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新幹線の亀裂問題、川重だけに責任を押し付けていいのか

関係者が協力して原因の徹底究明を
新幹線の亀裂問題、川重だけに責任を押し付けていいのか

中央が川重の金花芳則社長

 人命に直結する重要部品だけに、製造者である川崎重工業に責任を限定せず、関係者が協力して原因の徹底究明を急がねばならない。

 N700系新幹線の台車枠に亀裂が発生した問題で、川重が製造段階での不備と当面の対応を発表した。それによれば同社は部材の精度によって調整が必要な時に、削ってはならない台車の強度部材を削り込んでいたことが分かった。

 別の作業基準では0・5ミリメートルまでの削りを認めており、作業班長はこれを拡大解釈して問題の台車枠に適用した。この時、作業員には0・5ミリメートルという限度を指示しておらず、加工後も現物を確認しなかった。

 調査の結果、問題の車両以外でも当該箇所の板厚が図面寸法の7ミリメートルを割り込んだ台車枠が多数、見つかったという。

 問題の亀裂の原因は必ずしも明確ではない。もともと何らかの割れが存在しており、板厚を薄くしてしまったことが亀裂の進展を早めた可能性があると推定している。

 川重は、品質管理が不十分なため設計上の公差に収まらない部材を受け入れたことと、作業基準を現場が守らなかったことのミスを認め、管理体制の見直しと作業員教育の徹底などの対策を決めた。

 またN700系新幹線以外の台車枠では、図面指示通りの作業をしていたことを確認したという。

 現時点では、川重の作業不備が亀裂そのものの原因だと特定できたわけではない。ただ、もし高速走行中の新幹線車両で台車枠が割れれば多数の死傷者が発生する重大事故につながる。製造者まかせにせず、鉄道事業者をはじめとした関係者が協力して原因究明を急ぎ、再発を防ぐことが最優先である。

 日本の高品質なインフラの代表として知られる新幹線で、こうした不祥事が起きたことは残念でならない。金属製品は熟練工の作業知識と適切な検査で品質を維持する。第4次産業革命のようなイノベーションと平行して、現場の暗黙知をきちんと把握し、次代につなげていく地道な努力も欠かせない。
日刊工業新聞2018年3月2日
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
 もちろん川重の責任は重い。2月28日の会見で金花芳則社長は「利用者や関係者に多大なご迷惑をおかけした。二度とこのようなことが起こらないよう、真摯(しんし)に反省する」と陳謝。外部の知見も入れた「品質管理委員会」(仮称)を新設し、全社を挙げて品質管理体制を強化する姿勢を示した。  川重やJR西日本によると、亀裂の入った台車は07年に川重の兵庫工場(神戸市兵庫区)で製造。コの字形をした鋼材同士を口の字形に台車枠を溶接する際、コの字形の曲げ加工ミスによる歪(ゆが)みを修正するため、底面を削った。この結果、図面寸法より板厚が薄くなり、強度不足が発生した。板厚の仕様は7ミリメートルと規定されていたが一部を削ったため、最も薄い部分は4・7ミリメートルだった。  設計基準に満たない台車はJR西が101台(亀裂台車を含む)、JR東海が46台を保有する。両社とも順次交換し、製造費用は川重が全額負担する。JR西の平野賀久副社長は「損害賠償のケースも出ると思うが、今は白紙」と述べるにとどめた。  一方でこれまで新幹線や原発をはじめ日本の大規模インフラはオペレーターの力が圧倒的に強く、メーカー側は指示待ちの意識もあったはず。川重は海外で鉄道車両を数多く受注している。オールジャパンによるインフラ輸出はその責任体制やプロジェクト管理が今のままではとても心許ない。

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