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カーライル入りで地方の中小「医薬品CMO」が一気にグローバル企業へ

創業者の大胆な決断の背景にあったものとは
カーライル入りで地方の中小「医薬品CMO」が一気にグローバル企業へ

カーライルは三生医薬の製剤技術を評価(植物性製剤)

 我が国では海外からの直接投資が伸びているものの、その水準自体はまだまだ低い。しかし、外資を導入することで、事業承継問題の解決、経営管理の改善、社内人材の成長・モチベーションの向上、海外販路の拡大などのきっかけをつかんだ中小企業も現れている。健康食品や医薬品などの受託製造を手がける三生医薬(静岡県富士市)も、そんな中の一つ。外資導入を機に、ローカルな中小企業からグローバル企業へと発展を遂げようとしている。

事業承継をきっかけに


 「強力な天才肌リーダーがすべてを決め、社員がその指示に正確に従って実行することを徹底して、急激に成長してきた、そんな会社だった」。三生医薬の会長兼CEOの松村誠一郎さんは、2015年2月に就任した当時のことをそう振り返る。同社は1993年に創業し、それまでは技術者でもある創業者が一人で経営を引っ張ってきた。創業から20年で売上高を約160億円、従業員数は約600人まで成長させたのだから、素晴らしい創業者経営の成功例と言える。ただ創業者には後継者がおらず、企業が成長するに従い、事業承継問題が重くのしかかっていた。

 創業者の決断は、大胆にも米国の投資ファンドであるカーライルグループへの全株式の売却。自ら身を引くとともに、カーライルグループが主導する経営にバトンを渡し、創業者自身が願っていた海外展開を加速し、さらなる成長を遂げる道を選んだ。松村さんはカーライルグループのサポートを受けて、外部から次世代を担う経営者として招へいされた。

 創業社長以下、全社員が前だけを見、全速力で急成長させた会社であったため、経営のガバナンス、人事評価・等級制度、教育の仕組みなど、会社の基盤たる様々な制度・仕組みが脆弱であった。

 社員はトップが決めたことを粛々とこなすという企業文化。それが外資傘下に入ることで、大きな変革を余儀なくされた。松村さんはカーライルグループとともに、CFO(最高財務責任者)や人事、研究開発、生産、営業のトップを次々と社外から採用。これら外部人財と創業以来経営を支えてきたベテラン経営陣を合体して、多様化した経営陣を創り上げた。並行して、年功序列的であった給与体系を、よりフェアな実力主義の制度に切り替えるなど、社内の体制を整えていった。

「面白いことができそう」


 「成果を上げた者が報われる、フェアで透明性の高い制度。社員が自らリスクとベネフィットを考慮し判断した上でのチャレンジを推奨し、成功したら賞賛し、失敗しても次への学びとして蓄積する文化。地方のドメスティックな中小企業だが、その中身は確実にグローバリゼーションが進んでいる」と松村さんは話す。

 取締役会はカーライルからの社外取締役が厳しい質問・疑問を繰り出し、毎回のように侃々諤々の議論になるというところは「ガバナンスがしっかり機能しているグローバルカンパニーと言える」(松村さん)。社員に要求される仕事の水準も上がっているが、若い世代ほど「面白いことができそう」とモチベーションが高まっているという。

 新卒採用も活性化、中途採用では外国人留学生も入社。経営幹部始め、要職には社外から招へいした人財が増えている同社だが、次代を担う課長級には内部の若手登用を加速し、新体制以来、10人以上の若手社員を引き上げた。

製剤技術を評価


 カーライルグループが同社への投資を決めたのは、「安定供給できる植物性ソフトカプセル、胃でなく腸で溶ける腸溶性ソフトカプセル、応用範囲が広く、国内外でも10社に満たない企業のみが提供できるシームレスカプセル、などの差別化された独自製剤を開発、実現してきた」(松村さん)という製剤技術の高さを評価したためだ。

 買収後はカーライルという「グローバルブランドとグローバルネットワーク」(同)を生かして、国内外で販路を開拓。5%程度だった海外売上高比率は2017年度には10%を超え、中期的には30%超を視野に入れる。

 同社ではCMO(受託製造会社)からCDMO(受託開発及び製造会社)へとすでに進化。製剤技術だけでなく、原料の開発も進めている。これら独自技術を武器に、受身ではなく、市場分析に基づき積極的に顧客のニーズに合うと思われる解決策を提案する提案型営業を加速。最近ではマレーシア企業と協業し、東南アジア向けに健康補助食品の受託生産に本格的に乗り出した。

 同社の国内シェアは約15%。業界トップに手が届くところまで迫ってきた。今後、海外ビジネスが拡大していけば、スケールメリットを目指した業界再編の可能性も出てくるだろう。その時に、「内なる国際化」を進めた同社が台風の目になっているかもしれない。
「確実にグローバリゼーションが進んでいる」(松村さん)
尾本憲由
尾本憲由 Omoto Noriyoshi 大阪支社編集局経済部
企業は公器であるとつくづく思う。たとえ創業社長であろうと、その企業のポテンシャルを自分では最大限生かすことができないと判断すれば、潔く会社を手放すべきなのだろう。人生100年時代、そもそも創業する才能があるのなら、財産を元手に次々と新たな企業を立ち上げてもよし、起業家に出資してもよし。単なる「社長」という肩書きより、そういう生き方にスポットライトがあたり、社会的に評価される時代も近いのかも知れない。

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