セダン不振、「マツダ6」テコ入れなるか
マツダは3月6日からスイスで開催されるジュネーブモーターショーに旗艦モデル「マツダ6(日本名アテンザ)」のワゴンモデルを世界初公開する。
2017年11月のロサンゼルスモーターショーで世界初公開したセダンモデルと同様、内外装ともに上質感を強調したデザインに仕上げた。
17年10月の東京モーターショーで世界初公開した次世代ガソリンエンジン「スカイアクティブ・エックス」搭載のコンパクトハッチバックコンセプト「魁(かい)コンセプト」や次世代デザインのコンセプトモデル「ビジョン・クーペ」を欧州初公開する。
マツダのデザイン・ブランドスタイル担当である前田育男常務執行役員に聞く
―マツダ車の「魂動デザイン」が好評です。それを受け継ぐ、次世代のコンセプトモデルを2台「東京モーターショー2017」に出品しました。改めて位置づけを教えてください。
「前回の東京モーターショーに出品した『RX-VISION』と、今回出品した『VISION COUPE』の2台が、次世代のマツダデザインの“ブックエンド”になっています。つまり、この2台のクルマで次世代マツダデザイン全体を表現しようとしているわけです。前者は色っぽくて艶っぽい『艶』、そして後者はシャープで端正な『凜』を表現しています。今回もう1台出品した『魁 CONCEPT』は、艶っぽい前者のデザイン表現を受け継いでハッチバックに置き換えたものです」
―魂動デザインでは野生動物の持つ生命感や一瞬の動きの美しさを車に宿らせようというのを基本的な考え方に掲げました。この点はどう変わっていくのでしょうか。
「クルマに命を与えるというテーマは変えません。そこを基本にしながら、表現をよりシンプルにすることにトライしようとしています。いろいろな要素をすべて除いていって、光の映り込みで生命感を表現しようと。周りの景色や車の角度が変わることで残る、キラキラした残像から生命感を感じてくれたらいいなと。なぜそんなことをやろうとしているかというと、根底にはとにかくクルマを自然と一体化させたいということがあります。クルマはあまりに人工的で、主張が激しくて環境を壊すことも多いですよね。そうではなく、どんなきれいな自然の中に置いてもその景色の中の一部になっていくようにしたいのです」
「これは非常に高度なタスクを自分たちに課していると思っています。というのも、いろいろなものをそぎ落としながら美しい形を追求するのはすごく怖いんですよ。どんどん特徴がなくなって、身ぐるみはがれていく感じ。だけど全部はぎ取った時に出てくるものが度肝を抜かれるような光の動きだったりする。余分なものをそぎ落としていく日本的な美の感覚も背景にはあります。過去にもマツダは『ときめきのデザイン』といって、光と影をテーマにきれいな映り込みを作ろうということをやっていましたが、周りの環境に合わせて映り込みをどう変えていくかまでは創造できていませんでした。『VISION』と名付けたモデルは、いわゆる普通のコンセプトカーではありません。次の世代に込めたビジョンを表現したもので、次世代車にも何らかのこの形が反映されていくというコミットメントのようなものです」
―ショーの手応えはどうでしたか。
「結構大きな反響をいただきました。あの2台には、大げさでも何でもなくデザイナー生命すべてを注ぎ込んだ感じです。絶対成功させるというか、世界が注目するものを作りたいとずっと考えていたので、モーターショーが終わった後は気が抜けたような感じになっていました。魂動デザインは今までいい評価をいただいてきましたので、次世代車のデザインは決して失敗できないというわけで、この数年間のプレッシャーはすごかったです。会場で見ていると、特にVISION COUPEの方は、ターンテーブルで回っている姿を延々と眺めておられるお客さまが多くいらっしゃいました。一般の方々が美しいものに飢えている感じもあるのかなと思いました」
―飢えているといいますと?
「やはり今日、効率化を最重要課題として追求するような時代にあって、工業デザインの世界でも短期的に作ることができる形が大きなトレンドになっていると感じています。美しさを創り込もうとするとどうしても時間がかかるのです。一瞬で美しいものなんてできないですし、ありとあらゆる形が世の中に氾濫している中からシンプルで美しいものを創るって結構大変なんです。デザイナーがその困難に立ち向かわなければならない一方で、企業がそれを求めないケースも多い。結果、一般の人たちもそういう美しいものに接する機会が少なくなっているのではないでしょうか」
―お手軽に短期的に作ったデザインってすぐわかるものですか。
「一瞬でわかりますね。今はツールがデジタルに置き換わっているので、デジタルツールならではの特徴もあります。というのもデジタルツールはシステム上、複雑な形もすべて0と1に置き換えていくので、複雑なものを簡素化するという特徴がある。使う側も、あえて数値化しにくい、微妙な変化や激しい変化の形を作らなくなってきていますね」
―ちなみに今回のコンセプトモデルは、どれくらい時間をかけて作ったのですか。
「VISION COUPEでいうと、ゼロからスタートしてクルマができあがるまでに2年かかっています。あの立体のフォルムを作るだけでも10カ月くらいかかっています。何回ダメ出しをしたか覚えてないくらい。光を映し込むサイドの面の造形も、本当に微妙な変化なんですね。すごく我慢しないとできてこないような形をしていまして、パッとデジタルに置き換わる簡易なものでは創れません。おそらくあれを3次元測定機で計測して再現しても、一発で同じものはできないでしょうね」
2017年11月のロサンゼルスモーターショーで世界初公開したセダンモデルと同様、内外装ともに上質感を強調したデザインに仕上げた。
17年10月の東京モーターショーで世界初公開した次世代ガソリンエンジン「スカイアクティブ・エックス」搭載のコンパクトハッチバックコンセプト「魁(かい)コンセプト」や次世代デザインのコンセプトモデル「ビジョン・クーペ」を欧州初公開する。
日刊工業新聞2018年2月13日
「全部はぎ取った時に出てくる」
マツダのデザイン・ブランドスタイル担当である前田育男常務執行役員に聞く
―マツダ車の「魂動デザイン」が好評です。それを受け継ぐ、次世代のコンセプトモデルを2台「東京モーターショー2017」に出品しました。改めて位置づけを教えてください。
「前回の東京モーターショーに出品した『RX-VISION』と、今回出品した『VISION COUPE』の2台が、次世代のマツダデザインの“ブックエンド”になっています。つまり、この2台のクルマで次世代マツダデザイン全体を表現しようとしているわけです。前者は色っぽくて艶っぽい『艶』、そして後者はシャープで端正な『凜』を表現しています。今回もう1台出品した『魁 CONCEPT』は、艶っぽい前者のデザイン表現を受け継いでハッチバックに置き換えたものです」
―魂動デザインでは野生動物の持つ生命感や一瞬の動きの美しさを車に宿らせようというのを基本的な考え方に掲げました。この点はどう変わっていくのでしょうか。
「クルマに命を与えるというテーマは変えません。そこを基本にしながら、表現をよりシンプルにすることにトライしようとしています。いろいろな要素をすべて除いていって、光の映り込みで生命感を表現しようと。周りの景色や車の角度が変わることで残る、キラキラした残像から生命感を感じてくれたらいいなと。なぜそんなことをやろうとしているかというと、根底にはとにかくクルマを自然と一体化させたいということがあります。クルマはあまりに人工的で、主張が激しくて環境を壊すことも多いですよね。そうではなく、どんなきれいな自然の中に置いてもその景色の中の一部になっていくようにしたいのです」
いろいろなものをそぎ落とす
「これは非常に高度なタスクを自分たちに課していると思っています。というのも、いろいろなものをそぎ落としながら美しい形を追求するのはすごく怖いんですよ。どんどん特徴がなくなって、身ぐるみはがれていく感じ。だけど全部はぎ取った時に出てくるものが度肝を抜かれるような光の動きだったりする。余分なものをそぎ落としていく日本的な美の感覚も背景にはあります。過去にもマツダは『ときめきのデザイン』といって、光と影をテーマにきれいな映り込みを作ろうということをやっていましたが、周りの環境に合わせて映り込みをどう変えていくかまでは創造できていませんでした。『VISION』と名付けたモデルは、いわゆる普通のコンセプトカーではありません。次の世代に込めたビジョンを表現したもので、次世代車にも何らかのこの形が反映されていくというコミットメントのようなものです」
―ショーの手応えはどうでしたか。
「結構大きな反響をいただきました。あの2台には、大げさでも何でもなくデザイナー生命すべてを注ぎ込んだ感じです。絶対成功させるというか、世界が注目するものを作りたいとずっと考えていたので、モーターショーが終わった後は気が抜けたような感じになっていました。魂動デザインは今までいい評価をいただいてきましたので、次世代車のデザインは決して失敗できないというわけで、この数年間のプレッシャーはすごかったです。会場で見ていると、特にVISION COUPEの方は、ターンテーブルで回っている姿を延々と眺めておられるお客さまが多くいらっしゃいました。一般の方々が美しいものに飢えている感じもあるのかなと思いました」
美しさには時間がかかる
―飢えているといいますと?
「やはり今日、効率化を最重要課題として追求するような時代にあって、工業デザインの世界でも短期的に作ることができる形が大きなトレンドになっていると感じています。美しさを創り込もうとするとどうしても時間がかかるのです。一瞬で美しいものなんてできないですし、ありとあらゆる形が世の中に氾濫している中からシンプルで美しいものを創るって結構大変なんです。デザイナーがその困難に立ち向かわなければならない一方で、企業がそれを求めないケースも多い。結果、一般の人たちもそういう美しいものに接する機会が少なくなっているのではないでしょうか」
―お手軽に短期的に作ったデザインってすぐわかるものですか。
「一瞬でわかりますね。今はツールがデジタルに置き換わっているので、デジタルツールならではの特徴もあります。というのもデジタルツールはシステム上、複雑な形もすべて0と1に置き換えていくので、複雑なものを簡素化するという特徴がある。使う側も、あえて数値化しにくい、微妙な変化や激しい変化の形を作らなくなってきていますね」
―ちなみに今回のコンセプトモデルは、どれくらい時間をかけて作ったのですか。
「VISION COUPEでいうと、ゼロからスタートしてクルマができあがるまでに2年かかっています。あの立体のフォルムを作るだけでも10カ月くらいかかっています。何回ダメ出しをしたか覚えてないくらい。光を映し込むサイドの面の造形も、本当に微妙な変化なんですね。すごく我慢しないとできてこないような形をしていまして、パッとデジタルに置き換わる簡易なものでは創れません。おそらくあれを3次元測定機で計測して再現しても、一発で同じものはできないでしょうね」
2017年12月28日付METIジャーナルの記事から抜粋