に中国で初の半導体工場を稼働させ、能力を増強したばかり。NANDフラッシュのトップ争いは天王山を迎える。
 
 【SSD向け競争激化】
 何が勝負を分けるのか。足元で伸びるスマホ向け需要を確実に取り込むことに加え、中長期的には記憶装置のSSD(ソリッドステートドライブ)分野の需要開拓の巧拙がポイントになる。SSDはデータ処理能力が速いほか、省エネ性に優れるなどの特徴を持ち、ハードディスク駆動装置(HDD)から置き換わる形で急成長している。

 SSDの用途はノートパソコンと、法人のDCサーバーに大別される。ビッグデータビジネスの拡大でDC需要は急増する見通しで、SSDの供給先としてもDC向けの伸びが期待される。東芝社内でもDC向けビジネスを狙えと大号令がかかっている。

 ただ、もともと東芝のストレージ(記憶装置)事業はパソコン向けが主体で法人向けは弱い。ライバルのサムスンもDC向けで「今後、普及が加速する」(金彦洙(キム・オンス)専務)とみて攻勢を強めている。東芝が、DC向けSSDで主導権を握るのは容易ではない。

 勝機はある。DCと一括りに言っても取り扱うデータは多様。システム構築には柔軟性が求められる。その点、東芝はNANDフラッシュのチップからSSD、HDDまでのフルラインアップを自前で揃えられるため、「顧客ニーズに適した幅広いシステムを提案できる」(佐藤裕之ストレージプロダクツ事業部事業部長)のが強みだ。

 「デバイスに関する知識・ノウハウにたけた人材は豊富。今後はシステムに詳しい人材を中途採用する」と成毛康雄執行役専務セミコンダクター&ストレージ社社長は体制強化を急ぐ。個別の製品の開発に満足せず、NANDフラッシュやSSDを融合した先端システムにより、ビッグデータビジネスの可能性を広げる提案ができれば、東芝がトップに立つ可能性は高まる。
 
 
 <田中社長「市場見極め増産対応」=四日市工場で9月9日に開いた記者会見>
 ―第5製造棟の2期工事分の稼働と第2製造棟のリニューアルは、競争力を高めるうえでどういう意味がありますか。
 「2期工事分で回路線幅15ナノメートルの世界最先端の製品を量産する。微細化で生産数量は増える。ただ増産ありきでなく、市場動向を見極めながら数量を増やしていく。建て替え後の新第2製造棟では、高い性能と生産効率を実現した3D構造NANDフラッシュを生産し世界をリードする」

 ―サムスンは先行して3D構造のNANDフラッシュの量産を始めた。どうみてますか。
 「平面構造の15ナノメートル製品と3D製品を比べた場合、当社は15ナノメートル製品の方が競争力が高いと考えている。3D製品の記憶素子を積む段数が現行レベルのうちは、性能面でもコスト面でも優位性を保てる」

 ―東芝グループにとっての半導体事業の位置付けは。
 「売り上げ規模、利益ともに当社を大きく支える事業でグループ内で非常に重要だ。NANDフラッシュはDCや大型サーバー向けに需要がまだ伸びる見通しで、成長を継続できる」

 ―為替の円安が進んでいます。影響は。
 「半導体事業だけでなく東芝全体に、円安はプラスの影響がある。しかし中長期的にみれば原材料価格上昇などのデメリットもある。急激に進まないでほしい」
 (文=後藤信之)
日刊工業新聞社2014年09月10日深層断面に加筆
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
東芝社内では収益変動の大きい半導体事業について、特にインフラ部門などからは格下扱いされていた。実際、過去にどんなに利益を出そうが半導体部門から社長が起用されていない。それでも収益面で「一本足」に近づきつつあり、田中社長の次こそはという声も多かった。今回、半導体も調査対象になり、人事でもどのような影響が出るか。

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