開業率が全国トップ、ベンチャーにとって沖縄は「楽園」なのか
起業目的の移住増える。VCの少なさ克服へ
沖縄でベンチャーに追い風が吹いている。国税庁によると2016年度に沖縄県内法人数は前年比5・1%増加し、全国の増加率を上回った。都道府県別の開業率でも7・0%(中小企業白書)で全国トップ。訪日外国人客の増加を背景にした企業の積極的な進出に加えて、沖縄ならではの起業に適した環境が好循環を生んでいる。行政を中心に企業を育成する動きも活発化している。
独特の気候と文化を持つ沖縄を訪れる観光客は年間1000万人に迫る。だが魅力は観光だけではない。沖縄振興開発金融公庫(沖縄公庫)が17年に実施した移住意向調査では、沖縄への移住希望者のうち、移住後の就業形態を自営業(起業)としたのは17・4%。沖縄以外への移住希望者の11・4%に比べ起業意識が高い。
帝国データバンクの17年調査によると、沖縄の女性社長比率は10・32%で全国2位(全国平均7・69%)。中でも就任経緯の項目では「創業者」が41・7%と九州・沖縄地区の平均33・1%を大きく上回る。
沖縄で企業数を伸ばしているのはIT関連産業。県の調査では17年1月の関連立地企業数は427社。前年比プラス40社(10・3%増)、5年前に比べてプラス190社(80・1%増)と大幅に伸びた。
沖縄発ベンチャーのPayke(ペイク、那覇市)は訪日外国人客向け店舗支援システムを手がける。古田奎輔CEO(最高経営責任者)は講演で沖縄の起業環境を「市場規模がちょうど良い」とし、サービステストのしやすさや初期顧客のつくりやすさを挙げる。他方、課題としてベンチャーキャピタル(VC)の少なさ、事業規模拡大に東京の市場が必要な点を指摘する。
資金調達先の少なさを補完するのが、企業への出資機能を持つ沖縄公庫。有望な新興企業に出資し、そこに地銀が融資するなど官民連携の支援も行う。経済特区による税制優遇のほか、補助額や補助率の大きい自治体の補助金もあり、ベンチャーの重要な資金源だ。
地銀も起業支援に力を入れ始めた。琉球銀行は16年度に「スタートアッププログラム」を掲げて起業家育成に乗り出した。現在は投資家にアピールする「ピッチイベント」を開くなど出資先や業務提携のマッチングといった日常的支援が主体で、「支援先はシードの段階がほとんど。
地銀のブランドを使い突破口にしてもらう」(法人事業部担当者)。新規事業を求める地場大手企業と結びつけ、既存取引先の課題を解決する側面も持つ。
県内の全民間金融機関による連携の動きもある。9月に沖縄銀行と琉球銀行、沖縄海邦銀行、コザ信用金庫(沖縄市)など7者が連携協定を締結。ベンチャー支援のリバネス(東京都新宿区)、大学関連のNPOも参加、起業家発掘から育成・資金供給まで行う「エコ・システム」構築に取り組む。
大学発ベンチャーにも期待がかかる。沖縄プロテイントモグラフィー(沖縄県恩納村)は、沖縄科学技術大学院大学の保有技術をもとに14年設立。琉球大学から脂肪幹細胞の培養液を原料にする高機能化粧品を開発する第1号ベンチャー、グランセル(同西原町)が今年2月に創業した。今後、理系分野で沖縄を代表する両大学によるシーズの事業化加速が望まれている。
沖縄は東・東南アジアとの航空物流網の整備や航空路線拡充など海外との結びつきを強めている。ピッチイベントでも同様だ。12月11日の「オキナワベンチャーマーケット」では2年目の「アジアンピッチ」のほか、内外の技術系ベンチャーによる「テックピッチ」を新たに実施した。
また内閣府沖縄総合事務局、沖縄県などが11月に主催した医療機器分野の国際フォーラムでは「メドテックアジア」として、台湾や米国の企業家によるピッチイベントを開いた。
海外を意識した次世代育成も盛んだ。07年から続く「リュウキュウ・フロッグス」は学生対象の起業家育成プログラム。米国シリコンバレー研修を通じて、社会課題をITで解決するビジネスプランを構築する。今年は中学1年生から大学3年生まで7人を選抜し、17日に聴衆の前で英語で最終プレゼンテーションを披露した。
在沖縄米国総領事館と沖縄科技大が実施する「スコア!」は、科学と起業、英語を組み合わせた高校生向けビジネスプランコンテスト。こちらも優勝チームには米国研修がプレゼントされた。
(文=那覇・三苫能徳)
独特の気候と文化を持つ沖縄を訪れる観光客は年間1000万人に迫る。だが魅力は観光だけではない。沖縄振興開発金融公庫(沖縄公庫)が17年に実施した移住意向調査では、沖縄への移住希望者のうち、移住後の就業形態を自営業(起業)としたのは17・4%。沖縄以外への移住希望者の11・4%に比べ起業意識が高い。
帝国データバンクの17年調査によると、沖縄の女性社長比率は10・32%で全国2位(全国平均7・69%)。中でも就任経緯の項目では「創業者」が41・7%と九州・沖縄地区の平均33・1%を大きく上回る。
沖縄で企業数を伸ばしているのはIT関連産業。県の調査では17年1月の関連立地企業数は427社。前年比プラス40社(10・3%増)、5年前に比べてプラス190社(80・1%増)と大幅に伸びた。
沖縄発ベンチャーのPayke(ペイク、那覇市)は訪日外国人客向け店舗支援システムを手がける。古田奎輔CEO(最高経営責任者)は講演で沖縄の起業環境を「市場規模がちょうど良い」とし、サービステストのしやすさや初期顧客のつくりやすさを挙げる。他方、課題としてベンチャーキャピタル(VC)の少なさ、事業規模拡大に東京の市場が必要な点を指摘する。
地銀、起業家と大手つなぐ
資金調達先の少なさを補完するのが、企業への出資機能を持つ沖縄公庫。有望な新興企業に出資し、そこに地銀が融資するなど官民連携の支援も行う。経済特区による税制優遇のほか、補助額や補助率の大きい自治体の補助金もあり、ベンチャーの重要な資金源だ。
地銀も起業支援に力を入れ始めた。琉球銀行は16年度に「スタートアッププログラム」を掲げて起業家育成に乗り出した。現在は投資家にアピールする「ピッチイベント」を開くなど出資先や業務提携のマッチングといった日常的支援が主体で、「支援先はシードの段階がほとんど。
地銀のブランドを使い突破口にしてもらう」(法人事業部担当者)。新規事業を求める地場大手企業と結びつけ、既存取引先の課題を解決する側面も持つ。
県内の全民間金融機関による連携の動きもある。9月に沖縄銀行と琉球銀行、沖縄海邦銀行、コザ信用金庫(沖縄市)など7者が連携協定を締結。ベンチャー支援のリバネス(東京都新宿区)、大学関連のNPOも参加、起業家発掘から育成・資金供給まで行う「エコ・システム」構築に取り組む。
大学発や海外に照準
大学発ベンチャーにも期待がかかる。沖縄プロテイントモグラフィー(沖縄県恩納村)は、沖縄科学技術大学院大学の保有技術をもとに14年設立。琉球大学から脂肪幹細胞の培養液を原料にする高機能化粧品を開発する第1号ベンチャー、グランセル(同西原町)が今年2月に創業した。今後、理系分野で沖縄を代表する両大学によるシーズの事業化加速が望まれている。
沖縄は東・東南アジアとの航空物流網の整備や航空路線拡充など海外との結びつきを強めている。ピッチイベントでも同様だ。12月11日の「オキナワベンチャーマーケット」では2年目の「アジアンピッチ」のほか、内外の技術系ベンチャーによる「テックピッチ」を新たに実施した。
また内閣府沖縄総合事務局、沖縄県などが11月に主催した医療機器分野の国際フォーラムでは「メドテックアジア」として、台湾や米国の企業家によるピッチイベントを開いた。
海外を意識した次世代育成も盛んだ。07年から続く「リュウキュウ・フロッグス」は学生対象の起業家育成プログラム。米国シリコンバレー研修を通じて、社会課題をITで解決するビジネスプランを構築する。今年は中学1年生から大学3年生まで7人を選抜し、17日に聴衆の前で英語で最終プレゼンテーションを披露した。
在沖縄米国総領事館と沖縄科技大が実施する「スコア!」は、科学と起業、英語を組み合わせた高校生向けビジネスプランコンテスト。こちらも優勝チームには米国研修がプレゼントされた。
(文=那覇・三苫能徳)
日刊工業新聞2017年12月19日