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初の『スマートファクトリーAWARD』に選ばれた企業とは?

旭酒造など6件
 日刊工業新聞社とモノづくり日本会議は、「スマートファクトリーAWARD2018」に6件を選定した。生産管理や製造現場の先進化・効率化で優れた事例を表彰する賞で、今回が初めて。5月30日に東京・有明の東京ビッグサイトで表彰式を行う。

 選定されたのは旭酒造(山口県岩国市)、旭鉄工/アイスマートテクノロジーズ(愛知県碧南市)、ジェイテクト、武州工業(東京都青梅市)、ブリヂストン、YKK。いずれもIoT(モノのインターネット)を活用し、先進的な現場を作り上げた。

 日本酒「獺祭」を手がける旭酒造は、酒に関わる要素を見える化し、人と設備やデータが協調しておいしさを向上する取り組みを展開。自動車部品メーカーの旭鉄工と武州工業はそれぞれ自社の生産改善にIoTを役立てたほか、システムを外販した点も評価された。

 表彰式は「スマートファクトリーJapan2018(会期:5月30日-6月1日)」の会場で実施する。表彰された企業によるトークセッションなども企画している。また、表彰式に先立ち、NEDOアドバイザー/東京大学政策ビジョン研究センターシニアリサーチャーの小川 紘一氏による「IoT時代の日本企業が目指すべき方向」と題した記念講演も開催される。

大手も中小もオリジナリティー競う


 自社の工場を自前でIoT(モノのインターネット)化する企業が増えてきた。大手と中小で2つの先進事例を紹介する。

 YKKは世界各地のファスナー生産工場の稼働データを集約・蓄積し、活用する「YKK IoTモデル」の構築を進めている。総生産の約8割を占める12の工場で工場全体や生産ライン、設備の稼働データを収集し、見える化する仕組みを導入。自前で生産設備を開発している強みを生かし、通常のメーカーでは取得が難しいような詳細なデータも集め、製造コストの削減や生産設備の改善・改良、保守部品の安定供給に役立てる。

 YKKの競争力の源泉は「一貫生産思想」への徹底したこだわりにある。生産設備や金型、材料を自前で開発し、日本から世界中に供給することで、どこでも同じ品質で製品・サービスを提供することを可能にしている。

 現在は富山県黒部市を本拠地とする工機技術本部が生産設備などの開発・供給を担い、ファスニング事業とAP(アーキテクチュラル・プロダクツ=建材)事業を支えている。大谷渡副社長・事業競争力強化担当は「従来からの勘と経験にデータ、原理原則を加えて、一貫生産思想を進化させる」とIoTモデルの意義を説明する。

生産設備も内製


 一般的に、生産設備を開発するメーカーが納入先から生産設備の詳細な稼働データを収集するには、機密の壁が立ちはだかる。YKKの場合は生産設備と最終製品を同じ社内で作っているため、必要なデータを得やすい。

 ただ、YKKはグループ内の海外会社・工場に独立独歩の気風が強い。これまでも各工場でデータを収集し、分析してきた例はあるものの、データの取り方などに微妙な違いがあり、本質的な課題の抽出が難しかったという。

 そこで新たに共通の指標となる「設備総合効率」を生み出した。「時間稼働率」「性能稼働率」「良品率」を合わせて算出する。「設備の負荷時間の中で、本当に付加価値を生み出している時間を見ることができる」(大谷副社長)。

 基礎となるデータは、生産数量や生産時間をはじめ、設備の停止回数やその要因、加工条件など多岐にわたる。2016年に入って振動や音、画像なども収集して、精度を高めた。

人が成長しないと効果を出せない


 例えば、設備性能に起因するロスは、一時的なトラブルによる「チョコ停」や速度低下などの原因を特定することで減らせる。データ分析や原因の特定は基本的に各工場の役割としている。画一的な目標設定や改善指示を出すようなことはせず、自主性を尊重する。「人が成長しないとIoTモデルは効果を出せない」(同)とも言える。

 各工場から本社に集めたデータは、工機技術本部が設備の改善・改良に生かす。アジアなど新興国シフトが進む中、オペレーターの経験や技量を踏まえ、単純に高速化・自動化を進めるのではなく、現地の実情に合った使いやすさを重視する。

 設備総合効率の数値はグループ各社間でオープンにし、他の工場を参考にしながら目標値を設定できるようにした。16年度は主要12工場で取り組みを進める中で、設備総合効率の運用が各社に浸透するとともに、当初は想定していなかった課題が各所の製造現場内で明確になってきた。今後、取り組みの継続と定着を通してコストダウンを見込む予定だ。
                  

900種類のパイプ製品を管理


 金属パイプ加工の武州工業(東京都青梅市、林英夫社長)は、自動車、医療機器、航空宇宙の3分野向けに月平均約90万本・900種類のパイプ製品を生産する。これだけ多品種の製品を48時間という短いリードタイムで生産するために一個流し生産(いわゆるセル生産)という独自の生産体制を敷いている。

 従来はライン生産を採用していたが、大口取引先である自動車・自動車部品メーカーからのコストダウン要請に対応するため、1987年から一個流し生産へ生産方式を大きく転換した。

 同社の一個流し生産では、一人の作業者が材料調達から組み立て、検品(品質管理)、出荷管理まですべての工程の責任を担う。それゆえ一個流し生産は作業者個人の技量に依存するため、作業者ごとの作業のバラつきを是正し、製品の品質を確保するために独自に開発した生産管理システム「BIMMS」を活用する。

 このBIMMSは、日ごとの生産数量と在庫をリアルタイムに管理するウェブ版生産管理システムであり、「日々決算と棚卸しをする仕組み」(林社長)のシステムになっている。

 実際、一個流し生産する作業者が出退勤、生産指示(注文内容)、生産実績管理(進捗)、品質管理、工程不良管理(寸法測定)、倉庫在庫管理など各種の情報をリアルタイムにタブレット端末で入力する。それにより日単位で生産量と在庫を管理できる、まさしく決算と棚卸しを実現できるシステムとなっている。

 また、BIMMSでは生産開始から出荷までの情報をリアルタイムで管理できるので、「いつ」「だれが」「どの材料で」「製造・出荷」したのかを把握でき、トレーサビリティーの管理にも役立てられる。さらに、工程不良の管理もするので不良発生のラインと工程を把握でき、不良低減の改善にもつなげられる。

画像検査機で寸法を自動測定


 同社は一個流し生産の効率を上げるため、BIMMSに対して現場の作業者が手入力しているデータを自動で入力できるようにするため自作のIoT化にも取り組んでいる。

 例えば、部品の棚に無線識別(RFID)チップを設置して部品の持ち出しをタブレットで読み込ませたり、パイプ加工機の摺動部に携帯情報端末「アイポッド タッチ」を設置し、アイポッドタッチに内蔵される加速度センサーを利用して加工機の動きを感知することでそれぞれのデータをBIMMSに自動入力する。

 ちなみにパイプ加工機のIoTでは、アイポッドタッチの歩数計機能を応用して加工ペースを設定しておくことで、実際のパイプ加工のペースが設定より早いのか遅いのかをリアルタイムで自動測定する。

 また、金属材料の再なましや乾燥に用いる電気炉には、温度センサーをつなげたパソコンを設置し、電気炉の温度変化をリアルタイムに自動測定して不良品の発生を防いでいる。

 さらに、設備のインラインに画像検査機を設置し、加工品を装置にセットするだけで2カ所の寸法を同時測定(全周の検査と判定)できる自動測定機も内製化している。

 センサー類や設備から取りだすデータをサーバーに転送するための多チャンネル情報処理装置も小型ボードコンピューター「ラズベリーパイ」を用いて内製しているように、同社はIoT機器の多くを自前で製作している。

 このようなIoTの導入により、BIMMSに対する生産現場での情報収集を自動化し、手入力を減らすことで一層の生産性向上へとつなげている。

METIジャーナル2018年04月11日


日刊工業新聞社2018年4月19日
松井里奈
松井里奈 Matsui Rina 総合事業局イベント事業部 副部長
表彰式後には、受賞各社にご登壇いただきコメントをいただく予定です。スマートファクトリー化を成功させるヒントが見つかるかもしれません。

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