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「第4次産業革命の恩恵を受けるのは中小企業だ」(冨山和彦)

冨山和彦氏に聞く「大企業の下請けというイメージも捨て去るべき」
「第4次産業革命の恩恵を受けるのは中小企業だ」(冨山和彦)

経営共創基盤・冨山社長インタビュー「飲み込まれるのが嫌なら、自分が変われ」

 IoT(モノのインターネット)、人工知能(AI)など先端技術が産業を大きく変えようとしている。国もこうした変革に向き合うべく、新戦略「コネクテッドインダストリーズ」を策定した。ただ、日本にとっては課題も少なくない。かつて産業再生機構の創設に携わり企業支援の第一人者として知られる冨山和彦経営共創基盤社長に、国の向かうべき方向性を聞いた。

 ーIoTなどで産業が激変し第4次産業革命とも称される中、経済産業省がコネクテッドインダストリーズという新たなスローガンを掲げました。どんな印象を持っていますか。
 「まず、何に革命的なインパクトがあるのかを考えると、製造業の生産性向上や全体最適化などはごく一部でしかない。ドイツのインダストリー4・0(I4・0)などは製造業に焦点を当てているが、I4・0で目指していることの多くは日本は既に実現できている。自動化や『かんばん方式』がその代表例だ」

 「今起きようとしていることは、それよりもスケールが大きい。例えば、製造業とサービス業の融合。第1次産業、2次産業、3次産業という切り分けは、もはや意味を成さなくなる。コネクテッドインダストリーズは、旧来の産業の枠を越えて最適化しようという概念。比較的、起きようとしていることの方向性を正しく捉えていると思う」

全ての産業に果実


 ーコネクテッドインダストリーズは、あらゆる要素を“つなげる”ことで新たな価値が生みだす構想です。どんな価値の創出に期待しますか。
 「AIは自動化革命を引き起こすだろう。これまで人間が携わってきたさまざまな仕事が自動化される中、ネットワークでつながっていれば、最適な形で自動化できるはずだ。また、ロボットは稼働しないと生産性が下がってしまうが、つながることで稼働が最適化され、そうしたリスクの低減が可能になる」

 「医療分野における期待値も大きい。著名な先生はいつも忙しいものだが、それに準ずる診断能力をAIが持つことができれば、多くの命が救われるはずだ。生産性が上がり人への負荷が軽減されれば、病院側にとってもメリットになる。ほぼ全ての産業が、果実を得られるのではないだろうか」

デジタル革命はバーチャルからリアルに


 ー日本はどう強みを打ち出せば良いでしょうか。
 「デジタル革命は今まで主にバーチャル(仮想)の世界で起きていたが、それがどんどんリアル(現実)の方向に向かっている。一例が自動車分野だ。ソフトウエアとハードウエアの融合により、自動走行という革命的な技術が生まれている。シリコンバレー的なソフトの領域だけでは、世の中は変わらない。日本が得意とするハードの領域が、これからもっと重要になっていく」

 「リアルの世界はバーチャルより厳しい。スマートフォンの不具合が世の中に深刻な影響を及ぼすことは少ないが、自動車ではそうはいかない。日本の“真面目さ”が生きるのではないだろうか。医療や農業といった分野でも、同じことが言える」

 「また、AIなどによる自動化革命は、省人化につながるので短期的には軋轢を生みやすい。だが日本の出生率を考えると、当分は人が余る状態にはならないだろう。つまり、他の先進国と比べ自動化への抵抗感が少ない。これは非常に有利な点だ」

イノベーションは非連続性から


 ー逆に弱みはどこにありますか。
 「真に革命的なイノベーション(技術革新)は、飛び地的に一気に飛躍する“非連続性”、そして多様性から生まれる。だが、大企業を中心に日本の産業は連続的な営みを基に発展してきた。新卒者の一括採用などにより、人材も同じタイプに育っていきやすい。イノベーションに必要な非連続性、多様性とは、総じて相性が悪いのが実情だ」

 ー弱みを克服するためにすべきこととは。
 「技術が急速に変化する中、既存の大企業は、比較的オープンで非連続性を獲得しやすいベンチャー企業、中間的立場の大学と3者でうまくエコシステム(複数の組織が結びつき共存共栄するための仕組み)を形成するべきだ。必ずしも、日本の大学である必要はない。米国のスタンフォード大学、マサチューセッツ工科大学(MIT)などでもいい。エコシステムは世界各地で作ることができる」

 ーただ、現状ではエコシステムを作りきれていません。
 「日本の大学にも問題がある。例えば、スタンフォード大学では優れた基礎研究を応用に結びつけ、得られた果実を再び基礎研究に還元する仕組みができている。ここ20年ほどで出来上がったこの好循環が、スタンフォード大に繁栄をもたらしている。日本の大学に比べ財政基盤が強いのも、このためだ」

 「日本だと基礎研究と応用研究がトレードオフ(一方を追求すれば他方が犠牲になる状態)の関係になると言う人がいるが、間違っていると思う。革新的な応用研究は、優れた基礎研究から生まれるものだ。基礎研究がないと、将来は枯れてしまう。トレードオフに見えてしまう日本のモデルを一度否定し、東京大学などが欧米トップ大学のようなあり方を目指していくべきではないだろうか」

勢いでなく、技術で勝負するベンチャーを


 ーベンチャー企業についてはどんな問題意識を持っていますか。
 「元々、日本のベンチャーは勢い勝負のいわば“ストリートファイター系”が多い。例えばペプチドリームのような国を越えて勝負できる技術を持つベンチャーは、まだ少数派だ。産業が労働集約型から知識集約型にシフトする中、技術系ベンチャーがもっと出てこないといけない。また、日本の強みであるハードの要素を融合させるとなると、資本力も重要になる。知識集約型かつ資本集約型の事業構造を目指すべきだ」

 「日本の大企業にとっても、勝ち残るためにはベンチャーの力が不可欠。互いに強みを出してウィン-ウィンの関係を築けるはずだ。ただそのためには、大企業が内側から変わらないといけない。一番の問題は、ベンチャーの経営者と話をする時、大企業側から出て行くのが部・課長級の人材になることだ。これでは、迅速な意思決定はできない。小さな企業でも社長は社長。相手役は大企業でも経営者が務めないといけない。シリコンバレーでは常識だ」

 ー日本への厳しい意見は、危機感の表れでしょうか。
 「ハードなどリアル側の技術が、ソフト系の企業に買われるというシナリオは十分にあり得る。米グーグル、米アマゾンといった“巨人”たちの時価総額は、日本の大企業とは比べものにならない。海外勢の傘下に入るのが嫌ならば、変わることだ。まずは経営者が“個”の力を磨くことが大切。修羅場をくぐり抜けてきた海外の強者たちと対峙するため、レベルアップしないといけない」

中小企業こそ次代の主役


 ー企業のあり方、産業の構成はどう変わっていくのでしょうか。
 「まず、これから主役になる企業の1社あたりの雇用数は確実に減っていく。今ですら時価総額がトップ級の企業の従業員数は、昔より少ない。労働集約型から知識集約型に移る上で、必然の流れだ。企業は雇用の規模ではなく、1人当たりの生産性を誇るようになる。そういう意味では、これからは中小企業の時代とも言える」

 「ただ問題は、日本の地方の中小企業にあまり自覚がないこと。もし今変われば、次代の主役になれる可能性があるのにだ。大企業は、そのためのツールを提供する役に回ってもいい。IoTなど第4次産業革命の恩恵は、製造業のほか農業、サービス業、建設業などを支える中小企業が被るべきだ。中小企業が大企業の下請けという古い産業のイメージも、捨て去るべきだろう」
※内容は当時のもの
【略歴】
冨山和彦(とやま・かずひこ)東京大学法学部卒、スタンフォード大学経営学修士(MBA)、司法試験合格。ボストンコンサルティンググループ、コーポレイトディレクション代表取締役を経て、2003年に産業再生機構設立時に参画しCOOに就任。解散後、IGPIを設立、数多くの企業の経営改革や成長支援に携わり、現在に至る。 パナソニック社外取締役 東京電力ホールディングス社外取締役、経済同友会副代表幹事。その他、多くの政府関連委員を務める。57歳。
「スマートファクトリーJapan 2018」【出展者募集中】
『スマートファクトリーJapan2018』
 日刊工業新聞社は「スマートファクトリーJapan 2018」を2018年5月30日(水)~6月1日(金)の日程で、東京ビッグサイトにて開催します。本展示会は、製造工場においてスマートファクトリーを実現するうえで、欠かすことのできない「IoT」や「インダストリー4.0」を搭載した情報管理システムをはじめ、製造設備・装置、その他、生産工場に関する技術・製品を展示公開いたします。
 3回目を迎える今回は「スモールスタート支援ツール」の展示分野を設けたほか、また、同時開催の「2018防災産業展in東京」との連動企画として『スマートファクトリーを支える防災産業ゾーン』、昨年開催した「IoT・AI Innovation Forum」を『IoT・AI Innovationゾーン』として、新たに2つの特設ゾーンを設けます。
METジャーナル2017年07月05日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
昨年7月にMETIジャーナルで掲載した冨山さんのインタビューを再掲。先日開催されたCESも自動車産業の大きな変わり目を感じた。ベンチャー・スタートアップや中小が大手企業と積極的に連携していく形を日本でももっともっと多くつくらないと。

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